君想ふ~桜の木の下で~

たから聖

第1話

『ひな』は、まだ小学1年生……。


入学祝いに、代々伝わる大正琴を譲り受け、

楽譜も楽器も…ひなにとっては、おもちゃだった。

そんなひなは大正琴の…

(ビーンッ!)と跳ねる、まだ聞いた事の無い音にうっとりし…

ちょっぴり…お姉さんになった気分でいれた。



時は経ち……

楽譜がボロボロになるまで読み込んだ、小学生高学年時代…

ひなは、知らないうちに夜中まで…別室に籠り、

『ありがちなアレンジだよなぁ…。あ~あ。』


と独り言を言いながら、芸術祭に楽曲を発表する為に…練習にいそしんでいた。

ピックを指にはめ…

『ここ!ここで引っ掛かるよな?あーもぅ!』

芸術祭が近付くにつれ、ひなは時間も忘れて基礎にアレンジを加えていたのだ。


ひなには、想い人が居た。この芸術祭を成功させたら…告白しようと考えていた。

ベランダに出て…

すぅっ!と思い切り深呼吸をした。

楽曲のアレンジも間に合い、勝負師の様な手さばきで…ピックを選んでいた。

『いよいよ明日!君に決めた!』スッと3つ選び袋に閉じた。


芸術祭の当日…青空の元で…ひなは大正琴の単独ライブを始めた。

ひなは燃えていた。

【前座扱いなんて、くそくらえ!】

思い切り…大正琴に情熱をぶつける様に…かなで始めた。

会場に来訪していた音楽プロデューサーが、ひなに目を光らせ、じっくり聞き入っていた。


会場が1つになり、

【ジャラン……ッ!】と終わりを迎えると…来客者は、スタンディングオーベーションで拍手喝采だった。

『うぉぉーーー!!』と観客は騒いでいた。口笛を鳴らす客や…

『ブラボー!』と拍手する客…色々といた。

ひなは大正琴を置いたまま…舞台から飛び降りた。

【成功したのか分からない!でもあの歓声!熱い歓声!やりきったわ!】

ひなは十二単仕立ての衣装のままで、

その場を走り去ってしまった…。


公衆電話の扉を…

【バーン…ッ!!】と開いて…テレホンカードを慌てて出した。

ひなは告白もまだだったが、相手とは良く目が合っていた。


芸術祭の前日…

ひなのスマホに、

『見てる!頑張れ!』と メッセージが入っていた。

その言葉が…ひなの告白を後押しした。

【ピッピッ】と相手のスマートフォンに電話をした。


『一体、ワタシの事を…どんな風に思って……』

思考と鼓動が急激に荒ぶり出した。





と……その時。


ひなを呼ぶ声がした。

【ひなちゃん!ダメだなー音楽プロデューサーがひなちゃんに是非うちにって、挨拶がしたいって待っててくれてるよ!】


ひなは受話器を落とした。

『良かったな。おめでと!』と受話器から声が聞こえた。


ひなのマネージャーが、受話器を取り上げ、

『はいはい!分かりました。伝えておきます!』


ガシャーンッ!!

2人を繋ぐ電話は、切れてしまった。


ひなは……

『たった…あれだけ?

あれだけなの……?告白すら、出来ないじゃない!』

マネージャーが言い放った。


『ひな!これからは芸能活動を優先、恋愛は…御法度よ!イメージを作りなさい!!』


ひなは…うなだれて

泣いてしまった…。


最後に…この言葉を伝えて下さい…と、

ひなはメッセージカードをマネージャーに託した。


【君想う……

雲を数えて……心を移し……】

俳句なのか、歌詞なのか?マネージャーには…意味が分からなかった。




後日…テレビで生出演したひなは、別人のオーラを身にまとって…

とても様になっている、業界人と化していた……。





~君想う…完~

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