第15話:心臓が爆発して答えが出た
あれから3ヶ月が経った。
桐嶋さんの会社は超有能な猛者ばかりで、ついて行くだけでも大変。
だから、とっても楽しい。
知らないこと、分からないこと、できないことばかりだけど、それをクリアするたびに自分の成長を感じられる。
平日は労働基準法範囲内で猛烈に働き、休日は大都会東京をたっぷり満喫。
そんな今日は江里花さんとホテルでランチだ。
「やっと告白したのね、日向さん」
「知ってたんですか?!」
持っていたフォークとナイフを落としそうになる。
「やぁねぇ、キララちゃんの話を聞いていれば気づくわよ」
すみません。まったく気づきませんでした。
「それで、なんて返事をしたの?」
「……現在無期限保留中です」
平日以外は必死に考えたけど、答えはまだ出ない。
「キララちゃんは難しく考えることが好きね。簡単な話よ。日向さんのことが嫌いなら断ればいいし、好きなら付き合えばいいの」
「そこはもう答えが出てます」
嫌いだったらあの時点で断ってる。
そうじゃないから悩んでるのだ。
「じゃあ、何がネックなの?」
「……日向さんって、お父さんなんですよね」
あの二人の父親だって思うと、恋人として付き合うイメージがわいてこない。
「こういうのはどう?次会った時にドキドキしたら付き合う、しなかったら断る。告白されてもドキドキしないなら見込みゼロよ」
さすが既婚者経験者。説得力のある提案だ。
よっし、それでいこう!
と言っても、次に会う予定はない。
この3か月間で一度も連絡がない。
やっぱり寝て起きて忘れたのかな。
外回りから帰ってくると、オフィス内がなんだか騒がしい。
打合せに芸能人が来るとこうなるけど、直近でそういう案件はなかったはず。
誰かに状況を聞こうとした時、桐嶋さんから呼び止められた。
「ちょうど良かった!星さん、こっちに来てもらえる?」
よく分からないまま手招きされた会議室に入る。
面談でもするのかな?
「……え?」
ドアを閉めて振り返ると、信じられない人が中にいた。
持っていた鞄が床に落ちる。
「新規のお客様なんだけど、ぜひ星さんに担当してもらいたくて。よろしくね」
呆然とする私の肩をポンポンっと叩いて、桐嶋さんは出て行った。
「座ったらどうだ?」
「あっ、はい、失礼しました」
ダメダメダメ。しっかりしないと。お客様の前なんだから。
着席して呼吸を整える。
だけど脈拍が整わない。
ドキドキどころかバクバクしまくってる。
心臓って爆発したらどうなるんだろう。
そもそも爆発するのかな。
落ち着け!平常心戻ってこい!
耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!!
「どーして日向さんがここにいるんですか?!」
やっぱムリ!耐えるとかマジでムリ!
告っといて3か月間音信不通だった人が目の前にいたら誰だって叫びたくなるよ!
「仕事の依頼で来た」
そうでしょうね。そう言ってましたからね。桐嶋さんが。
じゃなくて!どーして依頼するんですかって話ですよ!
「売上、落ちましたか?」
毎日チェックしてたけど、この3か月間ちゃんとSNSの更新はしてる。
フォロワー数も減ってないし、メディアへの露出も増えてる。
売上が落ちる要素は見当たらないけど、一体どうしたんだろう。
「順調に伸びている」
「じゃあ、どうして依頼を?」
「コンテンツのストックがもうなくなる」
なるほど!そういうことか!
3か月分しか残してなかったからそうだよね。
でも新しく作る必要はないと思うけどなぁ。
「売上を伸ばすためではなく、更新するために作りたいと」
「そうなるな」
「でしたら、過去のコンテンツを使い回せば大丈夫ですよ」
今の立場で言うべきことじゃないと思うけど、事実そうなんだから仕方ない。
「リストかマニュアルでも作りましょうか?すぐできますけど」
「いや、いい」
歯切れが悪い。怪しい。
隠し事を見つけるために、ジッと観察してみる。
そういえば、今日スーツ着てる。
すごく社長っぽい。めちゃくちゃ似合ってる。
えっ、やばっ、かっこよ。
この人かっこよすぎない?
あー、だから帰ってきた時みんな騒いでたんだ。
いや、そりゃ騒ぐよ。だってこんなにかっこいいんだもん。
「仕事の依頼は、ただの口実だ」
しまった。つい見入ってた。
気を取り直して、姿勢を正す。
「あっ、じゃあ、本当のご用件は、」
「キララに会いたかった」
心臓が爆発した。もうダメだ。
好きをぶっ飛ばして、しゅきすぎる。
「日向さん」
「すまない。仕事に私情を持ち込むなど、」
「好きです」
「はっ?」
日向さんの大きな左手を両手で握りしめる。
バツイチ子持ち?それがどーした!
こんな可愛い人を野に放っておけるか!
「私と付き合ってください!絶対幸せにしてみせます!」
賢いギャルと強面オジサンの、ド田舎スローライフ 小林みつる @mitsuru_kobayashi
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