第14話:無期限保留でお願いします
両親のことはすべて日向さんが対応してくれた。
他にも多数余罪があったそうで、かなり長い間刑務所暮らしになるそうだ。
桐嶋さんにもこの件をお伝えした。
本人の賞罰じゃないから申告義務はないけど、隠しておきたくなかった。
また住所不定無職に戻ったとしても、それはそれでいいと思った。
『まったく問題にならないよ』
覚悟を決めて電話をしたのに、あっさりしすぎて拍子抜けした。
『だってウチの最重要取引先、五月雨さんだよ?』
……。
もう気にするのやめよ。
迎えた最終日。
盛大なバーベキューが行われた。
取引先の方々や町の人たちも来てくれて、30人以上は集まったと思う。
パン屋さん、チーズ屋さん、八百屋さん、酒屋さんがおいしい物をたくさん持って来てくれたおかげで、史上最強で最高のバーベキューができた。
「寂しいわぁ!どうして行っちゃうの?私のお孫ちゃんなのよぉ!」
ベロベロに酔っ払った女将さんが泣きながらくっついてくる。
「お前の孫は別にいるだろ」
そんな女将さんを大将がひっぺがす。
「すまんな。こいつは酒癖が悪いんだ」
「いえ!とってもうれしいです!」
大将もだけど、とくに女将さんには本当にお世話になった。
仕事のことだけじゃなくて、色んな話を二人でした。
「お休みの日はこっちに帰ってきてね!ここはもうあなたの町よ!」
私にもおばあちゃんがいたら、こんな感じだったのかな。
日が落ちた頃、パーティーはお開きとなった。
みなさんが片付けまでしてくれたおかげで、私と日向さんは最後の夜をゆっくり過ごすことができた。
「あっという間の1年でした。本当にお世話になりました」
日向さんには、まだちゃんとお礼を言えてなかった。
「こちらこそ今までありがとう。キララのおかげで店が存続できた」
日向さんの過去を知った時から、ずっと聞きたかったことがある。
「本当は、続ける気なかったんじゃないですか?」
たとえSNSやスマホを使えなくたって、集客の手段なんていくらでもある。
それを考えられない人じゃないし、お金がないわけじゃない。
今さらこんなこと聞いてどうすんだって感じだけど、喉に刺さる骨は抜いてしまいたい。
「……そうだ。あの時はもう店を閉めようと思っていた。マリィのために」
日向さんは、父親らしいことを何もしてこなかったことと、身勝手な理由で家族を壊したことにずっと負い目を感じていたから、娘さんの嫌がらせも黙って受け続けたらしい。
息子さんの想像どおりだ。
この想像力をお姉さんにも発揮してほしかった。
「元々道楽で始めたこと。師匠には申し訳ないが、潰れるならそれでいいと思っていた」
「でも私が来てしまった。雇ってくれたのは、五月雨社長の顔を立てるためですか?」
日向さんの事情を知った五月雨社長が面白半分でほぼ強引に私を送りつけた、とあの会食後に江里花さんから聞いた。
「それもあるが、娘と同じ年頃に土下座までされたら、さすがに追い出せんだろ」
やっぱり土下座のおかげだったか。
「適当な理由をつけて追い出してやろうと思ったが、それはできなかった」
「結果は出しましたもんね」
あの結果で追い出されたら、さすがに人間性を疑うわ。
「それもあるが、そうじゃない」
違うの?結果だけじゃなくて?
なんか言いづらそうだけど、そんなヤバイ理由?
「惚れてしまった。どうしようもないぐらいにな」
……えっ?
「一人では何とも思わなかったことが、キララといっしょなら楽しかった。キララの姿を見るだけで、毎日が楽しかった」
「よっ、酔っ払ってますね!冗談やめてくださいヨォ!もう寝ましょう!」
これは酔っ払いの戯言!真に受けちゃダメ!
起きたらきっと忘れてる。
「寝て起きても忘れんぞ。バツイチ子持ちの中年が、こんなこと冗談でも言えるか」
バレてる。思考が読まれてる。
「もう明日から会えないと思ったら、言わずにはいられなかった。困らせると分かっていたのにな」
言葉が出てこない。
返事をしなきゃいけないのに、何も出てこない。
「支離滅裂だが、この先の人生を応援している。桐嶋の会社なら大きく成長できるだろう。その姿を楽しみに、」
「待って!!」
よく分からないけど、このまま終わらせたらダメな気がする。
「聞いてもいいですか?」
「あぁ」
「私のこと、好きなんですか?」
どっちのかは分からないけど、ごくっと唾を飲み込む音が聞こえた。
「好きだ」
「恋人になりたいってことですか?」
「そうだ」
「答えは、今出すべきですか?」
「出せるなら」
「待ってもらうことは?」
「もちろん」
「いつまで?」
「いつまでも」
「じゃあ、それでお願いします」
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