第13話:なにはともあれ大団円!

 パトカーと救急車に縁がない町では、しばらくこの事件が話題になった。


「聞いたわよ!大変だったわねぇ。ケガはもう大丈夫?」


 女将さんがお見舞いの果物を持って、お店に来てくれた。


「もうほんと、お騒がせしてすみませんでした。3針縫った程度なので大したことないです」

「3針も縫ったの?!大怪我じゃない!日向君!刑務所にぶち込んでやった?!」

「もちろんです。二度と出てこないでしょう」


 大袈裟な言い方だと思うでしょ?

 違います。これ、ガチです。

 ガチで、二度と朝日を拝めないようにするそうです。


「ここでの思い出にケチがつくのはイヤだわ。最後の日は盛大にお祝いしないとね!」


 お世話になった方々には引っ越す日を伝えてある。

 皆さん引っ越しの手伝いを申し出てくれたけど、結局この1年で荷物は増やさなかったから身一つで引っ越し完了だ。


 最後の日のお昼は、女将さんが主催者として盛大なお別れパーティーを開いてくれるらしい。主催者が日向さんじゃないところが面白かった。



 SNS更新用コンテンツのストックも3ヶ月分ぐらいはできたし、更新スケジュールも組み立てた。

 もう本当にやることがない。


 そういえば、あの話はどうなったんだろう。

 家族いっしょにこのお店で働くこと、弟君はお姉さんに話してくれたのかな。


 なんて考えてたら、本人が登場した。


「カイに余計なことを吹き込んだわね。どういうつもり?」


 弟君は、いない。マジか。いっしょに来いよ。


「余計なこととは何でしょう」


 刺激しないよう、にこやかに対応する。

 またヒステリー起こされたらかなわない。


「しらばっくれないで!私がこの店で働けばいいって言ったじゃない!」

「あぁそうでした。弟さんの悩みを解決するのに、いい案だと思ったのですが」

「悩み?カイに悩みなんてあるの?」


 それを言わずに話したんかい。そりゃ怒って突撃してくるわ。


「立ち話も何なので、どうぞこちらへ」


 「御用の方はベルを」の立て札を置いて、リビングへ場所を移すことにした。


「なにコレ」

「紅茶とハムサンドです」


 即席のなんちゃってアフタヌーンティー。

 紅茶はお見舞い品。わざわざ用意はしてない。


「フンッ!どうせマズイでしょうけど、仕方ないから食べてあげる!」


 普通に食べられないのかな。ツンデレないと死ぬ病でも患ってるのかな。


 なんだかんだ文句を言いながら結局食べきった。

 おいしかったらしい。


「何でこんなことするのよ」

「あなたもお父さんが作ったものを食べたことがないと思って」


 食べたら相互理解が進むわけじゃないけど、食べないよりは話が進む気がしたから出した。


「弟さんは、お姉さんの理想を叶える方法が分からないと悩んでました」


 弟君が来た時のことを簡単に説明する。


「あなたの理想は家族がいっしょにいることですよね。そしたら悪い話じゃないと思いますけど」


 当面は戦力にならないだろうけど、いたらいたで日向さんの負担は減るし、それに娘といっしょに働けてうれしく思うはず。


「なんか勘違いしてない?そんなバカらしい理想なんて持ってないし、別にあいつのこと好きじゃないし、戻ってきてほしくもないけど」


 ……なんですと?


 女将さんと弟君の話を聞いて立てた仮説が一気に崩れた。


「あれ、でも、お父さんの邪魔はしましたよね」

「したわよ。当然じゃない。人に迷惑かけておきながら、自分だけいい思いするなんて許せないもの。あいつも嫌な思いをするべきよ」


 最悪じゃん。人間として最低最悪だよ。

 好きだから邪魔しちゃいましたの方が、まだマシだったよ。


「えーと、じゃあここでは、」

「働くわけないじゃない」


 はぁ、なんか、アホみたい。

 早とちりも空回りもいいとこだ。


 娘さんには手土産をたくさん渡してご機嫌取って、ヒステリックを起こす前にお帰りいただいた。

 そのあとすぐ、日向さんが慌てて帰ってきた。


「一人にしてすまなかった。また迷惑をかけなかったか?」


 息子さんが連絡してくれたらしい。

 確認したら私の方にも来てただけど気付かなかった。


「全然大丈夫でしたよ」


 今回の原因は私だから日向さんが謝る必要なんてない。


「そうそう。ハムサンドをお出ししたら、完食されました」

「カイにはホットドッグを作ってくれたそうだな」

「えぇ、息子さんも完食!」


 だいぶ詳しくあの日のことをお父さんに喋ったな。

 別にやましいことは一つもないからいいけど。


「そうか。二人とも食べてくれのか」


 日向さんは、とてもうれしそうに笑った。


 きっと、あの二人に一番食べてほしかったんだよね。

 家族経営はダメだったけど、それだけでも叶えられてよかった。


 これにてお役目終了!

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