私は教室の中心で早弁する
マドロック
もうお腹と背中がつきそうだ。
今、午前9時ちょうど。1時間目の授業が始まって間もない。
数学の教師は朝から気合入っているのか、やけに元気な感じで挨拶している。
しかしそんなことはどうでもいいのだ。
私はお腹がぺこぺこなのだ。どうしようもなくペコペコなのだ。
昨日の夜に夜更かしをしすぎて、朝起きるのが遅刻ギリギリになってしまった。
ずっとTwitterで絡んできた相手に対してケンカをしていた。
アイツのせいで全然寝れなかった。本当に腹が立つ。
メイクも楽に出来る時間もなく、髪を解いてすぐ出発した。
お陰で朝ごはんを食べる時間はなく、お昼用にお母さんが用意してくれていた弁当しかない。
でもやるしかない。
禁断の早弁を!!
「今日は89Pからの練習問題を…」
どうやら本格的に授業が始まってしまったが、そんなことはどうでもいい。私の空腹に比べれば練習問題とかマジでどうでもいい。
とりあえず、早弁をする方法なのだがやはり一番は教科書を立ててやるのが一番だろう。
「あれ?」
「どうした?」
「いえ、なんでもないです。」
あまりの驚きについ声を出してしまった。どうしよう。学生カバンに入れてるはずの教科書がないんだけどなんで!
しまったぁー!!今日の用意してないんだったー!
早弁するための壁がないー!
壁なしの早番はあまりにもリスキーすぎる。前の席のアホの背中しか壁がない。目の前からならまだしもホワイトボードの端から先生が描き始めたら角度的に丸見え。
諦めるしかないのか。いや。そんなことで諦めるようなら最初から早弁するなど決意はしない。
しかし問題は数学の教科書がないこと。
別の授業の教科書を出してカモフラージュするか?
それしか私の考える最善の案はない。よし
ガサガサ
「えっ?!」
「誰だ今、声出したの?何かあったか?」
「いえ、シャーペンが手に刺さっただけです」
「リアクションがおかしい気がするが、保健室行くか?」
「いえ、大丈夫です。」
まずいことが起こった。これはもうどうしようもないのかしれない。
私が持っているのが、古文の教科書しかない。古文の教科書ほ少しサイズが小さい。隠せない。やられた。だから古文の教科書は少し小さいように作られているのか!
もうダメだ、打つ手がない。もう諦めて怒られながら弁当を食べよう。
私はそう決意し、最後に天井を見上げる。
ああ、私の学校生活も終わりを告げる。
「先生教科書忘れたので、隣の人に見せてもらいます!」
「そうか」
「はい!」
私は先生に許可をもらい、右隣の子の机に自分の机をくっつける。
「よろしくね」
「は、はい」
あれれ?こんな可愛い子いたっけ?それとなんでこの子そんなに驚いているんだろう。
まぁ私はこのクラスじゃあ清楚お嬢様キャラとして通しているからきっと教科書を忘れていることに驚いているんだろうなぁ。
間違いない。
「教科書見せてもらってもいい?」
「はい!どうぞ!!」
スッ
「ありがとう」
彼女から教科書を受け取った。
さてこれで早弁をすることができる。
いや!まて!このままでは絶対にできない事に気づいた。
私が彼女の教科書を壁として利用すると、彼女が教科書を使えない。彼女が授業をまともに受けれない。
ど、どうしよう。
だめだ!彼女から教科書を借りることは出来ない。
返そう。教科書を返そう。
「ありがとう、助かったわ」
「え、いやでも」
「いいのよ、気にしなくて」
「は、はぁ」
困った。教科書を借りないとしても机をくっつけた状態を戻すのは少しリスキー。動けば音はなるし先生に気付かれる。
なかなか次の手が浮かばない。どうしようか、
この子と一緒に早弁する?それも二人が急に早弁すると状況が頭に入ってこないはず。そのうちに食べきるのもあり。早弁だからこそ早く食べ切るできるまさに早弁。
「ねぇ、私と一緒にはやべ」
「プリントきましたよ?」
「えっ?」
気づいたら先生がプリントを配っている。おのれもう授業が半分以上過ぎているのか、この先生は大体授業時間が半分過ぎたらプリント配って練習問題をいっぱいやらせる。まぁ宿題の一部だから授業中にやった方がいいのだけれど、今は違う。
この時間はさっきもあった練習問題の時間と一緒でみんなが机に向かっている時間になる。しかし先程と違うのは先生が教室内を徘徊しないこと。
これはとても重要なこと。今こそ好機!!正面突破!!
ス、サ、ドン!
よし、誰にもバレずにお弁当を机の上に乗せる。
ここで素人がやるのは辺りを見渡したりしてしまうこと。それは逆に他のやつの視線をあつめることにもなる。無論先生の視線も。灯台下暗しともいえると思ってる。
いざ勝負!
パカッ!
こ、これはホワイトシチュー!お母さんまさかのホワイトシチューを用意していた。そりゃあ汁物が入るお弁当なら何が汁物を入れるだろうけれど、正直シチュー。
なんて美味しそうなんでしょう。
いい匂いだなぁ。
いざいただきま…
いい匂いだなぁ??
まずい!匂いがすごい!いい匂いすぎる!
これが教室中に広まると確実に誰かがシチューを食べていることがバレる。
それがバレては、私の明日からのあだ名は「ホワイトシチュー」になるのはもう間違いない。
私はそっと蓋を閉じる。だめだもう八方塞がりだ。
もう諦めよう。
授業が終わるまで瞑想してよう。
もう少しで授業も終わるしねー。
うん?ほんのりいい匂いがする?
あ!1番後ろの男子が早弁してる!しかも普通の弁当だからそこまで匂いが広がってない。
いいなぁー、私もしたいのに。
ずるいなぁ、早番なんてしちゃいけないのに、まともに授業受けろっての、このやろう!!
私だってお腹空いてるんだから!!もうお腹と背中がくっつきそうなんだから!!
もう怒った!どうにかしてバレないかなぁ!
「先生!」
「え?」
私の隣の子が急に声を張り上げながら、先生を呼ぶ。ビックリした。
「
「なに!?馬鹿田なにしてるんだ!」
えーー、うそーー、この子超真面目な子じゃん。
「これで講義に集中できますね」
「そ、そうだね」
その後、馬鹿田くんがどうなったのかは知らない。
けれど私は、しっかり休み時間まで我慢してその子の見守る中でお弁当をよく噛んで食べた。
私は教室の中心で早弁する マドロック @Kankin
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