第31話 初めての共同作業? いや!そんな関係じゃ無い筈・・・

「ねえ、ミント貴女今回何処へ行く予定なの?

余り田舎の方だと前回の損失を取り戻せないわよ。」


今私達は何故かセリナとファステアーナの2人を乗せて

馬車を走らせて居る。


私達は前回薬の殆どを傭兵団に置いて来てしまったので

テーブルや椅子その他薬草類にセリナ達の荷物を馬車後方に置き

私の隣にシェリスが座りそしてその前にテーブルを挟んで

セリナがこちらを向いて座りながらその話をしてきた。


彼女の弟子ファスは確かに良い子で皆にちゃんと挨拶も出来るし

今もクリアと馭者台に座り2人で楽しそうに話をしてる。


元はと云えば私達が彼女達の馬を驚かせその馬が

彼女の馬車を壊したのが原因らしいので仕方ないのかも知れないけれど・・・。


確かにファスは良い

だって礼儀正しいし

慎ましい胸に明るく優しい子だから。


でも、何故か乗せて貰って居るくせにやけに偉そうにしている

師匠であるこの女には腹が立つ。


「元はと云えば貴女が傭兵に薬を配ると言ったからでしょ!」


「あらっだって貴女もそれに賛成したじゃない。

ねっそれでどうなのよ。」


そう云って立ち上がって上半身を乗り出し私に聞いて来る。


「王都よ。」


私が素っ気なくその場で視線をわざとずらしながらそう言うと

彼女は小首を傾げ何かを考え出した。


「王都?それじゃあ当然その前に何処かへ寄って行くんでしょ。」


「・・・」


「まさか何も考え無しで王都へ向かってるんじゃないでしょうね。」


「だってしょうがないじゃない!

ボーグである程度利益を上げてそのまま向かおうと思ったんだもの!」


「あんた一体ここから王都まで何日かかると思ってるのよ。

所々小さな村や町を回ってもこれだけの人数が移動するだけの儲けは出ないわよ。」


「じゃあどうするのよ。」


「ねっ私にいい考えがあるの。乗らない?」


そう云いながら私の前のテーブルに手を着きずいっと私に近づいて来て

悪そうな微笑を浮かべるセリナ。


「一体何企んでるのよ。悪人の顔してるわよ。」


「あら、そんな事無いわよ。でっどうなのよ!」


一瞬可愛らしい笑顔を作ったと思えば直ぐに元の悪そうな微笑に変わった。


やっぱりこの女はこちらが本当の素顔に違いない。


でも確かに旅を続けるには路銀は寂しくこのままでは

最低限の食事さえままならないのは確かな訳で・・・。


「まずセリナの考えを聞かせて貰わないと何とも言えないわよ。」


「う~~ん、そうね。簡単に言えば貴女達薬草を探すのは得意でしょ。

そこで貴女達が薬草を探し私が薬を作る。

これをこれから行く先々で安く売捌くのよ。」


「薬草を採って来るのは問題ないけど何故貴女が作るのよ!

私だって薬は作れるわ!」


「じゃあ聞くけど疲労回復薬だったら貴女なら一度に何人分つくれる?

せいぜい20人分から30人分じゃない?私だったらその倍は作れるわよ。」


「うそ!どうやればそんなに作れるのよ!」


確かに一度に作れる疲労回復薬の場合普通良くても15人分から25人分と云われている

そして私の場合道具の問題もあり作れても20人分が精一杯なのは確か。


それが一度に60人分を作れると宣うセリナが信じられなかった。


そして私がセリナの顔に突き合わせるように上半身を乗り出すと

彼女は又もや悪そうな笑顔を見せた。


きっと何か特別な何かがあるに違いない

そう思わせる程に悪そうな中にも自信有り気な微笑を浮かべるセリナ。


「それは秘密。私の専売特許みたいなものだもの。」


「秘密って貴女私が見れば直ぐに判る事じゃないの?」


「どうかな~?」


セリナは椅子に腰かけると肘をテーブルに着けその手で自分の顎を乗せて

絶対判らないとばかりにニヤニヤと悪そうな微笑を私に見せる。


あ~~癪に障る!

ここまで私が云っても余裕のこの態度に腹だ立つが本当に出来るのならば

やって見ろとばかりに了承の遺志を示した。


その時私の袖を引っ張られ其方へ視線を向けるとシェリスが心配そうな顔を向けて来た。


「ミント、そんなに怒らないでもう少し協力し合おうよ。

彼女も薬師でしょ。互いに得意分野を受け持てば良いじゃない。」


そんなに私怒ってる?

思わず両手で自分の顔を撫でて確かめてしまった。


まあ確かに言い方は兎も角セリナの言い分は十分わかる。


「判った!

お互い協力しあいましょう。

まずは何を用意すれば良いの?」


「さすがミント!

話しが分る。」


「何よ急に気持ち悪いわね。」


セリナが今までの悪そうな微笑が嘘の様に

屈託の無い笑顔私に向けた。


「あら、いつも私はこうよ。」


絶対嘘だ・・・

私にはその笑顔も裏には何か隠している様にしか見えなかったりするのは

おかしいのだろうか?


う~ん。

でもやると云ったからにはそれを無下にしてはヴァンパイアのプラティ純血種の名が廃る。


「それで、何の薬草を探せば良いの?」


「必要なのは疲労回復薬と傷薬と解熱薬に痛み止め後日焼け止めこの材料。」


「日焼け止め?」


「そう、ひ・や・け・ど・め。絶対売れるから作らない手は無いわよ。」


日焼け止めは化粧品に属するけれど

体に塗る物の殆どは薬師でも扱っている。

当然作り方も知って居るけれど今まで売った覚えないんだけど。


絶対売れると云うなら。


「判った。それらの材料を全部揃えるとなると行くところは一つね。」


「「キッシュ草原!」」


久しぶりにセリナと私の声がそろった。


そこは広大な草原で適度な高低差もあり今セリナの言った材料全てがそろう場所。


以前は木々も生えていたらしいけれども

周辺地域と領都の人口増加の為伐採され今の姿になったらしい。


問題はその広大な広さの為それらを見つけ出すのが大変な事。


でも、私達なら問題ない。


「セリナ。材料は私達が責任をもって揃えるから薬の方は頼むわよ。」


「当然!」


そう云って右袖を捲って小さな力瘤を見せるセリナ。


なんか不安だ・・

あんな細腕で本当に通常の倍の薬を作り出せるのだろうか?


だが、云ったからには必ず作ってもらうけれどね。


「ミント、何か悪だくみ考えてる?」


シェリスから突っ込まれた!

けれどブンブン首を振って否定した。


そうして行き先をモンテリュ公爵領のキッシュ草原へ変更して

馬車を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヴァンパイアと薬師と隣の魔女 とらいぜん @toraizen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ