第30話 反撃

私達が戦場に着くと既にそこでは

一度は撤退したと思われた敵兵が陣を立て直し攻入って来ていた。


そしてあちらこちらから聞こえる怒声と金属がぶつかり合う音

そして倒れて居る敵兵の数が目に入る。


「凄い!盛り返して来ている!」


私が思わず声にしてしまう程に多くの敵兵がネリアス達傭兵の足元に倒れ

更に彼らは襲って来る敵兵を押し返しつつあった。


「行け!敵は既に戦意喪失状態に陥っている!今だ!そのまま押し返せ!」


先ほど私達にこの場から去る様に話していたあのファランクスが顔を真っ赤にして叫んで居る姿が

私達の目にもこちら側が優勢である事を物語っていた。


今まで5:1以上の差があったのが噓の様に確かに敵側の戦意が感じられない

その為か先程まで圧倒的戦力差で押されて居たのが信じられない様な状況だった。


一体何が有ったか等私達には判らない。

でも確実に彼らは敵を追い返しその眼には今までと違い希望が満ちて来ている。


「ミントちゃんの為にもうひと踏ん張りがんばれ!」


「「「おぉぉ~~!」」」


「そうだ!ミントちゃんに貰ったこの命!

ここで燃やさず何処で燃やす!

これより一歩たりとも敵を彼女達に近づけるな!」


「「「うぉぉぉぉぉ~~!」」」


「あいつ等に後れを取るな!

俺達のシェリスちゃん達のお陰で今が有る事を忘れるな~!」


「「「うぉぉぉ~~!」」」


「クリアちゃん!これが終わればデートに誘うぞ~~!」


「「「うっぉぉぉ?・・・今ドサクサに紛れて何言ったコラ!!」」」


この場に合わない声に思わずそちへ目を向けると

ネリアスやバッカルにヤグトそしてシーモル達が先頭に立って

傭兵仲間と共に敵兵を押し返して居るところだった。


「ミント」


「ミントお嬢様・・」


「うん、なんか凄い事になってるね・・・。」


もうそこには私達が出る幕は無かった。

こちらは戦意高揚しその熱気に包まれ逆に敵側にはそれらは感じられず

未だ陣を組み出方を見ている兵達の目にも既にも負けを認めた様な力の無い目をしている。


もしかして私の血を使った薬が奇跡を齎した?

正直私の血を使った薬には一時的に潜在能力を引き出す力を

見せる事はあるけれどほとんどの場合数分でその効果は切れる。


ましてや今回の様に私の血を使った薬を飲んで居ない人達もが

これ程の力を見せる等考えられなかった。


けれど何かが大きな力を生み反撃に転じる事が出来た事には違いない。

何しろ今まで優勢を保っていた敵が突然弱体化する等考えられないから

やはりこちら側の意識の変化が彼らの力になったのかも?


正直本当に何故ここまで優勢に転じる事が出来たのかは判らないけれど

彼らはその後も頑張り続け遂には敵陣営を追い返すことに成功した。


「「「うっおぉぉぉぉ~~~~!」」」




死屍累々敵兵の死体の上に遂に敵兵を追い返した傭兵達の勝鬨がその戦場に響き渡り

彼らの目にも充足感に光り輝いている。


「ふぅ、どうしてこうなったか判らないけど思いもしなかった結果になったわね。」


私の隣で無言で見ていたシェリスが私に向かって安心した様な表情を浮かべようやく口を開いた。


「うん、勝って確かに良かった。けど・・何だか腑に落ちない。」


「そんなに悩む事?勝ったなら良いんじゃない?」


「そうかも知れないけど、ここまで圧倒的な勝ち方ってあり得るのかな?」


「圧倒的なんて事無いわよ。

彼等だって相当な犠牲者を出してるじゃない。」


「だってそれは押し返す前の人がほとんどでしょ。だから・」


「ミントお嬢さま。」


私とシェリスが話していると突然クリアが言葉をそれを遮つた。


「どうしたの?」


「お話しして居る最中申し訳ありませんが面倒な事になる前に戻った方が宜しいかと。」


そう云って戦場だった場所を見ると私達を見つけたネリアス達が

満面の笑顔で駆け寄って来るのが見えた。


「あっ!そうだ!クリア貴女デートどうするの?」


「ですからご遠慮願いたいと思いまして。その前にミントお嬢様やシェリス様も。」


「そうね。シェリス!クリア!行こうか!」


「うん。」


「はい。」


私達の名を叫び走り寄って来るネリアス達を背に馬車の置いてある後方へと走りだした。


その互いの顔には遂笑みが零れる。


何故勝てたか判らない。

でもネリアス達傭兵の多くは生き残った。

それで十分。


そんな事を考えながら馬車の置いてある後方の開けた場所まで来て後ろを振り向くと

既にネリアス達の姿は見えない。


直ぐに用意してこの場を去ればおそらく追い着かれる事は無いだろう。

そう思い馬車の下へ戻ると何故か馬車が2台・・・

しかも1台は壊れおそらくこのままでは走行不能の様に見える。


その時誰か視線気づき振り向くと冷ややかな笑みを浮かべた一人の女性と

その弟子の女の子ファステアーナが心配げな表情で立って居た。


「セリナ。」


「やってくれたわね。」


彼女は腕組をしながらチラッと壊れた自分の馬車を一瞥すると

私に視線を戻し威圧感のある微笑で歩み寄る。


「はぅ」


思わず私がその威圧に押し負け一歩下がる。


「ミ・ン・ト、これどうしてくれるのよ。」


指さす先には先程の彼女の馬車!


私がその馬車を見ると更に一歩私に近づいて来た。


その威圧感が半端ない!


なんでヴァンパイアの私にこれだけの威圧感が放たれる?


やっぱりこの女はただ者ではないと思いつつもその馬車が壊れた理由等判る分けもなく。


「これって一体?」


「貴女達が突然走り出すから馬が驚いて馬車を壊して逃げたっちゃじゃない!

どうしてくれるのよ!」


「どうすると云われても私達もこの馬車しかないしどうしようも・・」


「だったらその馬車に私達も乗せなさいよ。

どうせ薬の殆どは彼らにあげちゃったんでしょ。

私も手持ちの薬は幾らも無いし

その2頭立ての馬車なら十分私達も乗せられるでしょ。」


「でもそれは・・」


「乗れるわよね!」


「シェリス、クリアどうしよう。」


「私は良いわよ。」


「ファスと一緒ならきっと楽しい旅になりますね。」


「なんで2人ともそう簡単に乗せられるのよ。私達の馬車よ。」


何故かシェリスもクリアも彼女達が一緒にあの女が一緒に乗る事を快く了承しようとする。


なんでだ!


「賑やかになって良いじゃない。まあ確かにミントが彼女に敵対心を抱くのは判るけど

何時までもそれじゃあロードに出た意味が無いんじゃない?

だったら少しでも苦手を克服する為にも一緒に居た方が彼女の良い所も見えて来るんじゃないかな?

それに私自身そこまで苦手じゃないし彼女に興味も有るから。」


「グムム・・二人がそう云うなら。」


2人の意見を聞き結局セリナ達を私達の馬車に乗せる事にした。


「判った。良いわよ。ただし食事は交代で作る事。

薬の販売もお互い邪魔をしない事良いわね。」


「貴女達が馬車を壊しておきながら随分偉そうね。

でも、それで良いわ。これから宜しくね。」


先程の威圧ある微笑みから一変にこやかな笑顔を作り彼女達の荷物を

私達の馬車に積みだした。


こうやってセリナ達との奇妙な旅が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る