最終夜 さらばスナッキーな夜、常松よ永遠に! 最終話 君の名は
前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』は・・・・・
スナック不二子に君臨する女帝ドSママの名前を確かめるため、危険な聖域へと単身で乗り込む“常連予備軍”の異名を持つ常松。
しかし、自らに課したミッションのクリアを目指す彼の前に現れたのは、ハイパー化した常連2号であった。
執拗なハイパー常連2号のイヤミ
さらにドS女帝と恐れられるママが繰り出した痛恨の一撃によって、激闘は幕を閉じた。
激闘を制した常松は、“常連予備軍”から晴れて『常連』へと昇進することが出来るのだろうか?
否、それよりも重大なミッションであるドSママの名前を知ることが出来るのであろうか?
ママの名前を知ることこそが自らに課した常松のミッションであることを忘れるな、常松! 今夜こそキメてやれ、常松!!
▽▽▽
“夜のエカチェリーナ”と異名をとるママの恐ろしい攻撃をまともに受けてしまったハイパー常連2号は、ハイパーのくせに敢え無く撃沈した。
悲壮感が漂いまくるハイパーの背中を見送る常松は、これでしばらくはこの店に来ることはなさそうだと確信する。
そして常連退治を成し遂げた達成感に浸りながら、勝利の美酒に酔いしれていた。
(結局のところ、あの常連2号は何をしたかったんだろうな・・・ただの嫌味な奴なだけじゃあねえか、あっ、あと不細工だったけど)
常連2号の意味不明な一連の行動を思い起こすと、あまりの滑稽さに笑いが込み上げてくる。
(全然、ハイパーじゃなかったよなー)
それを肴に飲む酒は格別だ。
その後、可愛いけど天然な香奈ちゃんのミネラル豊富だな〜と思わされる話しを聞いてツッコミを入れたり、最早、伝統芸だと思わされるようなママの下ネタに感心したりと、楽しい飲みのひとときはアッという間に過ぎてゆく。
しかし、常松は間抜け面して楽しく飲んでいる場合ではなかった。
常松はハイパーを退治した喜びから、すっかり気を良くして、ついでに調子に乗りまくって飲んでいたが、重大なミッションが残っていることを忘れていた。
そのことに気がついた時、すでに時計の針はてっぺんを過ぎて日付が変わっていた。
(しまったーーぁ!! ママの名前を聞き出すことをすっかり忘れていたよー)
突然、ハッとして神妙な表情になる常松。
その表情の変化を見逃さない“夜のエカチェリーナ”がツッコミを入れる。
「あら〜、ツネマーったらどうしちゃったの〜? 顔が悪いわよ、じゃあなくって顔色が悪いわよー! 心配ね〜、気分が悪くなっちゃったの〜、もしかして頭はどうなの? 頭もかなり悪いの〜?」
「ちょっと、ちょっとーー! 顔が悪いとか、頭が悪いとか、大きなお世話ですよ!! 何でそうなるんですかー!? こういう時って、普通はもっと心配してくれるもんじゃあないんですかー?」
「そうよね〜、男は顔が大事なんだから、ちゃーんと心配してあげないとね〜♡」
( ————! )
常松は自分の言葉ではとても敵わないと悟って反論をやめた。それよりも大事なことがあるのだ。
(結局、ママの名前はわからずじまいか。今更、名前を教えてくださいなんて言えないしなー)
常松は肩を落として、切子細工のロックグラスを見つめていた。
「あーっ、そういえば! 忘れていたわ〜」
そう言ってママは笑顔で常松に両手を差し出してきた。お酒で少し火照った顔が、なんだかいつもよりもセクシーに見えた。
「えっ??」
「私ったら、ツネマーに名刺をお渡しするのをすっかり忘れちゃって〜♡」
常松の表情が一気に晴れやかになる。
「あっ、ありがとう!!」
まるでクリスマスプレゼントをもらう子供のように屈託なく名刺を受け取った。
☆☆☆ ―――Congratulations!! ☆☆☆
スナックの神様が讃えてくれるーーそんな声が天から聞こえてくるようだ。
そして、心なしか笑顔のママが天使に見える。
「誰にでも差し上げるわけじゃないのよ〜♡ 気に入った人にだけお渡ししているのよ」
さらに目を閉じると、またまた天の声が聞こえてきた。
―――お前に『スナッキー』の称号を与えよう!!
スナックの神様がそう言ったように思えたのだが、瞼を開けて(我に返って)、目の前を見ると香奈ちゃんが妙な声色を使っていたのがわかった。
「————! ちょっとー! 香奈ちゃん、それ誰の真似なわけ〜?」
「ツネマーが恍惚の表情になっちゃってるから〜、ついつい、面白くて〜」
「ついついって……完全にバカにされてるなー」
「スナックの神様みたいだったでしょ〜」
「スナックの神様って……香奈ちゃん、その神様を見たことあるの......かい?」
「その神様はねえ、ツネマーみたいに鼻の下をノビノビに伸ばしちゃてる男の人にしか見えないのよ〜。だから私にも香奈ちゃんにも見えないんですよ〜、残念だわ!」
「はいはい、それは残念だったねー。俺みたいに鼻の下が伸び放題だったら二人にも見えたのにねー」
ママの追撃に、常松は埒が明かないと諦めて、それ以上のツッコミは止めることにした。
スナックの神様がいるのかどうかはこの際どうでもいいのだが、あのドSで、女帝エカチェリーナと恐れられるママからの渡りに船的な行為に、そんなママこそがスナックの神様なのではないかと思ってしまう程に感謝の気持ちでいっぱいになっていた。
さっそく名刺に書かれた名前を確認しようとするが、なんだか、とても貴重な物のように感じてしまい、後でゆっくりと確認することにした。
そんな常松を見て、ママも和やかな表情になっている。
「ツネマーったら、随分と嬉しそうな顔をしてくれるのね〜♡」
とても困難なミッションをクリアしてしまうと、なんだか素の自分に戻ったかのような、フラットな気分とでもいうのか、清々しいような、そんな気持ちになってくる。
ほどよく酔いがまわっているせいもあってか、取り憑かれていた何かから解放されたかのように軽やかな気分になった。
◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆
それから、ママに見送られて店をあとにした常松は、星空を見上げて呟く。
「やっぱり面白い店だよなー。スナッキーの称号も悪くないかもなー」
やはり常松はすっかりS−ウイルスにやられてしまっているのかもしれない。
そして、ママからもらった名刺を胸のポケットから取り出して名前を確認してみる。
『 — 真夜中の妖精 —
ガラドリエル・卑弥呼・アントワネット 』
「これって、最早、源氏名どころの騒ぎじゃあないだろ!」
源氏名を名乗るのは自由だが、最早どの世界の、どこの国の、どんな人なのかさえもわからない名が刻まれていた。
☆ ☆ ☆
今夜も数多の夜の妖精たちが夜の街を鮮やかに彩る。
その華麗な舞いに魅せられて、哀れなワーカービー達は夜の帳の中へと消えてゆく。
貴男の街にも可憐な夜の天使が舞い降りるかもしれない。
—完—
▽▽▽
▽▽▽
————数年後
<俺の名は、“スナッキーつねまつ”> スナックの神に祝福された男。
かつてこの国は『スナック先進国』と呼ばれるスナック大国であった。
しかし、世界中の飲み屋を統制しようとする某大国による正体不明のA-S-V(アンチ・スナック・ウイルス)攻撃によって、我が国のスナック界は壊滅状態に追い込まれていた。
飲み屋の自由を奪う卑劣な敵国のスパイが暗躍するネオン街。
そして欲望が渦巻くこの世界を洗浄することができるのか......。
敵国の諜報部隊に対抗するべく内閣情報調査室が組織した機関がある。
それが、我が部隊=『スナッカー電撃隊』だ。
<俺の名は、“スナッキーつねまつ”> 男たちの夢と安息の地を取り戻す救世主。
............to be not continued
スナッキーな夜にしてくれ 〜ミドルエイジーズ・ミッドナイト・アドベンチャー〜 火夢露 by.YUMEBOSHI-P @him69
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