演奏者にとっての『Happy Birthday To You』

伊吹梓

演奏者にとっての、私にとってのハピバ演奏



 本日、ちょっとした贈り物を致しました。

 今日お誕生日を迎えましたtwitterの相互様に、一本の動画を。


 動画の構成はこんな感じです。

 BGMは私がアレンジし、クラシックギターで弾いた『Happy Birthday To You』のソロ演奏。映像はスクショ画像やフリー動画を使用し、そこにテキストメッセージを重ねて制作というもの。

 BGM演奏時間に合わせた、約55秒の動画です。


 実は先月末、他のツイッターの相互様に、また別のバースデー動画を贈っておりました。

 今回の方とその方は、とても仲が良いお二人。私もありがたいことに、お二人とも相互になっています(今後外されなければありがたい……(;´・ω・))。


 先月贈りしました動画と演奏は、別の音楽用アカウントで使っていたものでした。使用期間は1年半くらいかな?もちろん名義も違います。


 さすがに、1年半も同じ音源を使うと色褪せます。贈られた方も、二度同じ音源や映像では使い回し感を抱くでしょう。

 そして最大の難点が、前回の音源はエフェクトをやり過ぎて、クラシックギターっぽさが薄れていたんですね。音はクリアでしたけど。

 そこで今回、1コーラス目を旧アレンジ、2コーラス目を新アレンジで演奏という形で録り直しました。

 編集も、音はクリアになるけどシンセっぽくなってしまうコーラスエフェクトは、全部カット。そしてEQとComp(コンプレッサー、音圧増幅と平均化)調整、そしてリバーブのみで編集し直したんです。ついでに色気を出して(笑)動画の構成も見直し、結局全作り直しとなりました。


 そんな感じですから、とても仲良しさんのお二人に、旧作の最後と新作の最初を飾っていただく、というメモリアルな贈り物が出来たかなぁ、と勝手に思っています(おおー!我ながらこじつけが過ぎる(笑))。



 さて皆さんここで本題。

 BGMとして弾いたHappy Birthday To You、通称ハピバ。

 この歌って、どんな歌だと感じてらっしゃいますか?


 成り立ちや変遷の話ではありません。この歌の意義や性質のお話です。

 このあたりは、皆さまそれぞれに想いがあり、答えがあるでしょう。もちろん私にもあります。

 そこで少し、私の想いと私にとってのこの歌という視点で話しをさせてください。


 この『Happy Birthday To You』という歌。

 先日UPしました私の小説「天才こと弾きはなぜ弾かずに歌うのか?」でも、テーマの一部を演出する重要な一曲となっています。

 なぜ小説のテーマになり得たのか。こんな前奏+2コーラス歌っても1分にも満たない歌が、なぜそこまでの存在感を持つか。そう不思議に思われるかもしれませんね。


 でもね。テーマなるんですよこの歌。半端ないんですよ。

 だって考えてもみてください。


・この世に生きている限り、誰もが必ず年に一度、自分のためだけに歌ってもらう日が訪れる。

・歌詞のなかに自分の名が入る、つまり自分だけのオリジナルの歌詞を持っている。

・世界中の多くの人歌え、他のどの歌よりも知られている歌(歌の著作権が有効だった時期、世界一の著作権料収入を誇りました)。

・通りすがりの人でさえ、歌って一緒に祝うことができる歌。


 そして。


・一年365日、世界、いや「この町のどこか」くらいの狭い範囲でも、殆ど毎日欠かさずと言って良いくらい歌われている歌。


 こんな歌、他にありますか?

 世界中を探して、ここまで要件を備えた歌って他にご存知でしょうか?

 少なくとも私は他に知りません。


 つまり!

 ハピバはあり得ないくらい奇跡の歌なんです!!唯一無二な歌なんです!!!

 

 …と、まずここまでが私が人に説明する際のこの歌の意義です。 


 翻って、演奏者である私が実感ベースでお話しすると…。


 私にとってのこの歌は、「無上の喜び」であり「最も大事なレパートリー」です。


 ソロ演奏。歌の伴奏。他楽器との合奏などなど。そのタイミングから何から何まで「ああ、音楽をやっていてよかった!」と心から思える歌なのです。


 私にとって音楽をやるに当たり最も喜びとなることが、たった一人のために演奏し、その人が心から「嬉しい」「心に響いた!」と思ってくれることです。

 ですから、リクエストを頂いたらできる限り応えたいと思いますし「この人この曲好きだったな」「今日はこの人の○○記念日だったな」と予定にはないに曲を演奏することもあります。


 このハピバは、季節を問わず日を問わずまた人さえも問わず、いつでもそんな無上の喜びを心から感じられる、最高のレパートリーなんです。


 演奏者は基本的に「演奏で人に喜んでもらいたい」という気持ちを持つ人が多いと思います。

 んー、恐らく多いんじゃないかな……(笑) 皆が皆そうではないとは思いますが(笑)


 その証拠に、youtubeで『Happy Birthday』または『Happy Birthday To You』を検索してみてください。様々な演奏家やオーケストラの、予定の曲の途中からサプライズでハピバに変わる、という映像を観ることができます。


 オススメは、ベルリンフィルの北京公演時の映像。ベルリンフィルの公式チャンネルに掲載されている『Morphing Mahler into "Happy Birthday"』というタイトルの動画です。このままコピペで検索すれば出てきます。

 リハ中のサプライズ演奏で、マーラーの交響曲5番からの~ハピバ!しかもこれ、ホルン奏者に贈るハピバです。楽団から指揮者に~はよくありますが、楽団仲間に対し指揮者もグルになってのサプライズ!

 指揮者のグスターボ・ドゥダメルが「Mahler」と言うと、第一・第二ヴァイオリン奏者さんやヴィオラ奏者さんが、ソワソワ、ソワソワ。クスリと笑っている人も。どこかみんな落ち着かなそうで、でもどこか含みのある笑顔。対照的に全く何事もないかのように、腕を組んだままの打楽器の皆さん達。


 トランペットのソロから、盛大にサプライズの演奏に切り替わったその時。


 気付いた当のホルン奏者さん。隣の奏者さんが彼に向って笑顔で吹く姿。あんなに難しい顔で腕を組んでいた打楽器奏者さん達も、ノリノリ(笑)んもう最高。

 演奏もベルリンフィルらしく、重厚で荘厳でカッコイイ!

 て言うか合唱入ってないですよねこれ? 歌える楽器の奏者は歌ってるかも知れませんが……私には、歌が入っているように、歌詞が入っているように聴こえるんです。

 すごい。これが世界のトップクラスのプロか……。


 話が逸れました。戻します(笑)


 もうこの瞬間の奏者って、最高の気持ちだと思います。

 うーん、どう言い表せば良いのか分からないのですが…。


 「ハピバを演奏できて、ハピバ贈ることが出来て、こんなに喜ばしいことは無い!」


 という気持ちなんですね。

 演奏家冥利に尽きる、とでも言いますか。そうですね。つまりは、


 音楽をやっていて良かった! 私はこの日この瞬間のために生きてきたんだ!


 大袈裟ではなく素直に自然に、心からそう思える瞬間なんですね。誕生日を迎えた誰かにハピバを奏でる時って。


 もちろんハピバを奏でる機会は結構あります。いや大袈裟だろ、その度にそう思ってるんか?と言われれば……その通り!!思ってます!!!(笑) 


 むしろ「この機会を今日も持てた!一日分演奏寿命が伸びた!明日もまた頑張れる!」という気持ちです。生きる支えです。毎日誰かに贈ってもいい!

 こんな風に、演奏を続ける心の支えになっているんです。


 私自身は、実は自分の誕生日にはそれほど拘っていません。誕生日当日になっても忘れてる、なんて毎年のことです。もちろん祝ってもらえれば嬉しいですし、サプライズハピバ演奏もいただいたこともあります。超うれしかったです!だけど…。

 でも本格的に自分の誕生日への拘りが薄れたのは、「誰か一人のためにハピバを奏でる」という喜びを知った辺りからです。

 祝われる以上の嬉しさ。喜び。それを知ってしまった、という思いですね!


 得意な音楽で知り合った人それぞれを個別に、年に一度お祝いできる。

 祝われるよりも、祝う嬉しさを知った曲。


 それが、私にとってのハピバだったりします。


 さて。

 ところで、何で動画メッセージなのか?

 そこを少しお話しましょう。


 結論から言えば「一昨年からコロナ禍がやってきて、誕生日を迎えた方に生演奏をお届けすることが難しい状況となったため」です。


 コロナ禍直前の2020年1月初め、和楽器メインの音楽仲間で集まった時の打ち上げで、誕生日間近のお箏奏者さんと篠笛奏者さんの前で弾いたのが生演奏の最後です。私がギターで弾き出すと、三味線やら笛やらが入ってきて。楽器を仕舞っていた人は大声で歌って。もう無限ループのハピバでした。


 その後は、本当に寂しかったです。音楽なんかやってられる社会状況じゃなくなった。私が音楽で最大の喜びとしていることが、全くできなくなった。

 祝えない。ただそれだけの事と思われるかも知れませんが、私にはとても大事だったんですね。ほんとにメンタルやられました。


 生演奏でなくても、何とか気持ちを届けたい!


 そう思って始めたのが、ツイッターで誕生日演奏&メッセージ動画をお贈りするぞ!計画でした。

 当時はまだ音楽垢しか持っていませんでしたので、そこで繋がっている方にお送りしていました。僭越ながら、応援しているミュージシャンの方にもドキドキしながらお送りしたり。とても喜んでいただけて、RTまでしていただいて「このアレンジって教えていただくことはできますか?」なんてご連絡までいただいて!イヤッホゥ!な気持ちでした(笑)


 その後私自身、母の認知症の悪化により介護が必要になったり、他にも様々な出来事があり、音楽自体を一時休止しなければならなくなりました。この状況は「お母さんは二歳児です」にストーリー形式で載せております。

 未だ介護は目が離せませんし、厳しい状況は続いており、計画的に音楽活動をすることは難しいです。音楽垢も放置状態です。


 いえね。ちょっとさ。音楽関係覗いて皆活動見るのが辛いんだよね…。皆のこと、めっちゃ心から応援してるんだけどさ。活動の場が広がってる報は嬉しいですよ。それでもどこか、自分の心にぽっかり穴が空いてるのに、気付いちゃったりして、ね…。


 そんな最中、新たに始めた執筆という創作。

 初めは創作垢では音源公開などはしない、音楽話もプロフで触れるくらいでなるべく表に出さないなどと考えていました。けれど、書くものがどうしても音楽に偏ってきてしまいまして(笑)

 さらにですね。執筆垢では人の繋がりや会話は少なめにと思っていました。でもやはり、記念日に「おめでとう」を贈りたくなるくらいの繋がりは出来てしまうものなんですね。私が勝手にそんな繋がりと思ってるだけですけど(笑)


 あーもう!ならいっそ変な心の壁取っ払って、キャス配信もこの垢でやっちゃえ!

 あーもう!ついでに誕生日動画をこっちでも贈っちゃえ!


 …というかなーり適当な流れで(笑)、創作垢でもハピバをお贈りすることにしました。


 なおこのハピバ。

 キーの違う2つのコード握りのパターンで独奏アレンジを用意しています。「カポタスト」というギター用の移調器具を使えば、十二平均律のどれをキーにしても、ギターの演奏としては無理なく弾くことが可能です。


 つまりどんなキーの人でも、どんなキーの楽器でも、一緒に歌えるように合奏できるように用意しているんです。


 だってさ。折角のお祝いソングじゃないですか。みんなで歌えた方がいいでしょ? だから私は、こういう曲は誰もが合わせられるよう、リズムもメロディも一般的なものからは変えません。和音を工夫するだけに留めています。

 これは私が最も大事にしている音楽に対する考え方、そして姿勢ですね。


 そんなわけで今後、相互のフォロワーさんで誕生日を公開されている方には、いきなりそんな動画が届くかもしれません。

 ご迷惑かも知れませんが、数秒だけでも目を通し耳を傾けていただければ…せめて、真ん中あたりのメッセージだけでも目を通していただければ幸いです。


 あ、そうそう。あと一点だけ。


 こういったフリー音源の録音・編集の場合、全て自分自身で作業します。

 プロにお願いするのは、例え友人でもお金払わないといけませんし、クレジットも入れなければいけません。

 でもこれはあくまで自分が自由に使い回すための音源ですし、自分で管理したい音源なので、アドバイスは求めたりしますが(結構頻繁に求めてるのにちゃんと答えてくれてありがたいです!)作業は自身の手で行います。


 で、その編集。

 自分でやると超大変っす!


 私の使っているギターは、生ギターにピックアップと内臓プリアンプを取り付けた「エレアコ」「エレガット」というギターです。普通のアコギやクラシックギターと同じく生音が前提ですが、ステージや雑音環境がある自宅収録は、ケーブルを繋いで「ライン録り」をします。

 小規模機材で録ったエレアコやエレガットの音源って、はじめはリバーブもディレイもなんのエフェクトも無いでのす。音量レベルも低く、爪音のカリカリ音ばかり目立つ状態です。皆さんが生演奏やライブで聴く音とは全く違います。録音はかなり特殊な環境なんです。ほんと、おもちゃみたいな音で嫌になります。

 粗しかないと言っても良いくらい。めったクソ自分が下手に思えます(;´・ω・)


 そっから一つずつ仕上げていくんですよ。ノイズ除去からEQ調整、Comp、各種エフェクト…。そうするとあら不思議。ちゃんとギターの音になっていく。

 仕上げる時間は、まず55秒程度のハピバを一発録り(一回だけ弾いた意ではなく、イントロから最後まで継ぎ接ぎ無しの連続演奏の意)で15分くらいの間に数テイク録ります。それから編集ですが、これが短くて4時間ほど。それを3パターン作り、音楽仲間に送り付けダメ出し攻撃を食らい(笑)、腹が立ってまた録り直しからはじめる…みたいな感じです。全部で3日くらいかな?

 ちょっと。ライブなら55秒で終わりですよ!?(笑)

 これでも、公開用の音源制作の時間としては短い方です。まだ不満だらけですけどね…。


 そしてここが本当に難しいのですが、聴く側の環境や設備は一定ではないです。

 限界まで柔らかく仕上げたのに、別の機器で聴くとシャリシャリしてるとか、篭りすぎてるとか。正解がないんです。

 これをハイ上がりやフラット系、ロー押し出し型など、異なる性質の複数の再生機器やスピーカー、ヘッドフォンで確認し、妥協点を探りながら形にしていくんですね。


 でもね。こういう難しさも何も「ありがとう!」「わー!うれしい!」の一言で、もーぜーんぶ!救われるんですよ。冥利に尽きると思うんですよ。


 それは置いといて、そんなRECの難しさを一手に負ってくれるレコーディングエンジニアの方々、ほんとに凄いです。何で再生してもそれなりの音質になるよう仕上げる。しかも数時間で。今回くらいのボリュームなら数十分で! びっくりです。編集環境と技術と豊富な知識経験のなせる業です。


 私たち奏者は、そんな技術者の皆様の素晴らしい腕に支えられています。


 ただただ感謝!!





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演奏者にとっての『Happy Birthday To You』 伊吹梓 @amenotoriitouge

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