第6話 いや、やっぱりご都合主義世界なんですけど

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 「ファーガ、お前も『転移』してきたのか?」


「は?」


「だから、お前も俺と同じで日本出身で死んだら転移したのかって聞いてんだよ。じゃないとおかしいだろ。なんで関西弁とか喋れんだよ。ハズとかだぁとか知ってんだよ!」

「ニホン?カンサイベン?何言ってるんやアンタ?ドラゴンから落ちて頭おかしなってもうたんとちゃうか?」

ん?何この反応。俺が空から降ってきた理由、勘違いしてない?

「ここはゴゼニア、大公領第4直轄区やで」

急に厨二臭いぞ。

「アンタがどこの出身か分からんけど、とにかく街にいかんことにはどうしようもならへんしな。さっさと行こか」

「お、おう」



 やっぱり、納得できない。どうしてこいつが関西弁を話せているのか。そしてどうして俺たちが言葉を交わせているのか。



 街についた。ファーガの話によるとベル・エールという街らしい。

そしてやっぱりあの中世ヨーロッパ風()の街並み。そして言葉は…日本語だ。関西弁ではないが日本語だ。

行き交う人達の見た目も様々でファーガみたいに人ベースのケモミミもいれば完全に異種だろって見た目のやつもいる。

「よし、このまま酒場に直行や!」

金貨の一杯に詰まった大きな袋を揺らしてファーガがは大通りを駆け抜けていった。

「おいちょっと待てよ!」

俺も負けじと走って追いかけた。


・・・

 酒場に着いた。

真っ昼間っから酒を飲む親父の多いこと多いこと。


俺たちはカウンター席についてまた談笑を始めた。


「俺も呑んで良いのか?」

「当然や!今日はこんな一杯金があるんや!尽きるまでのむで!」

「はぁ」

正直言って酒は飲んでみたかった。日本にいた頃は正月の日本酒ぐらいしか呑んだことがない。よし、楽しみだ!


 「よお、ファーガの嬢ちゃん、元気してるか?」

カウンターの男が話しかけてきた。

「もちろんや!実はな、わい遂に旦那ゲットしてもうてん!」

「おお、遂にか!これで何人目だ?」

「もう数えてないわ!」

ん?ちょっと待て。このロリ、今なんつった?『数えてないわ』!?!?そんな一杯旦那いるの?


 「いやー、いつも嫁さんにはお世話になってるぜ!これからも宜しくな、兄ちゃん」

マスターが俺に頭を下げてきた。

「ちょっと待って下さい!俺はまだ認めてませんよ!こいつが勝手に言ってきただけなんで!」

「あ?そうなのか?てっきりお似合いだったんで信じちゃったよ」

お似合いってなんだよお似合いって。関西弁ケモロリにお似合いの男子高校生がいてたまるか。


 酒もやっとテーブルに来た。後ろでどんちゃん騒ぎの音が大きくなっている。

どれどれ、一口味見してみよう。

ゴク

不味いんですけど。めちゃくちゃ不味いんですけど。

高校生だからか?いや、これでも大人の味はわかる方だ。

にしたって不味い。不味すぎる。

「どうしたんやケイ、具合でも悪いんか?」

ファーガ意外と優しいな。でもごめん。口の中が気持ち悪すぎて言葉が出ないや。


 ファーガが席から降りて俺に肩を貸すサインをしてきた。ここは乗ろう。『ハズジャネエヨ』とか言ってる場合じゃない。

よちよち歩きでトイレの方向に近づいていく。


 視界が揺れる。

視界が揺れる。

      足元が見えない。

 視界が揺れる。  視界が揺れる。

     どこに立ってるんだろう。

 視界が謡れる。 

    視鼻が揺れる。

 

 気がついたその瞬間だった。俺は男とぶつかっていた。

「おいにいちゃん。ぶつかっといて謝罪もなしかよ!」

殴られる。拳が視界にふりかかる。


殴られた勢いで俺は床に倒れ込んだ。


「おいアンタ、何するんや!」

聞こえてくるファーガの声。やっぱりなんだかんだ優しいやつなんだな。



ん??この状況。おれのスキルで解決できるんじゃ?でも良いか。緊急事態じゃない。ことはそのうち済むだろう。第一、この根っからのご都合主義能力を自分の手で使うのは嫌だ。


ガチャ

扉が開く音。

誰かこの状況が嫌で逃げ出したんだろうな。

ファーガと男は取っ組み合いを繰り広げている。結構あいつ強いじゃん。

もう酒場の中は乱闘状態。そりゃ逃げ出すやつもいるよ。

朦朧とした意識の中、ひとつの鋭い声が酒場を支配した。


「皆、静まって!!」

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反「な◯う」主義者の異世界転移論〜ご都合主義に俺は屈しない〜 かまきりりゅうご @hug

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