mx45星
その惑星は砂の惑星だった。
サクラ色の砂が砂丘を形成しながらどこまでも続いている。遠くに赤茶色の岩で出来た山脈が見える。その山脈は光の当たり方で朱色やオレンジ色を変えて、遠くからでは何なのか分からない。薄いピンクの砂丘にオレンジ色の大地・・ 不思議な光景だ。
「山脈の方を見てから着陸地点を決めようか。」と局長さんが言う。
「砂丘が有るのは風も強いって事ですから、風よけになる場所を探しますね。」
山脈の上空に来ると茶色の岩地は思ったより広く、まるでテーブルのように広々と地平線まで連なっていた。そして奇妙な事に砂地と岩地との境は300メートルほどの切り立った崖になっている。
着陸地を探して崖沿いを飛んでいると、
「あれは何だ?」と局長さんが言う。
見ると白い卵のような物が崖の縁に15個ほど並んでいる。
「何でしょう? まるで卵みたい・・」
「卵にしちゃあデカいな。直径で8メートルは超えるだろうな。」
「どうします、降りますか?」
「何だか変だから200メートルほど離れて着陸させてくれ。」
「ですね、あれが卵なら親はどれだけ大きいか・・」
私は卵を刺激しないように静かにドローンを着陸させた。
桜色の砂は思ったより締まっていて何かの重い粒子で出来ているようだ。
空気に酸素は無く窒素が主成分で湿度が少しだけ有る。卵は二階建ての家ほどの大きさで一列に崖に沿って並んでいた。
私たちは周りに気を配り、用心しながら卵に近づいて行った。
「局長さん、これ卵じゃあ無いですよ。質量計で見ると水より全然軽いものです。」
「何かこれ、少し透けて見えないか?」と局長さんが表面を撫でている。
「これ、軽いです。押したら転がりますよ、きっと!」そう言って、私が体重をかけて球体を押した時だった。
バウウウーと球体の下から空気が噴出したのだ。
私は砂を頭から被り驚いて後ろに下がった。
すると球体はふわりと浮き上がり崖に沿って上昇して行くのだ。私たちはまるで風船を手放した子供のように、呆然と上昇する球体を見上げていた。
球体は風船のように風に流されながら崖の縁を空に向かって小さくなっていく。
その時だった、バウウウー バウウウー バウウウー バウウウー
と音がした。他の球体も地面を離れたのだ。
最初に飛んだ球体の後を追うように次々と、まるで鳥のように着かず離れず並んで上昇していく。そして最初に飛んだ球体と合流すると一列に並んで崖の上に消えて行った。
私たちは300mの崖を見上げたまま気が抜けたように立ち尽くした。
「なんてこった! 生き物かよ・・」
「私が転がそうとしたから逃げちゃったんですね。」
崖の上に見える空は、いつの間にか紫色の夕日に染まり、星々が光り始めている。 この惑星は自転が早いので、あと15分もすれば真っ暗になるだろう。
「明日、明るくなったらまた探してみようや。デカいからすぐ見つかるよ。」
と、私の肩を叩きながら局長さんが言った。
私は未知との遭遇にドキドキしていた。
・・局長さんが球体を触った時あの球は何の反応もしなかった・・
・・私が強く推したから嫌がったのだ・・
・・今度は上手くやる、絶対・・
ドローンの中は広くて、くつろげるスペースもある。窓の外には第三惑星がコインほどの大きさで鈍く光っている。
「ほら、天の川銀河がぼんやりと見えているだろう。遠くに来たつもりでも、宇宙では45光年はほんの近所なんだ。」と局長さんが私の肩を抱きながら言う。
「光速の倍以上の速度で20年飛んでも近所なんですね・・ 宇宙って怖いぐらい広いんですね・・」そう言いながら私は甘えるように局長さんに体重を預けた。
私は星空を見ながら、ぼんやりと これまでの事を思い出していた。
それはかなり前の事だが、地球への不法侵入事件が有った。どこかの小型の宇宙船が警戒区域内に飛来したのだ。 その宇宙船はロケット噴射式の推進システムで地球の物では無く、無人飛行でたまたま我が地球に流れ着いたものだったのだ。
宇宙船の飛行経路からmx45星から来たものと特定がされたのだが、そこは45光年ほど離れた場所だった。ロケットによる慣性移動では15万年以上かかって来た事になる。もちろんこちらから行っても15万年以上掛かる、宇宙は広くて、絶望的に遠いのだ。
ところが近年、アルクビエレ・ドライブの宇宙航行システムが実現し光速以上の移動が可能になった。局長さんはそのシステムを搭載した新探査船ゼクームを作ったのだ。
当然ながら最初の探査はmx45星だ。ロケットによる慣性移動では15万年以上かかるのだが、ゼクームで飛べばたったの20年ほどで着く。当然、途中はシステムは落とすので、私たちが目覚めた時にはmx45星の周回軌道に乗っていたのだ。
mx45星には4つの惑星が有り、第二惑星が目的地だった。第二惑星は地球より少し高速で自転をしていて1日は20時間ほどしか無い。昼が10時間で夜が10時間なのだ。
私たちは軌道を第二惑星の周回軌道に乗り変えてから、ドローン型着陸艇に乗り、この惑星の砂漠まで降りて来たのだ。
「サリー、そろそろシステムを落とすぞ・・」と局長さんが言う。
私たちアンドロイドには眠りは無い・・ ただシステムを落とすだけだ・・
SF・サリーとホリホー 紅色吐息(べにいろといき) @minokkun
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