第55話

 あれから、一週間が経過した。


 ヘレンは有罪となり、一生牢獄に入ることになった。

 既に平民になっているので、特別な処置などはない。

 後悔しても反省しても、彼女がやったことは、許されることではない。


 そして、殿下がボヤ騒ぎを起こしたそうだ。

 周りに被害はなかったけれど、殿下は意識不明の状態で見つかった。

 病院に運ばれて、一命はとりとめたものの、意識はまだ戻らない。

 意識が戻ったとしても、動けるかどうかわからないらしい。


 そして私は、久しぶりに王宮に来ていた。


 陛下に呼ばれてきたのだけれど、何か詫びをさせてくれと言われた。

 何でも願い事を叶えてやると言われたけれど、もちろん、可能な範囲でのことだ。

 まあ、陛下の可能な範囲なら、大体のことは叶えられる。

 実は私は、前から陛下にお願いしようとしていたことがあったので、そのことについて話した。

 

 それから私は、屋敷に帰ることにした。

 王宮の外まで、アンドレさんが見送りに来てくれた。

 彼と会うのは、ヘレンが捕まった時以来である。

 

「あの、アンドレさん……、私の屋敷に来ませんか? 今は私一人だけですから、いろいろと人手が欲しい時があるのです。いかがですか?」


 彼はあまり自覚していないようだけれど、私にとっては、彼は恩人である。 

 誰も私のことを信じてくれなかったのに、彼だけは、私のことを信じてくれた。

 あのことが、どれだけ私の救いになったかわからない……。


 本当はもっと違う誘い方をしたかったけれど、とりあえず今はこれが精いっぱいである。


「えっと……、はい、喜んで。あの……、驚きました、そのようなお誘いを頂けるなんて、嬉しいです。身に余る光栄というか……、私なんかでよろしいのでしょうか?」


「あなただから、いいのですよ。あなた以上に信頼できる人を、私は知りませんから」


「そう言って頂けて、嬉しいです。あ、そうだ! えっと、王宮の任務はどうしましょう……。一応私は、王族に雇われている身ですから、すぐに引き受けられるかどうか……」


「そのことなら心配いりませんよ。先ほど陛下にお願いして、あとはアンドレさんの意思次第だったのです」


「ああ、そうだったのですね……。相変わらず、準備がいいですね。それでは、これから、よろしくお願いします」


 彼は、笑顔で言った。


「ええ……、こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 私は彼に微笑みかけた。


 いろいろとあったけれど、これからもまだ、私の人生は続く。

 いつまでも過去を振り返って立ち止まっているだけでは、何も始まらない。


「それでは、行きましょうか」


 私はアンドレさんと共に新たな一歩を踏み出し、進み始めた。

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王子からの縁談の話が舞い込んできたのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行った結果 下柳 @szmr

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