魔法少女は天秤の上で

湯藤あゆ

神様の


人間の諍いや虐め、喧嘩などの、負の感情から現れる怪異、バケモノを屠り、人間に希望と未来を与える、ヒロイン。


なりたての頃のわたしは、右も左もわからなくて、早く色々勉強したいなって思ってた。けど、今こうしてあの頃を振り返ると、やっぱりあの頃が羨ましい。


だってあの時が一番楽しかったんだもん。友達と一緒に笑って……時には泣いて……そして恋をして―――。

そんな妄想に明け暮れることも出来た。

なのに今は。




「ほらほら、もっと気持ち良くしてよ?神様命令なんだからさ」

「は、はいっ……むっ、ん、く」

子供みたいなあどけなさが残る顔とは裏腹に大きな神様のモノを口に含んで舐めて奉仕する。

「いいじゃん、次、瑠璃奈ちゃん、頂戴?」

「はい、わかりました、……」

……こんなことをさせられてしまっている。

わたしの友達、廣瀬瑠璃奈。一緒に魔法少女になった、同期だ。ずっと仲良くしてきた彼女が、わたしと同じ相手に仕えているなんて光景としてはグロテスクすぎる……。

「うん、まぁ最初はねー。でもそのうち慣れるって!」

そう言ってわたしの頭を撫でてくれる神様だが、この行為には全然慣れない!というかそもそもしたくない!! 初めて言われた時は驚きすぎて思考停止してしまったけれど、もう3ヶ月目だからだいぶ落ち着いてきた。

落ち着いたけどこれに慣れてたまるか!!! その言葉を飲み込んで必死に手を動かす。舌を使って刺激すると神様からは先走りが出てくる。それが何とも言えない嫌悪感を植え付けるのだがそれでも一心不乱になって手を動かし続けると段々とそれは大きくなる。

「じゃ、そろそろ本番行くね?瑠璃奈ちゃん」

「は、ふぁい」

口いっぱいに含んでいる状態で話されたものだから出てしまう声は少し変だった。

だけど気にした様子もなくそのまま続ける神様に彼女は為す術も無く身を委ねてしまっている。腰を持たれると足を開かせるようにして持ち上げられる。つまり逆さまにしたお尻を突き出すような格好になるわけなのだが、その姿勢ではスカートがめくれて中が見えそうになる。下着だけ脱ぐ時間もなかったのかパンツをずらして現れた隙間から生のまま彼女の中に突き立てられていくのだ。

「んん、若くて締め付けもいいしっ、きもちい、ぃよ」

「ひゃうぅ、あっああ!!」

その太いモノで後ろの穴を激しく攻められてどうしようもないらしく、ガクンガクンっと体を震わせながら神様を受け入れる彼女。口からは既に飲み込めなかった唾液が流れ出て頬を濡らす。

「中に出すね?」

「えっ!?ぁ、ぁの、ナマはぁ、っ」

「何?嫌なの?」

「き、今日はぁあ危ないんですぅうっっ!!」

腰の動きが止まる。

「僕らはね、君たち低レベルな人間とは違って、生殖と娯楽くらい弁えてるんだよ。こっちで出す液管理してるに決まってるでしょ?そもそも、僕との子がほしくないの?神様からタネもらえたら嬉しいんじゃないの?はぁ、興が醒めたよ、もう帰って?」

「ぇ、ぁ」

「帰ってよ」

頬を叩く音がする。乾いた音ではなくどちらかと言えばバチンッと言う感じの音だったがそこには確かな痛みがあっただろうことは想像できた。叩かれた当人に至ってはそれどころじゃないかもしれないけれど。

「……失礼します……また明日来ます」

フラつきながらも立ち上がって衣服を整えると頭を下げたあと扉から出ていく。


魔法少女って、こんなだと思わなかった。

マナがもらえないと、わたしたちは戦えない。他の魔法少女と差をつけるために、枕営業が罷り通っているのだ。


「柚香ちゃん、わかってほしい。神様は絶大な力を持っている、君たちの命運、それこそ人生さえも掌握されているんだよ」

わたしのパートナー、りんちゃんがわたしに言う。名前とは裏腹に、紳士みたいな見た目だ。そう呼んでくれ、と言われただけで、わたし達と変わらない、非力そうな人。

「……そんなこと分かってるけど。わたし達はただ黙って従うだけで良いのよね?」

そう答えるわたしの顔を見て目を細める。

「本当に君は優秀な子だよ、僕の目に狂いはなかったようだね……さあ、次はここにバケモノが出たよ、倒しに行こう」

わたしの頭を撫でてくれるりんちゃん。彼はわたしのことを本当の娘のように扱ってくれるんだ。

彼の役に立てるなら頑張ろうと思う。

わたし達が戦うべき相手……それはこの世界を脅かすもの。いわゆる都市伝説や怪談と呼ばれる類のものだと言われている。それらを倒すことがわたし達の仕事。……だけどまだ未熟な魔法少女であるわたし達に単騎で向かって行っても敵いそうな相手などいないだろうというのが最近の悩みでもある。だから、今は同期の3人組で連携して戦っている。


目の前にいる化け物を見据えて、攻撃魔法を放つ。狙い通り命中したそれは、相手の腕を切り落とすことに成功した。悲鳴をあげて逃げる相手に追撃をかけるため、追いかけようとしたその時だった――。

視界の端で黒い影が動いたかと思った瞬間。

体が宙に浮く感覚があって、そして気付いた時には地面に叩きつけられていた。

息ができない……。こひゅ、という空気が漏れる音がする。

「大丈夫!?」

瑠璃奈ちゃんの声だ。回復魔法をかけてくれたらしく、幾分か楽になる。

「やってくれたわね……」

怒りに震える声で呟いてから、反撃を開始する。今の一撃で動きが鈍った相手を仕留めるのは容易かった。

肩を大きく上下させながら呼吸をするわたしに駆け寄ってくる瑠璃奈ちゃん。

「ごめんなさい、油断していたわけではないんだけど、まさかあんな隠し球を持っていたなんて」

「謝らないで瑠璃奈ちゃん。私のほうにも隙はあった。それに、あなたに治してもらったんだし」

そう言って笑いかける。

「それより早くここから離れましょう、柚香さん。まだ近くにいるはずです」

「そうだね……でもその前に少しだけ休ませて欲しいかなぁ?」

「わかりました、じゃあ休みながら今後のことを考えましょうか」

申し訳なさげにする彼女に笑顔を返すと少し安心してくれたようだった。

2人で話している間、一番遠くから射撃を繰り返してくれていたもう1人の仲間、松尾なつめちゃんが走り寄ってきた。

「大丈夫?怪我してたみたいだけど」

「大丈夫、ありがとう、なつめちゃん」

「あんま無理しない方がいいよ?」

そう言いつつも彼女は手際よく治癒をしてくれる。

「そろそろいいですか……?早く戻らないと危険ですよ」

「うん、もう平気」

本当はもう少し休みたかったがこれ以上時間を使うわけにはいかないと判断し立ち上がると辺りを警戒しつつ帰路についた。


「ぁ、あああ、ぁあ……っ」

「ほら、受け止めて?」

腰を強く打ち付けて笑う神様。

「……っは、出る……っ!!」

「〜~…………ッ!!!」

どぴゅっと中に注ぎ込まれる熱を感じ、神様がナカから出て行くと同時にわたしはその場に倒れ込んだ。

「面白いこと教えてあげようか?新しい武器ができたから、今度戦いの時に使ってみてよ」

そう言って取り出したのは、小さな丸い球。

「これ、爆弾なんだ。試作品だし威力もまだまだ弱いけど、周囲を破壊せず、敵だけを攻撃できるんだよ。今までのは多次元干渉しないと攻撃できなかったからビルとかぶっ壊しても仕方なかったけど、これで安心して攻撃できるよ」

「……はい」

武器を提供して攻撃にレパートリーを与えるのも神様の仕事。あの手この手で世界を救うわたしたちを演出し、楽しんでいる。劇作家の気分なのだ。滑稽だと思ったことももっといっぱいあるのだが、それは奥歯で噛み潰した。

魔法少女のシステムを作り上げたのも「神様」たちだ。神様が居なければ魔法少女の力はないに等しいだろう。だからわたしたちは彼の機嫌を取ることしかできない。

わたしもいつか、誰にも左右されない、立派な魔法少女になれるだろうか……そんな夢のような話が叶うことは多分、いや絶対ないのだけれど。


☆★☆


〜♪

携帯端末が鳴る音で目が覚めた。まだ日も出ていない早朝だと言うことに気がついて嫌な予感に襲われる。何かあったに違いない。急いで電話に出た。

『大変だ!街にバケモノが出た!かなり大きいよ、注意して!』

案の定だ……。昨夜戦ったばかりだというのにまた出たのか……。すぐに身支度を整えて家を飛び出す。外はまだ暗くて、明かりなしでは歩けないほどなのに、人々はみんな早足で目的地から逃げていた。

街の中を走り回って探す。

――見つけた。

それは昨日のものより一回り、いや二周りは大きな、手のたくさん生えた異形。

「これはやばそうだね……」

「ええ、相当大きいみたいです……」

「瑠璃奈ちゃん、なつめちゃん」

他の2人も合流し、3人で変身する。変身後、改めてそれを見たが、やはりただ事では済まなさそうな気配を感じた。

そして現れた巨大な化け物に相対する――。

「瑠璃奈ちゃん!」

「わかってます!」

瑠璃奈ちゃんが防御魔法を展開する。だが、雄叫びを上げるそれが繰り出す打撃は一打一打の範囲が大きく、防ぎきることができないようだ。何度か食らううちに次第に傷ついていく瑠璃奈ちゃんを見て思わず叫んだ。

「瑠璃奈ちゃん危ない!!」

一瞬怯んだ彼女の前に躍り出て、敵の攻撃を受け止めようとする。はっと思い出して、爆弾を取り出して投げつける。

耳にくる轟音が聞こえる。すぐ後、怯んだバケモノが見える。

その隙に瑠璃奈ちゃんに駆け寄ると、回復魔法をかけてあげた。

そしてなつめちゃんと共に攻めに転じる。

「うわぁぁあっ!?」

なつめちゃんが吹き飛ばされる。衝撃によろけ、体勢を立て直す前にそれを追撃されそうになって焦りが込み上げる。冷静に打撃をかわすと、

「3人で撃つしかないですね」

瑠璃奈ちゃんの提案が耳に入る。

「わかった」

すぐさま飛び上がり、息を合わせて同時に魔力光線を放つ。

「ブルータル・マジカル・インフェルノ!!!」

3つの青い光が合わさったそれは敵を直撃し、断末魔を上げながら爆発四散させた……はずだった。しかし煙が晴れるとそこには先程と全く同じ姿形の怪物が立っていた。

「どうして……」

揺れる心の隙をつくように、その異形は攻撃を繰り出す。

「え゛ぎぅ!?」

避けきれずまともにくらってしまい、壁に叩きつけられる。

「ひゅぐっ!」

痛む身体を動かそうとするが、手足が痺れて動かない。

「なん……れぇ……」

意識が薄れそうになるのを感じ、必死に耐える。

「きゃぁあっっ……!!!」

「瑠璃奈ちゃん!!!」

彼女も同じように攻撃を受けている。そのまま地面へと落ちていく彼女は、人間の脆さを象徴していた。もうダメかもしれない。霞みゆく視界の中、わたしは見たくないものを見てしまった。

「ぁ、ぁ……ぃやぁ……!!いや、や、ぁあああああ!!!!!」

腕が。右腕が取れて落ちたのだ。瑠璃奈ちゃんの、さっきまであった部分に何も無い。断面から血が流れる。あちらこちらに体液を撒き散らし、いやいやと首を振って抵抗する瑠璃奈ちゃんは、眼も虚になっている。地面に転がっている手の断面からは白い骨さえ剥き出しになっていた。いやそれよりも――

「……っ」

言葉が出なかった。気持ち悪い。

「フラッシュ・エクスプロージョン!!」

なつめちゃんが攻撃を仕掛けようと飛び込んできたのを見てはっと我に帰る。わたしもすかさず援助の攻撃魔法を連撃する。謎の呻き声をあげ、化け物は撤退して行った。

「ぁぐぅ!?」

その辺に投げつけられ、全身を強く打ちつけてしまった瑠璃奈ちゃん。痛みで悶えることしかできないようだ。

「ふぅ……ふぅ……」

「腕が欠損してしまったら、もう治せない」

後ろから聞こえてくる声の主は、りんちゃんだった。わたしたちの様子を伺っていたらしい。

「そ、そんな……」

瑠璃奈ちゃんの腕を見る。どうしようもなく凄惨な光景に思わず吐きそうになってしまう。

「どうしたらいいの?」

「神様に頼むしかないけど……」

「……」

「瑠璃奈ちゃん、とりあえず一旦帰ろう?話はそれからだね!」

「う、うん。そう、ですよね……ごめんなさい……」

「謝ることないよ!立てるかな!?ほらはやく!」

瑠璃奈ちゃんの左手を取って立たせようとする。それさえも、皮肉だ。


「まったく。負けちゃうなんて、弱っちいなあ、人間はさ」

神様の言葉は、相変わらず幼く、故に残酷だ。

「魔法少女は、勝ってなんぼなんだ。異形を斃して、みんなに希望を与える。君たちはさ、エンターテイメントなんだよ。勝てなきゃ、意味がない。増して、手なんかもぎ取られて、どうするのさ?」

それを聞いて、涙が出てくるほど腹が立った。

「「瑠璃奈ちゃんをどうする気?」」

2人同時に口を開いたようでお互いにびっくりした顔をしてしまった。それどころではないのに、今、思いが一致したことに、少し安堵する。

「なに」

冷たい視線。今までなら怯んでいただろうが、今は違う。怒りが勝るだけだ。

だが、無視されてしまう。神様は続けた。

「生意気だね、2人とも。まあ最後まで聞いてよ。瑠璃奈ちゃんは鈍感だし弱っちいからさ、もう解雇。クビだよ。その辺に捨ててあげる」

その一言を聞き、俯いていた瑠璃奈ちゃんが、ばっと勢いよく顔を上げた。

そして目いっぱい叫んだ。

「私は……わたし、は……まだ、まだ戦えます!!絶対にあなたみたいな神さまには屈しません……!!1人で戦います!!」

「へぇ、じゃあこうしてあげるよ、ほら」

「え?」

玉座の高いところの天辺に座っていたはずの神様は、息を吐くと同時に目の前に突然現れる。

「ごちんっ」

腕を庇っていた瑠璃奈ちゃんの頭を拳骨で小突く。ほんとうに、ほんとうに弱い力で押しただけのように見えたが。

「脳が損傷して、もうなんも考えられないでしょ?これからは、僕の性奴隷。人間の雌豚として生きていくんだ。壊れたおもちゃはリサイクルする。戦えなくなった魔法少女は肉オナホにする。これが、君の運命だからさ。人間としての一生はここで終わり……さよなら、瑠璃奈ちゃん♪」

「ぅ、ぁ……ぁ、ぁあああっっ??」

瑠璃奈ちゃんは人間らしい表情を失い、言語とは違う、感情もない声帯の振動を吐き出すモノと化してしまった。

「わかった?君たち魔法少女は、いっぱいの神様が楽しむ娯楽だ。僕はそのプロデューサーみたいな感じ。生かすも殺すも、僕次第。こんなふうになりたくなかったら、大人しく、従え」

あまりのことに頭がついていかない。わたしとなつめちゃんは無言のまま立ち尽くしてしまっていた。

わたしたちは、神々に弄ばれて、ポイされるだけの、エンターテイメント。

人間を救うんじゃない。


精一杯、娯しませるだけの、神様の馬鹿なおもちゃなんだ。













首を、吊った。

苦しくて、暴れても、もう遅かった。やだ、やっぱり死にたくない。でも、もう足は地面には届かなくて。悶えていると、扉から光が差し込んできた。

「り゛ん、……ちゃ」

りんちゃんだ。

たすけて。わたし、こんなにつらいの。かみさまが、ひどい。いじわる。でも、りんちゃんは、わたしのこと、いつもかわいがってくれた。すきっていってくれた。だいじょうぶ。たすけてくれる。

「……」

無表情でこっちを見ているりんちゃんの顔はハッキリは見れなかったけど、きっと、笑っているに違いないと思った。だって、りんちゃんはずっと、わらっていたから。

「くひゅぅ……ぐふ、ぅ……」

視界から、どんどん境界がなくなって、やがて、全部がほどけていく。私はソーダの泡の、空っぽの、みたいだ。

でも、わたしから目を逸らしてしまう。りんちゃんは、どんどん、わたしから離れていく。どろって、してしまう。

りんちゃん、たすけて。いかないで、ごめんなさい、ごめんなさい、りんちゃん……、おかあさん、










「また、耐えられなかったみたいで。はい。替えを用意します、『箱庭』の外から1人、テキトーに選んで育てます。はい、はい、よろしくお願いします。あ、そうですか?じゃあ、次はもっと強そーなの仕入れますね」

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