心に誓う

「本当? ありがとう」

「……ああ。小学四年の五月下旬ごろに、クラスメイトでサッカーが得意な……漆原うるしばら爽磨そうまが、『昼休みに空太が花壇の花を踏み荒らしているところを目撃した』って……五時間目の授業開始直後、みんなの前で担任に報告した。先生は知らなかったらしくすげぇ驚いてた。慌ててみんなで見に行ってみると、沢山の靴跡があり、花びらが散らばっていて、葉っぱはちぎられ、茎は根本から折られていて、本当に酷い状態だった。だけど俺はやった覚えがなかったしやっていない。

 みんなが一斉に振り向いて俺に冷たい目を浴びせてきたから正直パニックになった。けど、何とか心を落ち着かせて少し考えてみると、爽磨が犯人だと確信した。あいつは飽きもせず毎日俺に悪口を言いにきてたしな。納得はしたけどそこまで嫌われてるのか、って正直ショックを受けた……。とにかく俺は『犯人は俺じゃなくて爽磨だ』って必死に訴えた。ところが、俺の言葉をその場にいた誰一人……担任すら信じてくれなかった。味方がいないという冷たい現実を受け止めた俺が、無実を証明することを諦めて謝ろうとしたその時だ。光琴が静かに右手を挙げて、『私は空太が犯人じゃないと思います』って発言した」

 そこまで聞いて、ついさっき空太は私が右手を挙げたのを見て、この出来事を思い出したから、嬉しそうに笑ったんだと理解した。

「みんながざわめきだして俺から光琴に視線を移した。光琴は俯いたけど、両拳を握りしめるとすぐに顔を上げて、『だって、空太は今日の昼休み中ずっと私と一緒にいて、うさぎ小屋の前でお喋りしてたから踏めるはずがない』ってアリバイを示してくれた……。朝の会で三分間スピーチを発表している時は、高くて、震えてて、聞き取りづらい小さな声だったのに、あの時は顔は強張っていたけどハキハキと喋っていた。あの時、光琴は勇気を振り絞って発言してくれた。……違うか?」

「違わないよ」

 私は迷わず肯定した。

「私、漆原くんが嘘を吐いて空太を犯人に仕立て上げようとしてることに気づいて、どうしても許せなかった。だから勇気を振り絞ったの」

 空太はほっとしたように笑った。

「そっか、勘違いじゃなかったんだな……。実は、嬉しすぎて涙を堪えるのに必死でお礼を言えなくてそのままタイミングを逃して言いそびれちまった。随分と遅くなったけどあの時救ってくれてありがとう。俺にとって光琴は勇敢なヒーローだ……」

「ううん私なんかより空太の方がヒーローだよ……。私、空太が優しいってこと、ちゃんと分かってるから」

「……俺は優しくねぇよ」

 何それ、お兄さんより空太の方が優しいよって毎日言えって頼んだくせに。友達……兼彼氏の照れくさそうな笑顔にキュンとしながら、『お兄さんの方が優しかった』なんてもう二度と言わないと固く心に誓った。

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お兄さんの方が優しかった 虎島沙風(とらじまさふう) @hikari153

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