〝きゅんししそう〟
空太は呆れたような口調でそう言った。でも言葉とは裏腹に嬉しそうに笑っていて耳や頬が赤く染まっている。私も一向に熱が冷めない頬に右手を当てながら返した。
「私も困るな……。私のかっこいい彼氏は優しくてキュン死しそうだから」
「なぁ、勉強不足で恥ずかしいけど〝きゅんししそう〟って初めて聞いた。どういう思想だ?」
空太は難しい顔で黙り込んだ後でそう質問してきて、やっぱり隠れ天然だ、と小三の頃から確信していた私は堪えきれずに吹き出した。
「お、おい。笑うな……。もしかして知らないと恥ずかしい常識なのか?」
「別に常識ではないし知らなくても問題ないと思う」
「そうか、でもまあ気になるから後で検索してみる」
「うん」
そういえば、好きだってことは打ち明けたけど好きになった理由は説明していない。
迷った末に「ねぇ覚えてる?」と尋ねる。そしたら、急にそわそわして落ち着かなくなって、助けを求めるように空太の机に両手を突いた。
「ん? 何を、だ?」
「小四の七月、夏休みが始まる何日か前に気分が悪くなった私を助けてくれたこと」
そう言った途端、空太の目つきが変わった。反応したってことは多分忘れてない。
「何日だったまでは覚えてないけどその日、私は給食を食べた後から激しい腹痛に襲われていた。それでも昼休み中ずっと我慢していたら、掃除中に吐き気に襲われて立っていられなくなって教室の床にうずくまった。私の異変に空太がいち早く気づいて、職員室まで連れて行って先生に事情を説明してくれた……。私はその日から空太のことが気になり始めて、自然と目で追うようになった。空太はいっつも、不器用で鈍臭い私を助けてくれて……、それで気づいたら好きになってたの」
話し終わると、空太が何の前触れもなく私の両手をぎゅっと握ってきた。可愛い行動だけど、
「……やめてよ」
「嫌なのか?」
「い、嫌じゃないけどみんなもいるし気づかれたら恥ずかしいでしょ。意外と大胆だね。空太は恥ずかしくないの?」
「恥ずいけど、もし気づかれても今日めでたく恋人になったんだし問題ないだろ。そうか、光琴は好きになった理由を教えてくれたんだな。さんきゅ。じゃあ俺もこうして手を握るより恥ずかしくて教えたくねぇけど……教えてやるよ」
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