必然という名の偶然

結騎 了

#365日ショートショート 020

「新田警部!聞いてください!ついに発見しました!」

 警視庁捜査一課が使用する会議室に、新米刑事である古池が駆け込んできた。

「なんだ、藪から棒に」

「解決の糸口が見えない例の連続殺人事件ですよ。関連性がないと思われていた被害者の3名ですが、なんと、彼らの共通点を見つけたんです!」

 古池のあまりの勢いに、新田は思わず体をのけぞらせた。ドヤ顔、というものにお手本があれば、こういう表情をいうのだろうか。

「まあ、いい。お前のことだ、あまり期待はしていないが。試しに言ってみろ」

「もう、新田警部はひどいですね、相変わらず」

 愚痴をこぼしながら、古池は長机に被害者の資料を並べていく。

「殺害方法も殺害場所もバラバラのこの事件。遺体が同じポーズだったことから連続殺人事件として捜査していますが、それ以上の関連性は見つかっていませんでした。しかし、ここ!プロフィールのここを見てください!」

 古池の指がまっすぐ伸び、資料の一点を指している。

「生年月日?」

「そう、生年月日です!ここには、犯人の意図があるに違いありません」

 眉をしかめながら、新田は頭をかいている。

「まあ、とりあえず続けて」

「耳をかっぽじって聞いていてください。いいですか、まず1人目の被害者。彼の誕生日は11月9日。そう、あの新撰組の近藤勇と同じ誕生日なんです」

「それが?」

「まだ察せないんですか? まったく。続けますよ。2人目の被害者の誕生日は、1月31日。徳川家康と同じなんです。ほら、まだまだ。3人目は1月24日、言うまでもなく、発明家である平賀源内と同じです」

「だから?」

「つまりですね!この被害者は全員、江戸時代の偉人と同じ誕生日なんですよ。これには、犯人からの何かしらのメッセージが込められている。そう思いませんか?」

 一瞬の後、会議室に大きな溜息が響く。言うまでもなく新田から発せられたものだ。

「いいか、古池。誕生日というものは、365通りしかないんだ。江戸時代の偉人が何人いると思っている。そんなの、ただの偶然だ。必然なんかじゃない、単にバラバラだよ。なんの当てにもならない」

「そんな!ただの偶然で済ませるんですか」

 新米刑事は、どうやら納得がいかないようだ。

「お前なあ、よく考えてみろよ」

 そうぼやきながら、新田は手元のノートパソコンを操作した。

「ほら、見てみろ。あくまで一例だが、これがこの捜査一課に属する警察官のリストだ。総勢365名。俺とお前の名前もある。見てみろ、ここに生年月日が入力されている」

 マウスを軽快にクリックすると、リストが一瞬にして並び替えられた。

「な? 見てみろ。誰ひとり誕生日が被っていない。てんでバラバラだ。これが偶然ってやつだよ。生年月日の必然なんて、そうそう起こりはしないものさ」

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