第11話

「そんな悪い人に学校を支配されてるなんて危険だよ!その人が無茶苦茶なことをしてるの? 部活動紹介(物理)みたいな」


 晴香の言葉に、悠里は首を振る。


「実はそうでも無い。二人は電子生徒手帳を持ってる?」


 その言葉に美咲は首を振り、晴香は頷く。晴香は胸ポケットから電子手帳を取り出すと起動する。

 画面いっぱいに校章が映し出されたあと、いくつかの項目が出てきた。


「その中の校則を見てみれば分かる」


 晴香は校則の項目をタップする。

 本来なら沢山の校則がずらりと並ぶところだが、そこには一つの校則が、大きな空白の上に佇んでいた。


【校則 第一章 第一条

 生徒会副会長及び風紀委員に、校則の制定と削除の権利を与える。ただし、タタカブに1度でも敗北した場合、この権利を失い、役職を解任する】


 悠里はこれを指さす。


「これを制定してから生徒会長は生徒会室に、一人籠り続けているんだ。むしろ滅茶苦茶してるのは、ここに書いてある風紀委員達だよ」


 美咲は、ふと記憶を振り返る。そういえば今回の部活動騒ぎも、開会した金剛寺も風紀委員を自称していたと。


「でも何故、生徒会長はこんな校則を?」


 美咲の質問に、レーニナは肩を竦めた。


「さぁな。というか目的どころか本名も性別も分からんのじゃ」


「じゃあ顔は? 全校生徒の前で挨拶したんですよね? その時に……」


「顔も見れておらん。なんせアイツは──」


 レーニナはトントンと自分の頬を叩く。


「仮面しとったからな。よくお祭りで売ってるような戦隊モノのお面じゃった」


 戦隊モノのお面と聞き、思わず晴香を見てしまった。

 美咲の視線に、晴香は違う違うと首を振る。

 咄嗟に見てしまっただけで、疑いを持ったつもりではなかった。

 レーニナが突然事務机を叩く。


「あの生徒会長の目的は未だ不明じゃ! しかし良からぬことを考えていることは明白! 動き出す前に我々、革命部が生徒会長を打倒し、校則の制定の権利を奪い取る! そしてゆくゆくは……クククッ!」


「ニナちゃんがんばえー」


「ニナ部長頑張ってください。応援してます」


「他人事みたいに言うな!キミ達も頑張るんじゃ!」


 赤星姉弟にイジられるレーニナ。そんな楽しそうな雰囲気に美咲と晴香はノれずにいた。

 美咲は何か考え込んでいて、晴香は怒りと正義に震えている。そんな二人にレーニナは、声をかけた。


「どうじゃ? キミ達も革命部に入らないか? すぐに返事を寄越せとは言わん。もうこんな時間だしな」


 レーニナは椅子を回転させ、茜さす窓へ振り返る。

 スマホを見ると時刻は17時をとっくに過ぎていた。

 悠里が立ち上がる。


「二人の鞄を取ってこよう。俺なら部活の連中に絡まれることもない」


 美咲と晴香はお礼をいい、自分のクラスと机の正確な位置を教えた。悠里は頷くと出入り口の穴へ向かう。

 十分後。穴の向こうから悠里の声が聞こえた。


「二人とも来てくれ」


 晴香と美咲は穴を潜り、ロッカーから這い出でる。

 ロッカーの外では、悠里が息を整えていた。


「これで合ってるか?」


 それぞれに鞄を渡し、さらに外履きの靴まで渡してきた。目を丸くする二人に、悠里は言う。


「鞄を取りに行く途中で、外に出るなら靴もいるだろと気づいてな。勝手ながら探して持ってきた」


「「ありがとうございます!」」


 彼女らの元気な感謝に、悠里は口元で人差し指を立てる。


「シッ! まだ他の部活達がいるかもしれない。俺の後に付いてきてくれ。出口まで先導する」


 そう言い、歩き出す悠里。その大きな背中を、晴香と美咲は追うのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

叩いてかぶってジャンケンポンで全てが決まる、ふざけた世界の片隅で ヨシュア @Joshua12121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ