見抜いているぞ、それも

結騎 了

#365日ショートショート 038

 怪盗は、高らかに名乗りを上げた。

「我が名はデイバロン、またの名を『の男爵』。予告通りの白昼堂々、この美術館に参った。さあ、展示中のダイヤ『深淵の瞳』を頂戴するとしよう」

 所狭しと配備された国際美術館の警備員らは、固唾を飲んでその様子を見守っていた。予告通りの時刻に天窓を割って現れたデイバロン、そして、彼の侵入経路を予測して天窓の下に立っていたのが、少年探偵の鴨川かもがわルナンである。

「ふふっ、お前がそこから入ってくることは、僕には分かっていたよ」

「またお前か、小僧。ここで会ったが百年目」

「芝居じみだ言い回しは健在だな」

 怪盗・デイバロンと、少年探偵・鴨川ルナン。月に数度の頻度で新聞の一面をジャックする彼らは、今日もこうして対峙していた。事前に予告状を送り、マントを翻して盗みを働く神出鬼没の男爵。方や、子供でありながらずば抜けた推理力で警察組織から絶大な信頼を得ている小学生。互いを知り尽くした彼らの知略は、今日も止まらない。

 一時の沈黙を経て、少年探偵が軽やかに口を開いた。

「分かっているぞ、デイバロン。ここに現れたお前が本物でないことは」

「ほう、さすがだ小僧。我が好敵手なだけはある」

 その瞬間、デイバロンの姿が煙に包まれる。ポンっ、とまるでマジックかのように消失。不敵な笑みを浮かべているのは、ダイヤの真横に位置していたひとりの警備員だ。

「私の変装を見破ったか。ふっふっふっ。では、先程の私の分身のタネも割れているのかね」

「もちろんだ。発明家でもあるお前が開発した3Dホログラム。あらかじめこの部屋に仕掛けを施していたのだろう。割れた天窓のガラスが、人体が突っ込んできたにしては少ないからな」

「ほう」

 警備服を剥ぎ取り男爵の正装に戻ったデイバロンは、どこか嬉しそうな笑みを浮かべる。

「だがしかし、私も看破しているぞ。この『深淵の瞳』、偽物だろう。模造品とすり替えたな」

 ルナンの眉がぴくりと動く。

「私の左目のスコープからは、特殊な赤外線が出ている。そして、もし本物の『深淵の瞳』であれば、こんな単純な反射はしないのだ。獲物へのリサーチは欠かさないのでね」

「その審美眼も衰えず、だな」

 やはりルナンも笑みをこぼしている。

「だがデイバロン、俺はお前の脱出経路も把握済みだ。そこの通気口だろう」

「それをお前が予測することも分かっている。通気口にはトラップが仕掛けてあり、追いかけた警備員たちには眠ってもらうつもりだった」

「ふん、僕はそれも分かっているぞ。ガスで警備員を眠らせて、お前は用意していたガスマスクを着けるつもりだ。やはり通気口から逃げるのだろう」

「だが君が通気口の出口にすでにパトカーを配置するよう伝えているのも知っている」

「そのパトカーに細工がしてあり、エンジンがかからなくなっているのだろう」

「だからこそ君は白バイ隊も一緒に待機させている」

「すぐ横の国道に大型トラックが控えていて白バイを邪魔する」

「だからこそ君はヘリも飛ばしているな」

「そしてパイロットは買収されている」

「だから2機」

「今日は強風、ヘリは危ない」

「そのためのドローン」

「妨害電波」

「部品のすり替え」

「製造工場の買収」

「株の操作」

「だから?」

「それなら」

「つまり」

「で、あるため」

「ふむ」

「なるほど」

「さすがだ」

「お前も」

「だが」

「やるな」

「しかし」

「されど」


 その後、デイバロンが実はルナンの変装だと明かされ、ルナンが3Dホログラムだと明かされ、美術館が巨大なセットだったことが明かされ、首都東京が電脳仮想空間だと明かされ、日本国がベイト星人にすでに制圧されていることも明かされた。

 両者は、すこぶる楽しそうだった。

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見抜いているぞ、それも 結騎 了 @slinky_dog_s11

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