13
それから一週間が経ったが、三人の懸念に反してアルアからの接触はなく、またリエナからの接触もなかった。彼らは相変わらず、各々が仕事をしながらラ・ケーターでの暮らしを続けていた。
ウィントは夕食を終えて部屋に戻ると、新聞を片手にベッドに転がった。「あれから一週間経ったけど、何にもなかったな……」
彼は後ろめたさを感じていた。ローダーとは、リエナの方からコンタクトがあるまで何もしないという約束をしたが、この一週間は何もしなさ過ぎた。一方で、自分だけがやきもきしているとすると滑稽な感じがして、彼やセウに相談するのも気が引けた。
「まあ、まだ焦ることは無いんだ。」と自分に言い聞かせるように呟いたとき、新聞の一面が目に入った。(墜落……島が?)
北半球の中-高緯度地域の空に浮かぶ浮島群──
浮島が空に浮かぶメカニズムは定かではないが、一説には魔力を多分に含んだ浮島特有の植生が、一定の気流を生み大地を浮かせているという。歴史上、山火事や森林の伐採によって島が十数メートル沈下したという例は何件かあるものの、墜落したという話をウィントは聞いたことがなかった。(何かの冗談じゃないのか……?)
彼はすぐに浮島の挿絵に意識を向けた。海抜約三千五百メートルの上空に浮遊するその島は、何の変哲もない普通の浮島だった。逆台形の大地の上に山がそびえ、水をたたえ、木々が繫茂し、そして街が賑わっていた。
記事に夢中になっていた彼は窓の隙間から飛手紙が入ってきたのに全く気が付かず、背中に封筒が当たった感触でようやく我に返った。
「手紙?長距離便……」彼は起き上がってそれを手に取ると、差出人の名を見た。特殊な形式のその飛手紙は様々な集荷場を経由したようだが、出発地は『ペレテレ軽便鉄道』となっていた。サンレザー号の誰かか、さもなければリエナからだと高をくくっていた彼は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
ウィントはすぐに二人を呼び、封を開けるかどうかを話し合った。「罠かもしれないが……どうする?開けるか?」とローダー。「遠くから届いているわけだから、少なくとも奴じゃないだろう。」
「差出人偽装でリエナって線が妥当じゃない?そもそもペレテレってどこさ。」とセウ。「だって、もし差出人がリエナだったとしてもだよ、正直に名前を書くと思う?」
セウの主張に、ウィントは同意した。「僕も同じ意見だ。リエナからの手紙だといいなっていう願望も、勿論あるけどね……」
「俺も概ね同意だが、魔術書を狙ってるのが北方浮島だけじゃない可能性もあるんだ。最大限の用心はしておこう。」とローダー。「で、どうする?」
ウィントがしばらく考え込んでいると、セウが提案した。「まあ普通に考えたら、開封せずに処分だよな。けど、私は開封してもいいと思う。」
それを聞いてローダーが言った。「俺も構わん。ウィント、お前が決めていいぞ。」
「……とりあえず取り出してみるか。」とウィントは言って、ペーパーナイフで慎重に封を切り始めた。
中には2つ折りになった紙が入っていた。彼はそれを月明りに透かして注視した。「攻撃的な魔法陣はなさそうだ。妙な形式だけど、飛手紙の魔法陣だけだと思う。」
「妙な?大丈夫なのか?」とローダー。ウィントが首を斜めに振るので、二人は少し不安になった。
「全然見たことない言語なんだよ。けど……魔力プール──時計で言うゼンマイね──が小さいから、攻撃的なことはできないはず。」
少し無言になったあと、ウィントは言った。「じゃあ、開けるよ。」
「こっちは準備万端だ。」とセウが言う。ローダーも頷いた。
意を決して彼が紙を開くと、内側が突然光り輝いた。紙を持ったまま啞然とするウィント。
「伏せろ!」ウィントに向かってローダーが叫ぶ。次の瞬間、閃光と共に爆風が起こり、部屋中の物が吹き飛ばされた。
熱砂を掻くパドルウィール 33ポンド @33Pound
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