20話「思い切って誘ってみた」
「今日からはテスト週間だから、家に帰って勉強した方がいいかな?」
「そっか……。テスト週間だもんね。テスト中も含めて10日間くらいだから、ちょっとだけお預けだね」
いつもの様に公園でのんびりと過ごしたいところではあるが、テスト週間ぐらいは家にまっすぐ帰って勉強するべきだろう。
そんなつもりで姫野さんに言ったのだが、ちょっと残念そうな顔をしている。
毎日、放課後に公園で特に何をするわけではないが、話をしたり遊んだりするのは、結構楽しい。
「公園に通うの、結構ハマったでしょ?」
「うん。猫ちゃんいるし、この年になっても、遊具で遊ぶの結構楽しいよね」
「そうそう! やっと分かってくれる人を見つけたぞ……」
大体、この年で公園の遊具がどうのこうのとか、なかなか言えないし、分かってもらえない。
姫野さんには、分かってもらえたようで何より。
「それに、将暉君と一緒に話したり出来るのが、楽しいからね」
「えっと……ありがとうございます」
姫野さんはさらっと言ったが、なかなかにドキドキする言葉だ。
というか、姫野さんはもう俺の下の名前で呼ぶことが板についてきているような気がする。
ということは……?
その時、俺の中にある一つの考えが浮かんだ。
姫野さんは、俺と話すことが楽しいと言ってくれている。
もしかすると、さっきの残念そうな顔をした理由は……。
「あ、あの。姫野さん!」
「うん?」
「今度の土曜日……。良かったら、うちに勉強しに来ない?」
先程、浮かんだ一つの考えから、思い切って姫野さんをまた家に来ないかと誘ってみた。
もしかすると勘違いかもしれない。
そんな考えもあって、今日から放課後全ての日を誘う、というのはとてもじゃないが、出来なかった。
「えー、どうしよっかなぁ」
自分が思っていた以上に、姫野さんの反応があんまり良くない。
その反応を見て、やはり自分の思い違いだったかと思って、身が縮む思いがする。
「あっ……すいません。聞かなかったことにしてください……!」
「嫌なわけじゃないよ? でも、すんなりと受け入れるって気にはならないかなぁ?」
「ど、どういうことでしょうか……?」
「さっき私の事、なんて呼んだ?」
「あっ……」
思い切って誘おうとして、緊張していたことと、まだまだ呼び慣れていない事もあって、いつもの呼び方をしてしまっていた。
要するに、俺がちゃんと名前で呼んでいないから、姫野さんはちょっといじけているようだ。
「まだ間に合うよ?」
「え、えっと……。み、美由紀さん! 今度の土曜日、良かったらうちに来ませんか!?」
「うん、行く」
「よ、良かった……」
言い直すと、姫野さんは笑顔で即答してくれた。
自分から調子に乗って誘ったのに、姫野さんの反応一つで、あたふたしすぎている自分が情けないと思ってしまう。
「良かったらご飯、作るよ?」
「本当? 面倒でなければ是非……!」
「うん、分かった」
一緒に過ごせたらいいな、と思っていたが、まさかの手料理まで作ってくれるらしい。
テストが近いのに、そんな負担をかけてはだめなのかもしれない。
ただ、あの体調不良時に作ってくれたお粥の記憶を思い出すと、普通に欲望に負けた。
「さっき思ったんだけど……。将暉君、私の名前呼ぶときさん付けって呼びにくくない?」
「まぁ、確かに名字呼びの時よりは、呼びにくくなってるような気がする」
「もうさ、呼び捨てで良くない?」
「え?」
確かに、姫野さんの名前を呼ぶときにさん付けだと、ちょっと呼びにくいと感じる部分はあった。
しかし、だからといって呼び捨ては流石に……。
「俺の名前も呼び捨てにする?」
「うーん、君付けの方がしっくりくるから、しないかな」
「お、俺だけするの……?」
「だってさ、君付けはそれなりに親しみ感あるけど、さん付けって距離感ある感じしない? 名前で呼んでるのに、さん付けは違和感が……」
「じゃ、じゃあやっぱり……」
「間違っても、名字呼びに戻すと言わないでね?」
「あ、はい……」
俺が先に言おうとしたことを、防がれてしまった。
先程すんなりと、名前呼びを受け入れた立場だし、翻すのも良くないか。
「頑張って慣れていこうね、将暉君!」
「はい……」
姫野さんに、どんどんと主導権を握られていく。
果たして俺が、ちゃんと姫野さんの名前を呼び捨てで呼べる日はいつになるのやら。
まだまだ姫野さんと会話するときに、ドキドキしないといけない日々が続いていきそうだ。
次の土曜日も含めて、もっとお話をしたりして、慣れていこうと心に決めた。
告白の返事を誤魔化すために出した条件。全て達成して美少女になっているなんて。 エパンテリアス @morbol
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