第26話 準備
オーバーフロー騒ぎから早一月。
陽の出ている間は森で魔物を狩り金を稼ぎ、夜は小一時間イーリスかオルテの剣術指導。時に乗馬の練習、と慌ただしい一月だった。
冒険者ランクの方はボス討伐の功績もあって飛び級でCランクになった。これでファイルと同じランクだ。
一月もあれば慣れるものでこの世界に順応してきた。いろいろ戸惑うこともあるけど住めば都って感じだ。
そんなこんなで一か月が過ぎ、今、ファイルと一緒にイーリスの部屋に来ている。
オーバーフロー後の宴会で、一月後空けておけ、と言われたからである。やっと一月経ったのであの言葉がどういう意味か教えてくれるんだとか。
「よし、三人ともおるな?」
形式的、ともいえる質問に揃って首を縦に振る。
「焦らしてないで早く本題に入ってよ。ここ一ヶ月どんなけ気にしたと思ってるんだよ」
はいはい、とファイルの文句を軽く流すイーリス。やっぱり慣れてるな。
「まずは単刀直入にゆうわ。俺らは北に出かける」
あまりにも
「なにしにいくの?」
イーリスをじっと、純粋無垢な瞳で見つめたレオンが俺らの思いを代弁してくれた。
最近レオンの口数が増えてきたんだよね。とはいっても家の面子とマスターくらいしか相手にはしていないけど。
「ええ質問やな。かなり北の方にちょっとした、職人が集まるところがあってな色々あってその人らと縁があるんよ。やから君らの装備を作って貰おうって思うてな」
「装備って……一式そろえるつもりなの?」
「もちろんそのつもりや」
飄々と応えるイーリス。ファイルの口は半開きだ。
「何か問題でもあるの?」
「大ありじゃん。ボクもフロレスもそんなに余裕ないでしょ? 家賃はシラソルが免除してくれているし、家にいるときのご飯もタダだけどさ……。装備一式ってすっごく高いんだよ?」
矢継ぎ早に言葉を繰り出すファイル。
「ファイル、ちょっと落ち着き」
「そうだよ」
「キミら、楽観的すぎない?」
「お金のことは心配せんでええ、はず。そこの職人なんやけど大分変わった人らでな。ちょっとしたあてはあるから安心し」
「それって合法なのだよね?」
大丈夫大丈夫、と軽くあしらうイーリス。
「それで、いつに出発するの?」
なかなか話が進まないので口を挟んでみる。方向転換だ。
「できれば明日か明後日やな。そうと決まればいざ買い物や。ほら、用意してき」
背中を押されつつイーリスの部屋を後にする。
そんなわけでまずは貸し馬屋に。
ここ一月で何度かお世話になった貸し馬屋だ。
そこそこ広い厩舎にはいつもと同じように数十頭の馬が入れられている。毛の白いのや茶色いの、黒いのと柄や色は様々だ。
その中でも俺は黒毛の馬を選ぶ。大人しく面倒見のいい性格の彼はここのオッチャンのおすすめだ。最初に来たときに勧められ、毎回乗せてもらっている。
今回はいつもみたいに一日そこらで返すわけじゃないので長期契約で借りておく。一日借りるのの五百倍のお値段がかかる。とてつもない金額だ。
ただ、五百日より早く返せばその分のお金は戻ってくるんだけどな。大抵は長くても数ヶ月で返すみたいだけど。つまり金を質に取られているということだ。
一日コースでもまずは多目に取られるけどな。用心深いというか商売上手というか。あっちの世界でも海の浮き輪の貸出料はこんな感じだったはず。
とにかく、代金を払い貸し馬屋を後にする。なお、出発するときまで馬はここに置いておいてもらうことにした。流石に家の庭に馬を三体も置く場所はない。
かなりの出費だったな。まあ、オーバーフローの後にボス討伐報酬としてもらった分があるからなんとかなったけど。
懐がまあまあ寂しくなったけど、そんなことお構いなしに市場へ。食料調達だ。
「何日分くらい買っておく?」
「二週間分もあれば十分や。途中途中で街にも寄るつもりやしな」
次々と食料を買ってマジックバックに突っ込んでいく。4人分を二週間分も買えばかなりの量になる。このバックがなかったら持って帰れなかっただろうな。
そもそも、隣りの街までは馬で三、四日らしく普通は一週間分あるかないかくらいのしか持たないみたい。余裕があるに越したことはないけど、馬への負担やら保存のことやらを考えると一週間分が関の山ってわけだ。
それに引き換え、俺のバックの容量は無限。中に入れたものの重さも消えるし時間も止まる。不思議なものだ。
まあ、理屈なんてどうでもいい。スマホやらの仕組みもからっきしだったしな。便利ならそれでいいのだ。
食料調達の次は諸々の雑貨を買いに。
調理器具なんかは家から持っていくわけにはいかない。寝袋もいい加減自分のを買わないとだ。その他諸々もイーリスの助言通り揃えていくつもりだ。
「包丁、フライパン、後は鍋くらいでいいか?」
金物屋に入り、目に入った必要そうなものを言ってみる。
「包丁よりはナイフの方が使い勝手がいいやろうな」
おもむろに一本のナイフを手に取り刀身を露わにするイーリス。
「それいいね。いくらくらい」
店の中を彷徨いていたファイルが食いついてきた。
「銀貨三枚みたいやな。まあ手軽な値段や」
「じゃあそれにするか」
ナイフを受け取って、さっき選んだ鍋に入れる。買い物かご代わりだ。
こっちには買い物かごなんてものはないからな。そもそも、そんなに広い店はないのだけど。
こっちの店の売り場は大体コンビニくらい。裏の作業場も含めたらもう少しあるけどね。
そんなわけで買うつもりの商品を持って移動する距離だってそんなにないのだ。まとめ買いすることも少ないしな。
この後も買い物を続け、家に帰れたのは陽が沈んだ後になった。用意は済んだし明日には出発できそうだ。
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大変長らくお待たせしました。
週二回投稿ができるまで更新しないつもりでしたが一向にそうなりそうありません。ということで今後は定期投稿から書き上がり次第の不定期投稿とさしていただきます。最低でも週一度は投稿したくありますが出来ないかもしれまれん。
遅筆な時雨にどうかごゆっくりお付き合いください。
異世界に飛ばされ剣を拾う〜それは最強の聖剣で可愛いショタでした〜 後藤 時雨 @shigure-goto
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