-雪-
岡田公明
雪
ひらひらと雪が舞う
時々風が煽って、より派手に鮮やかに
白い背景を作り出す。
空は、グレーになっていて、そこから白い雪が降る。
見える限りの地面は、白く塗りつぶされて
寒さの中に、美しさを演出している。
「まだかな...」
赤くなった手に、息を吹きかけて温めてから
ポケットのスマホを取り出した。
画面を着けても、通知画面にメッセージは無く
時刻は16:51を示している。
「ちょっと早く来すぎちゃったかな」
彼は、恐らく5時に来るけどちょっと気分が舞い上がって
少し、調子が良くって
準備が思ったより早く済んじゃったから
来てみたものの、時間まですることはない
強いて言えば、彼の驚く顔が見たくて
少し意地悪をしたい気持ちがあったというのも嘘ではない。
「はぁ...まだかなぁ...」
彼の顔が頭に浮かぶ
どんな顔をしてくれるのか、心配してくれるか
はたまた、驚いてくれるか
どんな風に、一言目を
いや、今日1日を彼と過ごすか
そんなことが頭の中に、浮かんでは消える。
―あっ
彼の顔が見えた。
電車から降りた人たちの中に、確かに彼が...
向こうも気づいたのだろう。
走って来てくれる。
スマホを見ると、時刻はあれから4分程度経っていて
向こうも驚かせようとしたのかもしれないと思うと
少し、心がポカポカしたり
「はあ、はあ、はあ...ごめん待たせちゃったかな?」
分かってるくせに...そんな風に聞くんだ
でも、急いで肩で息をしながら聞いてくれるその姿が嬉しかったから
「いいえ、全然待ってないですよ」
ニマっとした笑顔を作って、そう私は言う。
「ほんと、ごめん」
手を合わせて、申し訳なさそうに謝らなくてもいいのに
まぁ、別にそれも嬉しいからいいけど...
「まぁ、とりあえず私寒いので、どこか温かい所に行きたいです!」
手を挙げて、私は言う。
「うーん、じゃあとりあえず、歩こうか」彼は、笑ってそういう。
あまり上手とは言えないけれど、優しいその笑顔が私は好き。
「そうですね」と言って、二人で夜道を歩き始まる。
―空には雪が降っている
雪は、地面にも積もっていて、歩けば少し危ない。
足が持っていかれそうで、でも意外と持っていかれない
ここで、転びそうになったら彼はこの手をつないでくれるだろうか?
「仕方ないな」とか言いながら
照れ交じりに手を差し出してくれるかもしれない。
でも、それはなんか悔しいから
今もこうして、右手をプラプラと振っている
「あ、あのさ」彼は突然、私の方に顔を向ける。
「なんですか?」
期待を込めて疑問を返す。
「手袋忘れちゃったの?」
「はい、うっかりしちゃったみたいで...」
もしかしたら、これは―
「じゃあ、手袋...貸すよ?」
「はぁ...」つい溜息が出てしまう。
期待させといて、変なとこで、億劫になる
大事にしてるのか?いや、ただ、奥手に過ぎないだけだろう
肝心なところで、ビビるのは君の良くないところだと言いたいけど
きっと、気にしてくれたんだろう。
「じゃあ左手だけ下さい」
「左手だけ?別にいいけど...?」
彼は、まだ意図を理解していない。
左手の手袋を彼から受け取る。
それを手にはめると、私より手が大きいことを実感する。
手と手を合わせたようで、少し恥ずかしくなる
ずっとつけていたのだろう、その体温もほんのりと感じる。
彼の左の手から、手袋が外れ、彼は手をポケットに入れようとする。
私は、その手を掴んで
一緒に、彼のポケットに入れる。
「えっ」
彼は、何が起こったのか一瞬こちらを見て
顔を赤くする。
ほんのり、ほんのりだけど、その頬が赤くなる。
「右手が寒いので、ちょっと...貸してください...」
言ってる途中で顔が熱くなって、声が小っちゃくなることが分かる。
彼は、何故かしたり顔でこちらを見る。
「あれ、顔が赤いですよ?」
それは、私が言うはずだったセリフで...
「う、うるさいです!」
私は、うつむいて、顔を下に向ける。
さっきよりも、熱い顔を見られたくなくて。
―彼と手をつなぐと、自然と温かくなる。
寒さが消えていくように。
今転びそうになったら、彼も道ずれになっちゃうけど
それもまた、面白いと思う。
―ひらひらと雪が舞う
時々風が煽って、より派手に鮮やかに
白い背景を作り出す。
空は、グレーになっていて、そこから白い雪が降る。
見える限りの地面は、白く塗りつぶされて
寒さの中に、美しさを演出している。
その道を、二人共に歩いてゆく。
-雪- 岡田公明 @oka1098
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