第87話 僕はただ……

 聖教十字騎士団の女性は涙を流しながら膝を付き神に祈りを捧げている。当の神様達はお菓子をむちゃむちゃと食べていた。


 事情を知らない人が見たら、聖教十字騎士団の女性は頭がおかしくなったと見られても仕方がない、そんな光景だった。


「アビスメティス様」

「なんじゃい」


 僕の顔も見ずにテーブルの上のお菓子にまっしぐらなアビスメティス様。


「この国は、こちらの方のように徳の高い方々が沢山います」


 聖国エスティネリアは、聖神ファシミナ様を祀るファシミリア聖教の総本山があり、国民全体的に信仰心が厚い。


 そんな中には、そこの女性騎士様みたいに、アビスメティス様達の事に気が付く人もいるはずだ。


「しばらく戻られてみてはどうですか?」

「妾にクッソ魔王の所に戻れと申すか?」

「オレはもう天界はいいや、メンド臭えし」

「ボクもお兄さんをまだ見ていたいな。さっきの重力キャンセラーにはビックリしたよ。まさかあんな事が起きるとは思いもしなかったからね。だからお兄さんは面白いんだよね」


 僕を慕ってくださるのは嬉しいんだけど、なにせこちらの三幼女は天界の上級天使だ。なんなら上から数えて三本指に入る階級の大天使様達だ。天界の翼位はこんな感じたからね。


16翼 神

12翼 熾天使(セラフィム)

10翼 智天使(ケルビム)

8翼 座天使(スローンズ)

6翼 主天使(キュリオス)

6翼 力天使(デュナメイス)

4翼 能天使(エクシア)

4翼 権天使(アルケー)

2翼 大天使(アークエンジェル)

2小翼 天使(エンジェル)


 彼女達の身の安全はまず間違いなく100%大丈夫なのだが、『お嬢ちゃん達可愛いね、お菓子あげるからおじちゃんについてきな』とか言われたら、付いて行ってしまう気がするのは気の所為だろうか?


「あ、あの……」


 涙を流しながらお祈りしていた女性騎士様が我に返ったらしい。先ほどの逝っちゃった目から、精悍な騎士の目に変わっている。


「なんでしょうか」

「こちらの神々しい御三方は神様で宜しいのでしょうか?」


 彼女はそう質問をしてきたが、彼女は気がついている事に間違いはない。しかし、ここはしっかりと説明しておくべきだろうな。彼女にしたら聖神として崇めるファシミナ様が最上位として接しかねない。


 リフィテル様はそういうのは気にかけないだろけど、アビスメティス様に粗相があれば、この聖国が消滅する可能性だってあり得る。


「紹介する事に問題はないのですが、先ずは騎士様のお名前を伺っても宜しいですか?」

「し、失礼しました! 私はジャンヌと申します」

「へぇ、あのジャンヌ・ダルク様と同じ名前なんですね」

「そうなんです! そのお陰もあってか、私の加護はジャンヌ・ダルク様なんです!」


 大天使アークエンジェルジャンヌ・ダルク様。聖戦を戦い神に召された乙女は、天使となり、あの重労働を耐えきり大天使ヘと昇格した、聖を司る神様だ。


「へぇ、あの堅物超真面目まじめのジャンヌが加護るなんて、キミもなかなかの堅物だね」


 聖神であるファシミナ様から直接お言葉を賜わったジャンヌさんは、その瞬間、聖幽界アストラルワールドへと意識が飛んで逝ったらしい。


「ごほん、それでは改めて紹介しますね」


 聖幽界アストラルワールドから無事に生還したジャンヌさんに幼女神の3人を紹介する。


「こちら緑髪の美幼女が、ジャンヌさんもご存知、聖神にして智天使ケルビムのファシミナ様。赤髪の美幼女は同じく智天使ケルビムのリフィテル様。そして黒髪の美幼女は今は堕天していますが、熾天使セラフィ厶のアビスメティス様です……あれ?」


 見ればジャンヌさんは口から白いエクトプラズムを出して、またしても聖幽界アストラルワールドへと旅立っていた。



「重ね重ね失礼致しました」


 土下座してアビスメティス様達に平伏するジャンヌさん。


「大丈夫ですよ。アビスメティス様達はちっとも気になさらない性格ですからね」


 美幼女天使達は何事も無かったようにお菓子をむさぼり食っいる。当然の事ながら、町長さんが出したお茶菓子などはとうの昔に無くなっているので、僕が帝都で買ったお菓子をテーブルの上に並べている。


「ありがとうございます! そ、それで貴方様は天使様とはどのようなご関係なのですか?」

「お兄ちゃん♡じゃ」

「クソ兄貴だ」

「ボクのお兄さんだよ」


 お菓子を食べながら、話をややこしくする美幼女天使様。お願いですから止めてください!


「神……」


 ほら、ジャンヌさんがとんでもない勘違いをしちゃってるじゃないですか!


「僕は神ではないですよ。全然どこにでもいるような人間ですし、なんならモブキャラですから!」


 僕はジャンヌさんの誤解が解けるように自分の説明をした。


「いえ、ルイン様は尊きお方です!」

「ルイン君は特別ですからね」

「ルインみたいのが、何処にでもいたら怖いよ」


 レミーナ様、カテリナ様、リビアンさんが僕のモブキャラ宣言を否定する。いや、本当に僕はモブキャラなんですよ。


「ルイン君は世界最強の強者ですね」


 止めとばかりにエレナ様が僕を世界最強強者にしてしまった。


「神ではないのであれば……使徒様?」

「いえ、神の使いでもありません。僕はただ……」


 僕はそこにいる、レミーナ様、エレナ様、カトレア様、リビアンさんを見た、僕はただ、ムナクソシナリオで悲しい結末を待つヒロインの女の子達を救いたいだけなんだ。


 僕の視線に気が付いた彼女達が頷いてくれた。彼女達が僕を理解してくれている。それだけで僕は満足なんだ。


「僕はただ、僕の進むべき道を進んでいるだけの我儘な子供ですよ」


 子供と言うには大人だけど、大人から見ればまだまだ若輩な子供だ。だから僕は僕の我儘で彼女達を救ってみせる。

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えっ?恋愛ゲームのモブキャラ転生?いきなり死亡フラグがありますよね?えっ!ヒロイン達が奴隷落ち!?僕は時空魔法でヒロイン達を救いたい! 花咲一樹 @k1sue3113214

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