第86話 冒険者には無理がある

「町を守って頂きありがとうございました」


 魔物を殲滅し終えた僕たちは、町長さんの屋敷に来ていた。食堂の余り大きくない長テーブルには僕とレミーナ様、エレナ様、ラウラ様、そしてカトレア様から席を譲られたアビスメティス様が着席している。


 魔物のスタンビートを無事に防ぎ、町の被害はまったくない。被害で言えば、重力キャンセラーによって出来た大穴のうちの1つが、町の西側の街道を潰してしまったぐらいだった。


たまたま・・・・この町にいましたので、お役に立てて良かったです」


 僕の言葉に驚きの顔を見せる町長さん。


「えっ、この町にですか!?」


 町長さんは僕たちがこの町にいなかった事は知っているのだが、じゃあどこから来たかって事になる。


「町長」


 町長さんの前に出たのは、壁側に控えていたフレアさんだった。


「私たちがたまたまこの町にいた事は、町長は当然ご存知でした。それで何か問題がございますか?」


 フレアさんの町長さんに向ける笑みは、余計な詮索をしたら殺す的なオーラが見え隠れしている。その気配を感じ取った町長さんはコクリと相槌をうった。


 さて、町長さんが僕たちがこの町にいた事を認めたのだ。町長さんの後ろの壁に背を預けている白い鎧を着た女性への牽制にはなったはずだ。


 彼女の白い鎧の胸に彫られた、十字に蛇と蔦が絡まる意匠は聖教十字騎士団を示している。彼女に僕らの素性はあまり話たくはない。


「そうでした、そうでした、皆様は先日いらっしゃった冒険者の方々でしたね」


 うグッ、町長、僕たちに冒険者属性は無理があるよ!レミーナ様たちはドレスは着ていないが、帝国で用意して貰った皇族御用達の立派な衣服を纏っている。こんな冒険者おらんがなぁ。


 そこは越後のちりめん問屋ぐらいにして欲しかった。見れば聖教十字騎士団の女性もクスクスと笑っているし!


「我が町の対価に見合う報酬を用意しないといけないのですが……我が町はそれほど豊かな町では無く……」


 報酬を払いたいと言いながら、金欠をアピールする町長さん。僕たちも報酬目当てで来たわけでは無いが、町長さんが無茶振りした冒険者の僕たちとしては、たた働きとはいかないだろう。


「では、町長さん。外の魔物から取れる素材の半分と、素材にならない魔物の処分作業の代行でどうですか」


 冒険者であれば倒した魔物の権利を持つのは当然だ。冒険者ギルドからの正式依頼ではないが、緊急時には特例というものがある。


 そして無い袖は振れない町長さんに、別に報酬目当てで来たわけでは無く、シンシアさんが無事であればオッケーだった僕たちとしては、ここら辺が良い折衷案だと思う。


「ありがとうございます、ルイン様。お心遣い痛みいります」

「それじゃあ、僕たちは先を急ぐから、この辺りでお暇しますね」


 ちらりと聖教十字騎士団の女性を見る。僕たちに話かけるタイミングを虎視眈々と伺っているのは見え見えだ。そのつもりが無ければここに同席している意味はないからね。


「少し宜しいかな」


 カットインで話しかけてきた聖教十字騎士団の女性。見た目的には20歳前後かな?


「何でしょうか?」


 そうは言ったが出来れば関わりたくはない。このゲームの世界、いやゲームに類似したこの世界で、聖都起きるイベントと言えば『聖都動乱』だろう。


 ざっくりと内容を言えば信仰心の厚い教皇派とお金に執着するシスターズ一派がぶつかりあって生じる聖都内での動乱だ。


 これを解決すれば教皇様ルートが開かれる。レミーナ様たちとはご年齢が一回り違う教皇様だが、お姉さん好きのユーザーには人気が有るルートだった。


 しかし、そのクエストは今の僕らには必要ないイベントだし、お菓子騒動も加わりややこしくなりそうだ!


「冒険者と言われたが、我が国の冒険者ではないようだ。貴殿たちの様な優れた冒険者がいれば、必ず騎士団の耳にも入ってくる。東方のなまりがあるが、帝国の冒険者か?」


 彼女は僕たちが冒険者ではない事を承知のうえで、帝国の冒険者とかまをかけてきた。さて、なんと返すべきか。


 うグッ!? 不味いよ!!!


 僕の空間把握魔法が、次元の歪みを捉えた。これは空間跳躍で発生する歪みであり、いまこの状況で空間跳躍をしてくる人を僕は二人しか知らない。


「あ、アビスメティスさまぁ〜」

「ふむ、帰ってきたようじゃな」


 ふむ、じゃないですよ! 町長さんはともかく、聖教十字騎士団の女性騎士は不味いって!


「お姉様、いま戻りました!」

「まったくぅ、あの子たちにも困ったものだよ。フリッグとスクルドには厳しくあたるよう話しておいたから、天使たちのストライキも時期に落ち着くと思うよ」


「ファシミナはやり方が甘いぞ。俺んとこはアレス、シヴァ、トールの脳筋トリオで一発解決して来たぜ!」

「はあ〜、だから脳筋神は困るんだよね。リフィテルのやり方じゃまた騒動が起きかねないよ」


 突如、空間跳躍で現れた幼女な天使様。TPO関係なく天界の話をし始めている。


「お姉様、お土産です。東方武朝国の串団子、めちゃめちゃ美味しいですよ」


 リフィテル様から、みたらしとあんこの串団子が3本ずつのったお皿を渡され、瞳を輝かせるアビスメティス様。


「アビスメティス様ぁ、ボクにも1本くださ〜い」

「やらんぞファシミナ!」


 ここでもお菓子騒動が勃発しかねない状況で、僕は聖教十字騎士団の女性を見る。


 何も知らない人が見れば、幼女たちの天界ごっこに見えたであろう。しかし、彼女は神から神力を借り、それを力にする術を知る聖騎士だ。


「神が……降臨された……」


 うん。あれは完全に逝っちゃてる顔だ。


 さて、マジでなんて説明しよう……。


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