第85話 星の力

「うわ、何あれ!? 気持ち悪ッ!」

「ゴブリン系が多いですね」

「ルイン様、お呼びだてしてすみません」

「シンシアさん、気にしないで下さい」


 空間転移で聖都の東側にある小さな町に跳んできた。


 町の周囲は低いながらも防壁があり、僕たちはその防壁の上に立って、魔物の群れを見ている。


 魔物の群れは数えきれない程の数で、千とか、2千とか、そんな感じだ。


「本当に大丈夫なのですか?」

「はい、お任せ下さい」


 心配そうに僕の顔を伺う白髪の老人はこの町の町長さんだ。町長さんの後ろには何人かの町の衛士さん達もいる。


「カトレア様、あれを使いましょう」

「わ、分かりました」


 カトレア様はマジックバッグのポーチから黒いスティックを3本取り出し、僕に手渡した。


「さてと」


 防壁から見渡す草原を埋め尽くし、町に殺到しようとしている魔物の群れ。


僕の空間爆裂魔法で吹き飛ばしてもいいんだけど、全方位に吹き飛ぶ爆裂魔法では町の方にも被害が出るし、町を覆う空間障壁を使うぐらいなら、黒いスティックこっちの方がいい。


 幸いにして、魔物達は西側から来ている。ここは、星の力を借りるとしましょう。


「ホイっと」


 僕はカトレア様から貰った黒いスティックを起動して魔物の群れのど真ん中よりはやや前側に投げる。


 黒いスティックは魔物の群れの頭上で、カトレア様が刻んだ魔法が発動する。


 魔法の効果範囲の数百の魔物達や踏み付けられた草花、そして大地がフワっと浮くと、時速約1000Kmのもの凄いスピードで後方ヘと吹き飛んでいく。


「なんじゃぁぁぁぁぁッッッ!!!」


 目玉が飛び出るほど驚いている町長さん。衛士さん達も同様に驚いていた。


「凄いですね、ルイン様!」


 レミーナ様はじめ皆さんも驚いていた。


 黒いスティックは僕とカトレア様で作った重力キャンセラーだ。


 重力を失うと無重力となって宙に浮く。これだけでは後方に吹き飛ぶ事はない。僕達が作った物は、正確に言えば万有引力キャンセラーだ。


 星の恩恵である万有引力を失った物質は、星の自転に着いて来れない。星の自転速度は音速を超えているのだ。


「まあ、星から見放されたら、ああなるのは自明の理だからね」


「「「…………」」」


 何故か皆さんが僕をジト目で見ている。


「自明の理では有りません。こんな事を思いつくのはルイン様だけですから!」


「うグッ」


 レミーナ様に怒られてしまった。


 見れば重量キャンセラーの範囲外にいた魔物も幾つかは巻き込まれ事故にあっている。


 特に中央は、重量キャンセラーで消失した大地の大穴に、魔物達が雪崩の如く落ちていっている。あれでは先に落ちた魔物は、上から落ちてくる魔物達に押し潰されてお陀仏状態だ。


「よっ、ほれ」


 残り2個の重量キャンセラーも右と左の前列のやや後方に投げ入れる。


 2つの重量キャンセラーは1個目と同様に数百の魔物達を後方へと吹き飛ばす。そして、これまた同様に空いた大穴に落ちていく魔物の群れ。


 見れば穴に落ちていない魔物は数百って感じか。


「カトレア様、ミラさん、穴にいる魔物達に魔法を放ってください」


 攻撃魔法を使える二人に指示を出してエレナ様を見る。頷くエレナ様。


「行きましょう、ルイン君」


 僕とエレナ様が防壁から飛び降りる。続いてノーラさん、メーテルさん、リビアンさん、あれ?ラウラ様も防壁上から飛び降りてきた。


「シャルル、何がいい?」

「イエス、マスター。ではこちらで」


 右手首のリングが消えて、右手にお馴染みの連射式クロスボウが現れる。エレナ様達もマルチウェポンリングから連射式クロスボウを取り出し、近接までの間に何体もの魔物を駆逐していく。


「マスター」


 シャルルは僕に合図を送ると、右手には刃部カッティングエッジに幾つもの連結部を持つ連接刃スネークソードへとメタモルフォーズしていた。


 中近接武器の連接刃スネークソードを振り伸ばし、大穴から這い出てきた魔物達の首を飛ばす。


 更に鞭のように振り、数体の魔物を薙ぎ払う。


 穴からは巨大なオーガが姿を現すが、剣状に戻した連接刃スネークソードで一刀両断した。


 ここらの魔物は後ろに続いてくるエレナ様達に任せ、僕は大穴の縁沿いに走り、這い出る魔物達を切り捨てながら、大穴の後ろの魔物の群れを目指した。


 後方を確認すると、エレナ様達が接敵して、ゴブリンやオークをハルバードで縦横無尽に切り刻んでいる。


 空を見ればカトレア様とミラさんの魔法が飛びかい、ゴブリンシャーマンやオークメイジ等の魔術士モンスターの魔法を封じ込めている。


 魔法だけで言えばカトレア様よりもミラさんの方が腕が立つ。エレナ様との行軍で培った経験と、ファシミナ様の修行を乗り越え、ミラさんはレベル60のマスタークラスにかなり近づいている。ミラさんも「師匠を超えちゃった、ハワワワ」と言っていたし。


「空間遮断!」


 後方にいた魔物の群れの周囲に不可視の魔法の壁を作る。


「空間爆裂!」


 『空間爆裂』は空間収斂魔法くうかんしゅうれんまほうによって圧縮された空間に、更に上乗せして空間収斂魔法を重ね掛けし空間の圧縮を行う。圧縮された空間エネルギーが臨界点を超えた時に、莫大なエネルギーが大規模爆発を起こす。


 空間遮断によって閉鎖された空間内では逃げ場の無い爆発エネルギーが嵐となり、閉じ込めらた魔物達に襲いかかった。


「さてと」


 僕の空間把握魔法も使いながら辺りを見渡すが、このスタンビートの群れには災害クラスB級を超える魔物は見当たらない。


 散り散りに動く魔物も含めれば、残りはざっと百体程度。C級以下ならそれほど苦労せずに殲滅できそうだ。


「行こうか、シャルル」

「イエス、マスター」



「あの少年……、それに彼女達はいったい何者だ?」


 我が聖教十字騎士団に匹敵する脅威的な力を持つ少年達。私は彼らの鬼神の如き戦いに畏怖の念と、何故か我が聖神ファシミナ様の息差しを感じた。



【作者より】

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