マグナ・カタルナ

木島別弥(旧:へげぞぞ)

第1話

 マグナはか弱い村人だった。地位も名誉もない。剣術は苦手で、魔術もさっぱり覚えられなかった。

 いわゆるマグナはダメ人間だったのであり、とても強い罪悪感にさいなまされていた。

 マグナの村には、アイナという奇麗な女がいたが、マグナはとても相手にされなかった。

 剣術の指南試合をするために負けるマグナ。気分は絶望を感じ、孤独で、みすぼらしかった。

 これはダメ人間マグナの物語である。マグナは物語の最後に英雄となる。

 それは、マグナは、人類の文明の興隆するシナリオを書いた計画者を打ち倒し、人類の計画者からの独立を手に入れるのであり、素晴らしい功績を残す。その時には、誰もが、マグナを讃える。だが、今、現在において、マグナは村いちばんのダメ剣士だったのであり、とても人類を救ってみせるというわけにはいかなかった。


 マグナは、夢を見る。

 不思議な夢だ。

 ひ弱な体で育った愚かなマグナとちがい、夢の中の男は壮健で賢明だった。村で仲間外れにされるマグナとちがい、人望があった。その男は大衆を率いて計画者に逆らい、人類独立戦争の指導者だった。そんなふうに、マグナは、栄光に輝く男の夢を見るのだった。

 夢のことはずっと、マグナは他人に黙っていた。それはマグナには理解できない夢だったからだ。


「おい、マグナ、今晩、計画者の託宣を聞く重要な祭典があるから、絶対に出席しろよ」

 と村の男にいわれ、マグナは、託宣の祭典に出席した。

 村人だけでなく、王侯貴族もその祭典に出席しており、非常に大人数の集まった華やかな祭典だった。

「さあ、みなさん、お静かに。あと、五分で、計画者の計画が託宣されます。我々に課せられた使命を受け止め、計画者のために全身全霊を捧げようではありませんか」

 祭典の司会者がいっている。

 マグナは、計画者を危険視していた。計画者が人類を正しく教え導いているとはとても思えない。

 計画者の託宣は以下のようなものだった。

「ゴミクズのような人類よ。お前たちは世界の害悪だ。奴隷のように働き、ただ、あくまで働くのだ。世界から人類を淘汰する。これほど醜い生き物はないからだ。我のことばを理解したものは自害せよ」

 とても聞くに耐えないことばだった。こんなものが、人類に課せられた計画なわけがない。きっと、みんなで託宣を聞き間違えたのだ。そんなことを大衆が話し合っていた頃、マグナは計画者からの刺客に襲われていた。


「マグナ、貴様、計画者に反逆を企てているだろう。生かしてはおけん」

「どうしてそれを」

 心の中を見透かされて、動揺したマグナだった。

「計画者はすべてお見通しだ。おまえみたいなか弱い存在が一人、反乱するなど、愚かなことだと思わないか。どっちにしろ、死んでもらうがな」

 マグナの未熟な剣術では刺客には、まるで歯が立たなかった。ただ、刺客は、マグナに胸に軽症を与えて、引きかえしていった。

 負けた。おれは負けた。おれはなんと弱いのだろう。

 マグナは己の弱さに号泣して泣いた。こんなことでは、とても計画者など倒せない。夢物語だ。


 そして、マグナは夢を見た。場面は、刺客が襲ってきたところとまったく同じだった。ただし、夢の中の男は、マグナとちがい、巧みな剣術で刺客を倒していった。栄光に満ちた男だった。


 マグナは計画者を倒しにいく旅に出た。目的地は、天上にあるという計画者の居住地だ。

 マグナは戦っては負け、ズタボロになり、傷の手当に数ヵ月療養する必要があった。しかし、マグナは怪我を無視して、天上への階段を登っていた。戦ってはいつも負けるマグナだった。

 なぜか、旅の途中で、アイナに出会ったが、まるで相手にされず遠ざけられた。


 そして、マグナは夢を見る。夢の中で、マグナは計画者の守備兵を次々と打ち倒し、大勢の仲間を率いて、大進軍をしているのだった。

 夢の中で、マグナはいった。

「おれは不思議な夢を見るんだ。まるでおれの人生のような夢だが、そのおれは一度も戦いに勝ったことがないのだ。正直、夢を見ると落ちこんでしまうよ」

 お互いのマグナは夢から覚めた。


 マグナは、通りすがりの賢人に話を聞いた。それは不思議な話だった。

「なんでも、この世界とはまったく逆にできた逆転世界が存在するのだという。その逆転世界では、負けつづけのおまいさんも、連戦連勝だということだよ」

 マグナは、逆転世界の自分を羨み、この世界の自分を呪った。


 マグナは、計画者の居住区にまでやってきた。計画者は、マグナと同じ人類だった。

「あなたたちはなぜそんなに強い力を持っているんだ」

「なあに、我々は古代に文明を発達させた正統な人類だよ。きみたちは、野生保護区の人類サンプルにすぎないのさ」

「くそう。計画通りに滅亡などさせられてたまるか」

 いきり立つマグナの前で、計画者たちは笑った。

「はははは、まさか、勝てると思っているのかね。きみのような低脳生物が」

 勝負は五分ほどつづいた。

 剣術と魔術を駆使して戦うマグナを、計画者たちは簡単に倒していった。

 マグナは涙を流した。

「おれはなぜ、こんなに弱いんだ。一生のうち、一度も勝ったことがなかったよ」

 そして、マグナは死んでしまった。

 それを悲しむものは誰もいなかった。ゴミクズのように死体は捨てられた。


 逆転世界での話。

 マグナは一生のうち、一度の負けもしたことがない勝者だった。大軍勢を率いて、計画者を見事、打ち倒したのだった。妻には、アイナを迎えていた。

「このマグナ、誰にも負けん」

 逆転世界の本物のマグナは高々と剣を掲げた。

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マグナ・カタルナ 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

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