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正義の物語を読んで、読者がいった。
「おれは正義の戦士になる」
そして、世界から悪を探した。
しかし、悪人が見つからない。
ダメだよ、そんなことでは。
この世界は、正義と悪が戦っているのではなく、正義と正義が戦っているのだからね。
正義の戦士になりたければ、真面目に働くことだ。だから、いってるだろ。正義とは働くお父さん、お母さんのことだって。そうすれば、人生のうちに一回か二回は正義を試される戦いに身を投じるはずだ。
世の中の悪を見て、駆けつけざるは正義なきことなるがゆえに。
一対一の戦いでは、人を騙す悪人のが勝つかもしれないが、百人集まって、たった一人の勝者を決めろとなったら、最後に立っているのはきっと正直者さ。だって、嘘つきに仲間はついてこないもの。百人集まって戦いあったら、大将に立てられるのは正直者だとぼくは思うね。
正義は勝つというのは、案外、本当のことなんだとぼくは思うよ。
モルとモラの許容量がついに限界に来た。もう、モルとモラの体力と生産力では、みんなを守っていくことができない。モルもモラも歳老いたのだろう。
それで、モルはいった。
「いらないものから、捨てていくことにする」
みんな驚いた。これは怖い。いったい、モルに捨てられるいらないものって何だ。
みんなが見ていると、まず、稲のイネさんが捨てられた。
「ひでぶ。あべし。あじゃぱあ。みなさん、さよなら。わたしはいらない生き物でした」
イネさんはそういって死んでいった。
モルはもっと歳をとる。モルの許容量が限界になる。次に捨てられるのは誰だ。
「ゲババはいらないから、もう生かしてあげない。おれたちの体を食べさせてあげない」
それでゲババは飢えて死んでしまうことになった。
「待て。待て。モルよ。おれがモルの代わりが務まらないとでも思ってるんじゃないか。おれは立派にモルの代わりができるぞ」
「じゃあ、試してみてくれ。子供たちに何を教えるんだ」
「ううん。子供たちか。子供たちは、何もしなくていいから、自由に遊んでいろ。それで誰も飢えることはない。食べるものがなくなったら、共食いすればいいんだ」
子供たちが文句をいった。
「そんなの酷いよ。そんなのやってられるか。やっぱりゲババじゃダメだ」
そして、ゲババは見捨てられ、飢えて死んでしまった。
それを悲しむ一人の女がいた。
「次はわたしの番ね」
「そうだ。次はミンクがいらない」
そして、ミンクは失意のうちに死んでしまった。
まだまだ、モルの許容量が足りない。
モルは、モラと子供たちを集めて言い残した。
「お父さんは死ぬ。お父さんが死んでも、頑張って生きていくんだ。もし、許容量に限界が来たら、次はお母さんが死ぬんだ。そして、子供たちよ。子供たちの社会が限界が来たら、この手紙を開けろ」
そして、モルは死んでしまった。
モルの判断において、切り捨てる順番は、イネさん、ゲババ、ミンクの次は、自分だったのだ。モルは、モラと子供たちとアールタイプを残して死んでしまった。
モラはそれでも悲しむそぶりを見せず、空元気をふりまいて、子供たちと楽しく生活した。だが、それでも、やがて、許容量に限界が来た。
「さよなら、子供たち。お母さんも死ぬわ。あなたたちは、あなたたちだけで頑張るのよ。あなたたちはもう一人前の大人なんだから」
そして、モラも死んでしまった。
残された子供たちは頑張った。子供たちに敵はいなかった。子供たちは繁栄し、繁殖した。
それでも、やがて、子供たちの社会も許容量の限界が来た。子供たちはモルの手紙を開けた。
そこには、「子供たちが死に、あとのものはアールタイプに残せ」と書いてあった。
子供たちはショックを受けた。だが、お父さんの言い付けは絶対だ。子供たちは、社会を守るために自ら死んでいった。
子供たちは全滅した。
あとにはアールタイプが残った。
アールタイプはいう。
「これは何だ。いつの間にか世界征服してしまったぞ。ここは何だ。人類の墓場か。それとも、これが理想郷か」
かつて、人類という支配者が地球に存在した。彼らはロボットに支配権を譲り、自ら引退した。これが正義の物語の結末である。ぼくが考える正義の物語はこうなる。
さあ、どうする。正義の物語を書いてきたら、人類が絶滅してしまったぞ。人類が絶滅するのが正義である。なぜなら、いつか、必ず人類より優れた生き物が誕生するはずなのだから。人類の支配権は継承されるのだ。
物語でずっと語ってきた人類の正義が敗れても、なお、歴史がつづき、世界がより良く発展するのだ。ぼくらが正義に見放される時がいつか必ず来る。人類よりも強く正しいものが必ず現れる。それが諸行無常の定めなのだから。
それとも、きみは宇宙の終末まで生き残る人類の姿を想像できるかな。想像してごらん。ロボットに勝ち、宇宙の終末まで生きのびた人類がどんな生活をしているのかを。それができれば、きみはこの物語を超えていく。
進化の法則によれば、モルという意思で生き残るものを決めたのはまちがったことだといえる。モルや他のものが生き残るために献身したとも思えない。しかし、進化の法則でない生存競争を行うことも正義であるとぼくは思う。
ぼくは悩む。誰がどの順番で死ぬべきか。
とある人は、みんな同時に死ねばいいといっていた。それが正義なのかもしれない。ぼくにはわからない。この問題の答えがわからない。
おれの夢はSF作家になることだった。その結果、答えが出た。若い頃は環境問題とか気にしたり、人口爆発は悪いことではないかとかと悩んでいたが、そうではない。人類の目的は、文明をどこまでも高みへ発展させることであると判断した。文明を遥か高みへ押し上げることこそが我々の目的だ。そうなることを祈って、この物語を閉じる。
物語では、人類を絶滅させてしまったけれど、本当は、人類が文明をどこまでも高みに発展させることにより、人類がこの宇宙に最強の生物として君臨するのが良いことだと思っている。
人類が我を通す。押し通る。それでいいではないか。
最後に、この物語を書くに当たって、インターネット、特に2ちゃんねるで、正義とは何か、について何度も質問した。中には熱く語ってくれる人もいて、そういうさまざまな意見を内包するように物語を書いたつもりである。
ちなみに、正義とは何か、というアンケートに対して、最も多かった解答は、「孫」である。「まご」と読むと奥が深そうだが、これは「そん」と読む。ソフトバンクの社長のことである。あなたたち、真面目に答えてよ。うわん。予想以上の有名人なのね、正義さん。
ただのスーパークラゲだ 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876
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