4.(終)

「そうだ、鮮烈なストーリー・・・。

 オレはあのときたしかに記憶術で完璧にパスワードを覚えたんだ」


夜の軽井沢のコテージでノートパソコンを前に目をつぶったまま、椎尾は必死にストーリーのプロローグをよみがえらせようとしていた。


「全てのデータを消去します。

 実行まで [205.757秒]」


「うーん、最初に誰かが出てくるんだよ、女だったな・・・。

 キレイな恰好をして、上品な・・・。

 あ! 『奥様』だ!!」

「0930」


今度は語呂合わせを数字に戻していく作業だ。

奥様を 0930 にするのは簡単であった。


「奥様が大変なことになるんだよ、

 なんかバーンてなって、、破裂するんだ。

 何が? 腹? いや、『胃袋』だ!」


「破裂? 802 ? 違うな。

 胃袋が先だ。『胃袋爆発』! 間違いやすいから続けた言葉にしたんだった!」

「0930 1296 8982」


「そんでもって、胃袋の中から出てくるのはオレだ! 『椎尾さん』!!」


「0930 1296 8982 4103」


「全てのデータを消去します。

 実行まで [186.209秒]」


「やべえ、あと 12個か・・・」






--------------------





奥様(0930)の胃袋(1296)が爆発(8982)して中から椎尾さん(4103)が飛び出してきたと思ったらそのままゴミ箱(5385)に飛び込んで発見したのがパパイヤ(8818)だった。

このパパイヤを不細工(2319)な初恋(8251)の女性にあげようと職場(4498)に行ったら、その人はおさしみ(0343)をナイショ(7144)だよといってくれたのであった。

いや、刺身を食ってる場合じゃない、今日はサミット(3310)に出席しないといけないのだ。

電車に乗って大宮(0038)駅についた後、、、、


「んーーー、なんか店に行くんだよな。

 なんだったかなあ? ユニクロか?」


「全てのデータを消去します。

 実行まで [063.843秒]」


「やべえ! あと1分!」

「ユニクロ(?296)? 違う、なんか色んなもんが売ってる店だ。

 そう! 無印(6264)だ! 無印良品なのになぜかコンサート(5310)をやってて、

 そこでオレがなにかやらかすんだ。それが最後のオチ!

 なんだったかなあ、コンサートのジャマになるような・・・」


「全てのデータを消去します。

 実行まで [045.014秒]」


「やべえ・・・

 いや、絶対思い出す!!」

「ズル・・・」

涙目になり鼻水をすすったところで椎尾の脳裏に電撃が走った。


「くしゃみだ!!」


「全てのデータを消去します。

 実行まで [032.593秒]」


「ええと、、数字は 933?

 いや、くしやみ(9483)だ!!!!!」


「ターーンッ!」






--------------------





64ケタ全ての数字を入力し、勢いよく Enterキーを叩いた次の瞬間 ノートパソコンの画面に衝撃的なメッセージが映し出された。



「エラー

 パスワードは半角で入力してください」


「全てのデータを消去します。

 実行まで [027.031秒]」




「半角だとぉーーーー!!?」


椎尾が普段使っているパソコンは Mac の最高級マシンであった。

出渕が置いていった Windows のボロいノートパソコンなど、どこを押したら全角・半角を切り替えられるのかなど知るはずがない。


「なんだ、無変換とか変換とかあるけど、これか?

 カタカナ・ひらがなってのもあるな」


あてずっぽうで押したキーが当たっていたのか、奇跡的に椎尾の押した数字が半角で表示されるようになった。


「やった・・!!!

 ええとなんだっけ?

 奥様が破裂して、オレがパパイヤ食って・・・」



「全てのデータを消去します。

 実行まで [000.000秒]」


「全てのデータを消去中です。

 [0/100%] 」





--- END -----


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奥様はパパイヤがお好き? 鈴木KAZ @kazsuz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ