電車の中で
文野志暢
電車の中で
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古い言葉で言うと黄昏時。空の色が青色から赤色に変わっていく頃。
アナタは学校もしくは仕事が終わり、疲れた身体に鞭を打って帰るでしょう。
まだ人通りがある時間。駅ではたくさんの人とすれ違います。
アナタは他人なんて目もくれずに、足早に改札口を通り、駅のホームへと進む。
そしていつもと変わらず、降車駅で降りやすい場所に立つでしょう。
アナタはポケットからスマホを取り出します。
ほんの少しの時間、SNSのタイムラインをスクロールし、今日の出来事をボーッと眺めます。
「まもなく○番線に電車が参ります。黄色い線までお下がりください」
ホームにアナウンスが響く。
アナタは視線を上げ、やってくる電車を見つめました。
プシューっと出入口が開けば、数人の男女が降りてきます。
アナタは、全ての人が降りたのを確認してから乗り、ラッキーなことに座ることができました。
車内は座れない人が少しいるくらいの混雑。
アナタは今日の疲れもあり、ボーっとスマホの画面をスクロールします。
『カフェで美味しいパスタたべた!』
『あー、勉強終わらない』
『推しの番組まで後少し!』
『この商品おすすめだよ!』
『まもなくゲームの配信します!』
SNSでは様々な人の現在がわかる。
アナタも今の気持ちをSNSに載せようとしますが、急にホーム画面へ戻りました。
「えっ?」とアナタはキョトンとした顔になります。
ガタンゴトン 。
アナタはアプリの調子が悪いと考え、今度は短時間でできるゲームをしようとタップします。
ですが、いつもならば、数秒でポップなキャラクターが画面にでてくるはずなのに、いつまでたっても黒い画面のまま。
アナタは怪訝な表情でスマホを見つめます。
電波が悪いのだろうか?――アナタは思いました。ただ、この路線はいつも使っているもので、以前あった大規模電波障害が起きない限り使えるはず。
車内を見てみても、スマホの調子が悪くなっている人は見当たりません。
アナタは首をかしげます。
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
「次は○○。○○。お出口は右側です。」
ここからだと後15分くらいは乗ったまま。
なにもやることがない。疲れていると言えど、ボーッと座ってるのもつまらない。
アナタはもう一度、ゲームのアイコンをタップしてみる。
すると、数秒でゲームのスタート画面になりました。
「なんだ、あの区間だけだったのか」とホッとしました。
アナタはもうゲームをする気分ではないので、イヤホンを鞄からとりだしてお気に入りの曲を聴くことにしました。
軽快なメロディが流れます。ほんの少しだけ曲にのりながら先程とは別のSNSアプリをタップ。
友人の上げた写真にスタンプやコメントを残します。
もうすぐ曲のサビ。すると、ところどころにノイズがはいりだしました。
アナタが眉間にシワを寄せていると、曲がブツっと止まり。
「ミーツケタ」
とイヤホンから聴こえてきました。
「ヒイッ」
アナタは咄嗟に席を立ち上がろうとしますが、目の前にはスーツの男性。そのまま上手く立てずにイスにひっくり返りました。
「す、すみません」
アナタは男性にすぐに謝罪をし、座り直していると、スマホを持っている手が震えます。
誰かからのファイル共有が届いたので許可するかのメッセージ。
画面に名前が表示されているのに、アナタはなぜか理解することができませんし、アナタはファイル共有を受け取らないように設定していたはずでした。
何かがおかしい。変なアプリを入れてしまっただろうか。ドッドッドッと心臓の音を耳元で感じる。
まだ許可をしなければ間に合うはず。アナタはキャンセルボタンを押そうとします。
指が勝手に決定ボタンをタップする。アナタの中で時間が止まる。
「えっ」
スマホの画面は真っ暗になり、目玉が一つ浮かび上がります。
「__!」
アナタは驚いてガシャンとスマホを落としてしまいます。
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
乗客は誰もアナタのことを気にしていません。
アナタは恐る恐るスマホの画面を見ます。
画面は暗いまま。「なにかの見間違いか」アナタはホッとしました。しかし、スマホの電源ボタンを押すと、文字化けしたサイトに繋がっています。
と、アナタは身体が急に動かなくなります。
「_!」
声を出したくてもでません。指は勝手にサイトの動画をタップします。
「_!!」
アナタは恐怖で目を閉じました。
「次は△△。△△。お出口は右側です」
まもなく電車は自宅の最寄駅に着きます。
降りる準備をしていれば、スマホが揺れました。
スマホの画面を見てニヤリと笑います。
そのままポケットにしまいました。
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78 lines | 71 words | 1,849 chars
電車の中で 文野志暢 @a492
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