9/3
耽溺することは、ほとんどなくなったように思う。小説に限った話ではない。物語という単位でもまた、しばらく記憶にない。執着は若さの特権であるか。世界についてまだ白いと信じられているうちに、力のあるうちであればこそ熱心に打ち込むことができる、と思うが、かえって晩年になるつれて執着の増すものもいる。面相は憎々しげに、常から目を剥き、事の立たぬうちから忿怒の影がまとわりついている。あるいは、奪われまいと怯えが目に浮かんでいる。何にも頓着し放埓だったものが、かえって我が身を省みて、これしかない、と痼疾へ反転することもあるか。
運向きは風の如しで、ひとところで限りなく吹くことはない。他所へ回って戻ってみれば、一転、清涼な風を覚えることもあるだろう。人にできることは、せいぜい流されることだけだ。良い場所を計ることも、しょせん小賢しさにすぎない。
雑記 山口 隼 @symg820
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雑記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます