Innocent
バブみ道日丿宮組
お題:清い狸 制限時間:15分
Innocent
追い詰めた。やっと先輩を倉庫の袋小路へと追い込むことができた。
「ふふふ、追い詰められちゃったね」
だというのに、先輩は鬼ごっこをはじめてからずっと変わらない笑みを浮かべてる。
ーー狸。ペテン師。奇術師。
先輩に関わった人は彼女をそう呼ぶ。
存在さえ偽りであるように学校にいる存在、都市伝説めいた人物だ。
「そろそろ教えて下さいよ。捕まえたら、教えてくれるんですよね?」
あの日みた色の違う先輩の姿。
見間違えるまでもなく、あれはUMA。人ではない何かだった。
「捕まえられたらの話だよ? でも、ここまで追い込んだのはあなたがはじめてだよ。やっぱり血筋がいいんだね。うん、ずっと見てきたけどいい成長」
「いったい何を言ってるんですか? 僕と先輩が出会ったのは高校に入った時がはじめてですよ」
しかも転びそうになった先輩を助けたという出会いと認識できないどこにでも置きそうな日常。
「ふふふ、記憶がないからそうなんだろうね」
捕まえればわかることだと、一歩ずつ足を進める。手も捕まえるように集中する。左右から逃げようとすれば、足を引っ掛けるか腕を捕まえればいい。
顔に怪我をさせたら一生の責任になるかもしれないから転ぶ前にこちらに引き込まなきゃ。それくらいは爺ちゃんに仕込まれてる。
「捕まえるきまんまんだね?」
「そうですよ。秘密めいた存在に近づけるなんて夢みたいですからねーー」
そう僕が手を伸ばした時、そこにはもう先輩はいなかった。
「普通の人間だったら、その手でもいけたかもね?」
声は上から聞こえた。
「なっ!?」
先輩は3メートル、いやへたしたら5メートル……倉庫の天井に届きそうなくらいの跳躍を見せてた。おかげでスカートの中身に目がいったけれど、それも一瞬だ。
「じゃぁ、追いかけっこ再開だね? 『術者』が本気を出さないでいつ出すのかな?」
そういった瞬間先輩は倉庫の壁を蹴り、あの夜見つけた真っ白な髪の少女ーー家の古文書にのってた吸血鬼の姿へと変貌してた。
「空を飛ぶのは手加減してあげる。陰陽師さん、修行の成果を見せてみて」
コンテナの上に着地して振り返った彼女の背中には小さな翼が見えた。
「……やっぱりあなたは爺ちゃんがいってた封印された悪い妖怪だったんですね」
「んー、少し違うかな。もうちょっとおじさまのお話は聞くべきだったかもね」
そう舌を出して挑発してくる先輩にはもう手加減をする必要はなさそうだと、僕はポケットから数枚の術符を取り出し、宙へと投げ発動させる。
「いきなり攻撃とか、女の子にやさしくないな!?」
術符から放たれるのは捕獲するための縄、草、鞭とこれでも退治するのではなく捕獲を優先して選んだ力。
「でも、そこも変わらないな」
何分か術を発動させていたら、僕はいつの間にか彼女の膝の上で眠ってた。
「残念、あたしのパートナーになるんだからもうちょっと訓練しなきゃね?」
「パートナー?」
そこで僕ははじめて彼女の正体と、自分が覚えてきた力の意味をしることになった。
Innocent バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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