仲良くなりたい文房具は?


「……さて」

「うん」


 由佳が突然、橘を連れてきたわけだが。

 二人は彼女と話したことなど、全く無かった。


「なので、質問コーナーといきましょうかね」

「あ、はい、わかりました」

「相変わらずなんなの? ラジオなの?」


 「まずは俺から」と、山下が手を挙げる。


「好きなお菓子は?」

「ち、チョコレート……?」

「俺に聞かないでくれよ」

「あ、はい、チョコレート……です」

「ウチはクッキー!」

「聞いてねぇ〜」


 続いて橋本。彼は顎をさすりながら少し考え込んで。


「理想の男キャラの特徴は?」


 いきなりジャブをかます。


「え……と、これは……」

「あーだいじょぶだいじょぶ。コイツらの方がよっぽどキモいから気にしないでいいよ」

「それじゃぁ……黒髪で長髪で、眼鏡で目つきが悪くて……あと和服で酒好きがいい……です、かね」

「ほう、悪くない」

「いいんじゃないの」


 山下も、「じゃあ次は……」と少し考え込む。橋本のジャブを見て、自分も少し踏み込みたくなってしまった。


「仲良くなりたい……文房具は?」

「文房具、ですか?」

「は? 何言ってんの?」

「理解力がよちよちばぶちゃんの由佳たんはおくちチャックしてな」

「あ?」


 由佳が半ギレの一方、橋本は「いい質問だ」と頷く。同時に、橘にも伝わっているようで。


「クレヨン……です」

「クレヨン! なるほど!」

「いいね。ぜっったいロリかショタだよね」

「色は!?」

「白……かな、多分大人しくて、たい焼きが好物の女の子……です」

「うわ〜! 今、食ってる! 俺の頭の中で!」

「あ、擬人化的な? 話だったの。美香奈、よくわかったね」

「えっと、ちなみに、お二人は誰がいいんですか?」


 不意に投げ返されたボールに、二人は密かに心躍る。

 実は二人とも、頭の中でその線路に乗ってしまっていた。


「俺は〜、穴あけパンチかな」

「うっっわ山下、いきなりスケベ過ぎるだろ」

「た、確かにちょっと……」

「え? え? なに? ウチだけついてけない」

「ばぶちゃんにわかるように説明するとね、」

「やめろそれ」

「"穴あけ"だよ。しかも"パンチ"だよ。こんなの、胸に謎の穴空いてる服着てる巨乳お姉さんに決まってるでしょ」

「"ちょっと……どこ見てるの? もう、おマセさんね"って……言ってました」

「こっちがショタになっちゃったよ。てかえ、声幅広いね。声優?」

「えへ、へへ……」

「いやわっかんね。ばぶちゃんにはわかりませ〜ん」

「なんだよムッツリが! じゃ橋本はどうなの!」

「俺か。俺はな……」


 橋本は数秒、首を傾げながら中空を見つめる。


「ボールペンかな。紫の。黒髪ロング、深い紫の怪しい服着たネクラ。オカルト好きで変な儀式してる。」

「ワ……! 実験体にされちゃう!」

「"は、はしもと、今日も実験、手伝ってくれ"……って、ちょっと言ってくれ橘」

「え? あ、はい。……んっん、"は、はしもと……今日も実験、手伝ってくれ"」

「"あ、あーっと、今日はちょっと、ヤボ用があってだな…… ( ったく、コイツに付き合ってたら命がいくつあっても足りないっての…… )"」

「羨ましい〜!」

「はぁ……」


 連れてきた友人が、結局おもちゃにされている。由佳は嘆息するが、いかんせん当の本人は結構楽しそうだ。ならいい……のか。


「どう。由佳は何か思いついた?」

「ウチ? んー……でもまぁ、勝手は何となくわかったよ。そうだね……MONOかな」

「……その心は?」

「いやーなんか、色白で裏表なくて、皆の人気者、みたいな? ショートカットで、歯見せて笑ってくれそうじゃない?」

「……由佳にしては悪くないね」

「でもアイツ、人の闇を抱えて自分が少しずつ黒くなっていくんだぜ……」

「ちょっと! MONOちゃんイジメないでよ!」


 と、由佳が珍しくいい線いったところで昼休みの終わりが迫ることを告げる予礼が鳴り響く。


「ん、美香奈、そろそろ行こっか」

「あ、うん。それじゃあ……お邪魔しました」

「はいはい、橘はいつでも来てね〜」

「……うん、いつでも」

「はー。橘には優しいねアンタら」

「嫉妬か?」

「帰るわ」


 由佳は山下の煽りに唾を吐き捨て、橘の手を引いてさっさと行ってしまう。

 山下はそれを見送ってから、橋本に向き直る。


「何か言いたげな感じ? するけど」

「うん。やっぱ橘、俺目当てに来たと思う。」

「おいおいおいおい! 思い上がるなハゲ。ハゲさすぞ?」

「いや、そうじゃなくて。あの子も魔術使えるっぽい。魔力感じた。魔力干渉もしてきてた。気付かないふりしたけどね」

「……え? ちょい、いつの間にそんな感じになってるんだよ」

「他に魔術使えるやつがどれだけいるかわかんないからね。最近は護衛用に召喚以外も使えるようになってきたよ」

「マジ! どんな!?」

「まだ電気しかできないけど。ライデインくらいの。」

「結構じゃん!」


 橋本の突然のカミングアウトに、山下は「俺もなんか増やさないとなぁ〜!」と張り切っていた。

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男子の会話 新木稟陽 @Jupppon

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