四字熟語な奥義が欲しい


「四字熟語ってどう思う?」

「必殺技かな」

「恐ろしく話が早いね」


 屋上。いつもながら山下の唐突なフリに、橋本は恐るべき対応力をみせる。


「必殺技……というより奥義? 四字熟語の技、ほしいよね」

「ほしいね。武器は?」

「日本刀」

「はい。ほしいけど、ありきたりで聞き慣れたやつは嫌だな」

「その通り! そして俺が四字熟語の肝だと思うのはズバリ、"風林火山"よ」

「は? そんなん出がらしじゃねぇか」


 呆れる橋本に対し、山下は「チッチッチ」と人差し指を振る。


「風林火山、この四つのいずれかが入った四字熟語。大体かっこよさそうじゃん」

「なるほど。じゃあ俺は……"花"かな」

「クゥ〜いいね! っても俺は四字熟語の権威じゃないので、ちと調べるわ」

「俺も」


 二人は暫しスマートフォンと向き合い、グーグル先生から知識を学ぶ。

 少しして、山下が威勢よく挙手した。


「"風清弊絶"。風習が良くなって悪事とかがなくなることらしい。文字通り悪を断つ技よ」

「いいね」

「更に! これには遂になる"風俗壊乱"がある。マジで真逆の意味。」

「素晴らしいじゃん。敵が使うか、もしくは相反する二つを使い分けるも良し」

「あー後者がいいかも! 普段は風清弊絶、裏の顔では風俗壊乱……」


 山下の奥義が早くも二つ出来てしまった。飛ばしすぎか。


「じゃあ俺は……まず"桜花爛漫"。咲き乱れる桜の如き剣戟」

「王道だね。割とメジャーな四字熟語だけどしかし使い古されてはない。次、"林林総総"。とにかく大量って意味らしい。目にもとまらぬ速さで繰り出そう」

「若干被ったな。じゃあ俺、"槿花一日"。人の栄華は儚いって意味らしい。この奥義は誰にも真似できない。俺が死ねば、そこで潰えるのみ……」

「花つえぇ〜〜!! 次! "火中取栗"。己への負担はでかいが、仲間の為になら躊躇なく使う。」

「お前、それは……! ってなるやつな。じゃ、俺は……あーこれ……これだけでいいな、奥義」

「え? どゆこと?」

「"落花狼藉"。あちこちひどく散らかってることらしい。自己流で達人から見たら拙い動きだが、どういうわけか通用する……ことから、そう呼ばれている……」

「うわーいい! けど橋本そういうタイプじゃないだろ! 俺はこれで最後。"山藪蔵疾"。優れた人間にも欠点があるって意味らしい。これ、強者相手に繰り出す不定の型。これで風林火山完成」

「いいね、お前のための型だ……ってなるわけだね。……うわ、あーこれ、うわー」

「え? なになに」

「やっぱこれ、これだけでいいわ」

「また? まぁさっきのは橋本っぽくなかったし、聞こう」

「"浮花浪蕊"。これといった長所のないありふれた雑魚って意味。天才に囲まれた凡人の俺が努力を重ねて編み出した唯一の奥義、浮花浪蕊……」

「うわいい! 努力型の凡人っていいよね!」

「そして俺がこの奥義を編みだす回のサブタイトルは"鉄樹開花"。咲くはずのない花が開花する……」

「良ッッ!」


 山下の「良ッッ!」と同時、屋上の扉が開かれる。奇しくも同じ音色の台詞と共に現れたのは、由佳だった。


「よっ」

「何しに来た」

「よ。帰りな」

「いや、相変わらず当たり強いな」


 二人とも、決して由佳のことを嫌っているわけではない。しかし、由佳がここに来たら取り敢えず厳しい言葉を投げかけるのがお決まりになりつつあった。


「今日はなんの話してたの?」

「俺達の奥義となる必殺技の名前」

「四字熟語でね」

「楽しそうで何よりですね」


 由佳は興味なさそうに言う。その背後には、もう一人誰かがいるようで。


「おい、誰連れてきた」

「ここのことあんま言いふらすなよな。禁止されっから」

「禁止されてんだよ。別に言いふらしちゃいないから。ほら、美香奈だよ」


 由佳の後ろに隠れていた女はちらりと顔を覗かせ、小さく会釈する。


「は!? お前……」

「この前の流れからよく連れて来ようと思ったね。異常者め」

「こ、この前の……流れ?」

「あーいいのいいの美香奈は気にしないで。本人が来たがってたから。それに美香奈は少年漫画とか結構好きだから、アンタらと波長合うと思うよ。」

「ほう、そうなると話が変わってくるな。まずは実力の程を見せてもらう。俺は"山藪蔵疾"。」

「俺は"浮花浪蕊"。」

「それ自己紹介なの?」

「えと、わ、私は……」


 美香奈は指先を弄りながら空中を数秒眺め。


「えと……"悶絶躄地"」

「橋本」

「合格」

「ようこそ」

「え! えらいあっさり! ウチと対応ちがすぎない?」

「はぁ? じゃほら、言えなんか」

「えっ、そんな、えっと……ゆ──」

「唯我独尊とか言ったら出禁だよ」

「クッ……!」

「コイツぁ1話で死にますわ」


 山下は手を額にあてて「アチャー」と顔を顰める。


「うるせぇな! 勝手にやってろ!」


 バタン! と強めに扉を閉め、由佳は何処かへ消えてしまった。で、数秒後。


「あだめだよね、美香奈一人にしたら可愛そうだもんね」


 帰ってきた。


「うーん、これは?」

「to be continue...」

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