第6話力
義也の話を信じた健介は、彼のために必死で祈祷師を探してくれた。だがどれも、各務に法外な料金を要求するわりには、全く役にたたなかった。
それでも健介は、あきらめずに、日本中探し回ってくれた。だがその事が、彼の会社に思わぬ悪影響をもたらした。彼が、新興宗教に狂っていると言ううわさが流されたのだった。そのため、得意先が、彼の会社からどんどん離れていき、会社は、あっという間に傾いてしまった。
「ごめん。俺のせいで・・・・・・。でもどうして俺なんかのために、そこまでやってくれるの?」
義也がそう言うと、彼は笑って答えた。
「こんなお当たり前じゃないですか。今までさんざん、あなたにはお世話になったのだから」
「でも、今の俺は、福の神どころか、疫病神だ。この家を追い出されても、文句は言えない」
「追い出すだなんて、考えたこともありません」
「なぜ?」
「なぜでしょう。私にもわかりません」
健介はそう言うと、にっこりと笑った。それを見た義也は、温かい何かが、彼の心の中に広がっていくのを感じた。
ある日、祈祷師と名乗る男が、やってきた。義也は、彼を見るなり怒鳴りつけた。
「お前らみたいな詐欺師には、もう用はない! さっさと立ち去れ!」
だが、健介は、彼を引き留めた。
「もしかしたら、この人なら完全に、あなたの心の中から、化け物を消せるかもしれません」
彼はそう言った。
祈祷師は義也を自分の祈祷所へ連れて行くと言って、彼を自分の乗ってきた車に乗せた。だがやがてついた場所は、どこかの山の中だった。
「こんな所で、何をする気だ?」
義也がそう言うと。彼はフフッと笑った。するとその男の顔が、見る間に変わっていった。
「化け物!」
その顔は血のように赤くなり、あちらこちらにたくさんの目が、現れたのだった。
それを見た義也は、腰を抜かしてしまい、その場から動けなくなってしまった。そんな彼の様子を見て、それはまたフフフと笑った。そして左手を彼の額に付けた。
すると彼は、頭がふらふらしてきてしまった。
「おい、止めろ。何をしているんだ? 止めてくれ」
「おとなしくしろ。じゃないと、お前の脳みそを、ぐじゃぐじゃにするぞ」
驚いたことに、その化け物は義也の頭の中に、手を突っ込んでいたのだった。
しばらくすると、何かを握りしめた左手を、義也の前で開いた。そこにあったのは、黄色い小さなキューブ型の物だった。
「よく見るがいい。お前が福の神なんて呼ばれて、いい思いができたのは、これのおかげだ」
「いつの間にそんなものを・・・・・・」
「覚えてないのか? ほら、我々の宇宙船を、お前が間抜け面で見上げていたことがあっただろうが」
それを聞いて義也は、空き家で流れ星を見ていた時のことを思い出した。
<そういえば、あの時頭に何か当たった。もしかして、あれか?>
「お前のおかげで、我々の家畜となる地球人の観察が、十分できた。礼を言うよ。あっ、そうだ、お前の脳みそには、一切傷はつけてないから心配するな。お前はすっかり元通りの能無しに戻った」
宇宙人は、宙に浮かぶと、そのままガラスの割れた天窓に向かって、どんどん上昇していった。それを見て我に返った義也は、強い怒りを感じた。
「お前たちの、家畜なんかになってたまるか!」
そう叫んだとたん、彼の頭頂部から、天に向けて光線が発射された。
それが雲を貫いたとき、何かが爆発して、四方八方に飛び散るのが見えた。
「なぜ、あいつに、こんな力が・・・・・・」
宇宙人は、うめきながら彼を見た。そして彼に襲い掛かってきた。すると義也は、今度はそれの顔に、手のひらを押しあてた。
彼の掌が一瞬赤くなったと思ったら、その宇宙人の顔が溶けだした。
「なぜ、お前にこんな力が・・・・・・」
弱々しい声でそういうと、それは跡形もなく溶けて消えてしまった。
完
福の神 窓百 紅麦 @d001123
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