第5話見える

ある夜のことだった。義也は誰かに体をゆすられ、目を覚ました。

「播磨!」

播磨は、厳重なセキュリティーをうまくかいくぐって、家の中に侵入してきたのだった。


「お前、今までどこに行っていた? 何度も電話したんだぞ」

「すまない。ヤバいことになっていたんだ」

彼は、闇金の取り立てに追われていたことを話した。


「もう逃げるのに疲れた。だから、俺も今度こそ覚悟を決めた」

以前の時は、義也をたきつけたものの、犯罪行為をすることに、播磨は気後れしたのだ。

「なんだ、お前らしくもない。昔はどんな悪いことも平気でやっていたのに」

「バカ言うな! いくら俺だって、強盗みたいな大きな犯罪は、初めてだ」

<なんだ、悪ぶっていただけなのか>


義也は、播磨を各務夫婦の寝室に案内した。


播磨は彼らをナイフで脅すと、縛り上げた。仲間とばれないように、義也も彼に縛らせた。そして健介に金の在りかを言わせた。だが、その時各務家にあった現金は、決して彼が満足する額ではなかった。


「けっ! たったこれっぽっちか⁈ これじゃあ、借金も返せやしない」

「だったら明日、銀行へ行って、ありったけの金を、おろしてくる。だから、妻や子供には、危害を加えないでくれ」

涙声でそう訴える健介を見て、義也はいい気味だと思った。


「バカ野郎! そんなこと信じられるか。どうせ警察に駆け込む気だろ!」

播磨は、健介の腹部を蹴り上げながら、そう叫んだ。そして彼は、義也の方を見た。するとその顔から、みるみる血の気が引いていった。

「ひえー」

彼は、大声で叫ぶと、そのまま逃げて行ってしまったのだった。



<あれは、何かとっても恐ろしいものを見た時の顔だった。あいつ、一体何を見たんだろう?>

気になってしょうがなかった義也は、播磨に電話した。だが、いくらかけても彼は出なかった。


そしてやっと播磨と話が出来たのは、それから10日以上も経ってからのことだった。その時播磨は、とても信じられないようなことを彼に言った。

 

「お前、何かにとりつかれているぞ」

その声は、とても弱弱しく、震えていた。


「はっ? お前、何言ってるんだ? 冗談だろ?」

「いいや、本当だ。俺はあの時、はっきりと見たんだ、お前の背中に化け物みたいなやつが、くっ付いているのを」

「ふざけるな! お前、どうかしてしまったんじゃないか⁈」

義也は、そう言って怒鳴ったが、播磨は、言い返すこともなく、無言のまま電話を切ってしまった。


<そう言えば、昔からあいつには、霊感みたいなものがあったな>

義也は、播磨がよく、亡霊を見た話しを仲間にしているのを聞いたことがあった。

彼の身体は、ガタガタと震えだした。

<あの花音とかいう女の子を、俺に助けさせたのは、そいつかもしれない>


その時から、播磨の言葉は、義也の頭から、一瞬たりとも離れなくなってしまった。夜になっても、眠ることさえできず、彼はどんどんやつれていった。


心配した健介は、彼にその理由を聞いた。すると義也は、叫んだ。



「化け物が!俺の背中には、化け物がいるんだ!」











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