59話「同じくらいの二人」

「……とまぁ、ユリアとはそう言った事情なんだ」


 凍り付いた空気の中、キースは女性陣三人に向けてユリアとの関係性を、レックの時よりもやや詳しく丁寧目に説明した。


「そういうことかぁ。実は、すでにこの子と色々なことをしてる関係ですってことかと思っちゃった!」

「さ、流石にキース様がそんなことしませんよね」


 キースからの説明を受けて、ミーシャとミストはホッとしたような表情で、何度もうんうんと頷いてすぐに納得してもらえた。


「……」


 しかし、ルナだけはその話を聞いても珍しく不満そうな表情を浮かべたままで、あまり納得できていないといった様子。


「ル、ルナ?」

「……私と同じくらいの年で、キース殿と既に仲良くしている方が居られるということが、ちょっとだけ残念だと思っただけなので、お気になさらずに!」


 言葉ではそう言っているものの、そっぽを向いてしまってかなりいじけている。

 ユリアの存在で、皇帝を中心に反応する人物はいるだろうと何となく予想していたが、まさかルナがここまで反応するとは予想外だった。


「へぇ、私と同じくらいの歳で、上の立場で色々と仕事している人って皇国に居るんだ。大国だから、年齢層が比較的高めの布陣なんだろうなって思ってたんだけど」


 ようやく空を飛んでいた気持ち悪さから解放されてきたユリアが、先ほどから話の中心になっているルナの姿を見て、興味深そうに近づいた。


「な、なんですかジロジロと見て」

「いや? 同じ年だし、私ってこれまでいろいろとあって同じくらいの人と関わる機会ってそんなになかったからさ」


 ユリアの言葉に、やや緩みつつあった空気がちょっとだけ固くなった。

 確かに、奴隷として売り捌かれようとしていた身で、満足に学校などに通える立場では当然なかった。

 キースに拾われた後もエルクス王国内では荒廃が進んでしまい、よっぽどの実力者か高貴な身分が保証されたものしか王立学園には通えなかった。

 その上、キースがユリアを一人森の方へと送り出したことで、人との接点などより無かったに違いない。


 そのため、ユリアの何気なく発した一言に、キースはかなり申し訳ない気持ちになった。


「ルナ、だっけ? あなたは年が同じくらいの人たちと関わる機会とかあるの?」

「……いえ。こういう立場ですし、お高く留まっていると思われて誰も近づいてきません。それに私自身、そこまでうまく関われていなかった自覚もありますからね」

「そっかぁ。私と一緒だね。森から飛び出して、国内を巡回している時に町や村でまれに見かける年が同じくらいの人に声かけても、怖がられたりして疎まれちゃったからねぇ。何となく分かるような気がする!」


 ユリアの言葉を聞くと、彼女が過ごしていた時間は想像以上に苦しいものであったことがよく分かるのに、あくまでも明るくルナに話を続けていく。

 そんなユリアの様子に、ルナも最初はむくれた顔をしていたが、だんだんと表情が変わり始めていた。


「あ、一緒にされたくなかった? だとしたら、ごめんね?」

「い、いえ。そんなことはありません。ユリア殿も大変だったのですね。申し訳ありません、子供じみた真似を……」

「ううん、全然大丈夫よ!」


 あっという間にユリアとルナが打ち解けて、年ごろの女の子二人が和やかに話す構図が出来上がっていた。


「へぇ、ルナともう仲良くなっちゃった。大変な思いをしてきたのに、強い子だね。この辺りも見込んで、この子を助けたの?」

「いや、別にそう言うわけじゃないんですけどね……。放り出していた立場で言うのもどうかと思うかもしれませんが、一人で生きるうちに色々なことを学びつつも、精神的にも強くなったみたいですね」

「なんとなくですけど、性格が私と似ている気がしますね」


 ミストの言う通り、何があっても今が何とかなっていれば大丈夫と言う、強く前向きな性格がユリアとミストは似ている部分のような気がする。

 コミュニケーション能力に長けたミーシャが、ルナと仲良くしているとは言っても、年が若干離れているので、姉的存在ではないかと言う気がしていた。

 そうなってくると、ユリアがルナと仲良くしてくれることで同じくらいの歳で、同性の友達が出来ることになる。


 ミサラが、ルナのことで心配していた要因をまた一つ、取り除くことが出来るような気がしてきた。


「ルナは、何が得意なの?」

「私は魔法と戦術を主に専門としていますよ!」

「せ、戦術考えてるの……? すごいなぁ。じゃあ、私がエルクス王国内を見て回った情報とかあれば、助かったりする?」

「とても助かります! 後でぜひぜひ!」

「いいよ~!」


 あっという間に仲良くなることが出来た二人は、その後も引き続き話が途切れることなく続いていた。


「キース、ルナの仕事してるところに見てくる~!」

「ルナの邪魔だけはするなよ?」

「分かってる! ルナ、行こ!」

「よろしいですか? では、行きましょう!」


 あれだけキースから離れまいとしていたユリアだったが、ルナの仕事でラツァテの街から脱出した住民の数を集計する仕事に、一緒に向かって行った。
















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貴族に無茶苦茶なことを言われたのでやけくそな行動をしたら、戦争賠償として引き抜かれました。 エパンテリアス @morbol

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