冒険者パーティを追放された俺、最強知識チートで「ざまあ」する。 やっぱり追放無し! と言っても、今更もう遅い。

ヤマタケ

知らなかったでは、済まされないこともある。

「お前をパーティから追放する!!」


 冒険者ギルドの酒場のど真ん中で、リーダーは俺にそう告げた。


「……え、マジで?」

「あたり前だろ? お前みたいな役立たずの、もう面倒見るのもうんざりだぜ、なあ?」


 リーダーはそう言って、周囲のパーティメンバーを見やる。他のメンバー3人も、にやにや笑いながら頷いている。


「そう言うわけだ。じゃあな!!」

「え? ちょっ!!」


 俺が何か言う前に、リーダー以下3名は笑いながら酒場から出て行ってしまった。


 酒場に、静寂が走った。俺もぽかんとしたまま、開いた口が塞がらない。


(……確かに、戦闘やクエストで役に立つ、ってことはなかったけどさ……)


 それでも、アイツらがクエストに集中できるように、俺はに頑張ってきたというのに。

 俺はすっくと立ちあがると、そのまま酒場を出る。

 そしてそのまま、冒険者ギルドの受付スペースに足を運んだ。


 受付嬢も、今の騒ぎははっきりと聞いている。


「……バカですよね、あの人たち?」

「……本当にな、バカだよ、アイツら」


 俺は受付嬢さんが差し出してきた紙に、さらさらと名前を書く。


 ――――――――あいつら、目にもの見せてやる。


*********


 俺が冒険者ギルドのギルド長のところに呼び出されたのは、それから数日後。


 ノックしようとドアを叩こうとしたところで、中での会話が聞こえてきた。


「――――――貴様を、冒険者ギルドから追放する」

「はあああああああああああああああああああああ!?」


 ギルド長の乾いた声と、リーダー、いや、元リーダーか。彼の、信じられないという悲鳴が聞こえてくる。


 案の定か、と思って、俺はドアをノックする。「どうぞ」と言われたので、俺はドアを開けてから小さく頭を下げた。


「あっ……お前!!」


 リーダーが、顔面蒼白になってこちらを見る。ギルド長は、ため息をつきながらリーダーと俺を交互に見やっていた。


「来たか。……まあ、聞こえてたろうが、そういう事になった」

「わかりました」

「お、お前の差し金か!? いきなり、ギルド追放って……!!」


 リーダーは、なりふり構わず俺の服の襟を掴もうとする。だが、それはギルド長の側に控えていた、ギルド一の凄腕と言われる女剣士に阻まれた。


「い、いてて!!」

「差し金もなにも、正当な申し出をしただけだぞ、彼は」

「も、申し出……?」


 まだ事態を理解していないリーダーに、この場にいる全員が溜め息をつく。


「……おい、見せてやれ」

「……わかりました」


 女剣士は、胸元から一冊の本を取り出す。


「……な、なんだよそれ」

「ギルド規約だ。お前だって持ってるだろう? ギルド加入時に渡されるはずだ。一人一冊な」

「え、知らねえんだけど……」


 女剣士は、呆れた、というようにかぶりを振る。いや、ホントに。呆れるのも無理はない。


「ギルド規約第35条。冒険者ギルド登録者同士によるパーティ結成・解散における条項」


 ギルド長が呟くと同時に、女剣士が該当するページを開く。


「第4項。冒険者離脱、解雇に関する項目。登録者同士によるパーティからの離脱及び解雇は、冒険者ギルドに事由発生の30日前までに申請をし、承認を受けなければならない」


「……え、ってことは……?」

「コイツを追放というのは、まぎれもなく解雇だな? そんな書類は、確認したがギルドで受け取ってもいない。どういうことだ?」


 ギルド長の鋭い目が、元リーダーを見据えた。元リーダーは、思わず後ずさる。


「い、いや、それは。その……」


「こんな仕組みが何で存在するかわかるか? パーティを何らかの理由で辞めた冒険者には、ギルドがある程度の面倒を見る義務がある。その手続きをするために、事前にクビにするならするでギルドも把握しないといけないんだよ、じゃないとこっちが動けないからな」


 ギルド長がものすごく怒っているのが、俺でもわかる。


「そして、もう一つ。第5項」

「はい。第5項、解雇事由に関する項目。冒険者パーティは、あくまで個人の能力、身体、性別、人格及び思想による解雇を行ってはならない」

「え、そんな項目あるのかよ!?」


 元リーダーが驚くが、それは当然だ。この項目がなければ、冒険者ギルドには失業冒険者で溢れかえることになる。


 ギルド長は、元リーダーの反応に、肩をわなわなと震わせている。どうやら、あまりにも規約を知らなすぎることが、相当頭に来ているらしい。


「……さらにだ!!」

「第6項、離脱及び解雇による措置に関する項目。懲戒による解雇を除き、冒険者パーティを離脱、解雇される者には、ギルド規約に応じた脱退金を支払わなければならない」

「だ……脱退金!?」


「……お前のギルド所属年数は、5年だったな」

「は、はい」


 俺はギルド長の気迫に押されながらも答える。


「ギルド内での、お前の評価は?」

「はい。クエスト貢献度D、貢献度B。上半期末ではありませんが……現状、彼個人としてのギルドでの最終評価はCになるものと思われます」

「評価C、所属5年以上の脱退金は……金貨、100枚になるな」


「き、金貨100枚!?」


 元リーダーは、口をあんぐりと空けるしかない。何しろ、金貨100枚というのは、パーティが月に稼ぐ金額の倍の額だ。


「そ、そもそもなんだよ、その他貢献度って!?」

「――――――ギルド規約」

「そんなのいいからよ!!」


 女剣士の言葉を、元リーダーは遮る。あまりの金額に、興奮が冷めやらぬようだ。


「……この方は、ギルドの庶務手伝いのバイトを引き受けていたんです。クエストでは貢献できない代わりに。そのため、ギルド内であなたたちの評価ポイントは高い水準を保てていたんですよ」

「な、何……?」

「受付嬢からの評判も良いので、彼には今後正式に職員として、ギルドの仕事を手伝ってもらう予定です」


 つまり、俺の再就職先は、すでに決まっている。


「こっちとしても、うちの職員になる男の身辺整理はきっちりしておきたいんでな。……言っておくが、これらは全部、「知りませんでした」では済まされんのだぞ?」

「で、でも……こんなことって……!」

「言っておくが、既に全部裏取りは済んでいるぞ。というか、ギルド系列の酒場で堂々と叫びおって。うちの職員が、揃って証言しおったわ」


 そして、ギルド長は元リーダーの顔を、ぐいと自分の顔に寄せた。


「ギルド規約第5条、冒険者登録資格・解除に置ける条項!!」

「はい。第3項」


 女剣士が、元リーダーの眼前に、ギルド規約を突き出す。


「読め!!」

「え、え……っ。ぎ、ギルド条項の規約を著しく違反する者、およびギルドの信頼を損なう行為を行った者は、速やかに……ち、懲戒処分とする!?」


「その通りだ、この大バカ者がぁああ!!!」


 ギルド長の激昂に、元リーダーはひっくり返ってしまった。


「貴様のような不届き者、即刻追放じゃ!! 冒険者登録も剥奪する!! おら、冒険者証返せ!!」


 女剣士に手持ちの袋をまさぐられ、元リーダーは唯一の身分証明である冒険者証を失った。ギルド長はそれを女剣士から受け取ると、近くにあったランプにくべる。


「あ、あああ……!!」


 これで、元リーダーは冒険者としての身分を失ってしまった。


「これでお前は冒険者ではないわい。お前のパーティメンバーには、ワシから直々に通知を出しておく」


 3人の中から、新しいリーダーを決めて、パーティを登録し直さなければならない。なんか、本当に申し訳ない。


「貴様……借上冒険者宅に泊まっておったな。お前の荷物は、即刻引き払う。冒険者でない者に、ギルドが借りてる家に住まわすわけにはいかんからな」

「そ、そんなあ……!!」


 がっくりと膝から崩れ落ちそうになる元リーダーを、女剣士が取り押さえる。


「問題ない。寝泊まりできるところは、すぐに見つかる」

「え……?」

「貴様、コイツに脱退金を払わねばならんのだぞ。どう払うつもりだ、根無し草の貴様が」


 ギルド長が、俺を指さして言う。


「それだけじゃない。こいつからは不当解雇による訴えも出されておる。よって、慰謝料も込みで、コイツに払う金額は金貨120枚じゃ!!」


 慰謝料分金貨20枚、というのは、結構良心的な金額だ。いくらギルドに就職が決まっているといっても、不当解雇の相場は金貨50~80枚ほどらしい。ギルドの顧問弁護士が言っていた。


「そ、そんな……そんな金ないっすよ!!」

「わかっとるわい、そんなこと」

「身寄りもなく、身分がなくても、ギルドうちが懇意にしている金融屋がいるから、そこから借りてもらうわ」


「返済する労働も斡旋してくれるそうだし、何なら住み込みでの現場もあるそうだぞ。どこぞの山の開発とか」


 元リーダーの顔は、すっかり萎れてしまっている。自分がこれからどんな目に遭うのか、容易に想像できてしまったようだ。


「――――――な、なあ!!」


 元リーダーが、俺の方を向いた。


「悪かったよ!! 許してくれよ!! 追放はなしにする!! ほかの奴にも、言い聞かせるから!! なっ!?」


 土気色になりつつある元リーダーの顔は、もう見ていられなかった。俺は、ふい、と視線を彼から逸らす。


「――――――もう、遅い。アンタはもう冒険者じゃないし、俺はギルドで働くことに、決めたんだから。脱退金と慰謝料、きっちり払ってください」


 元リーダーの顔が、絶望の一色に染まる。それが、俺が知る彼の最期の顔だ。

 結局、そのまま元リーダーは、女剣士にずるずる引きずられて出て行ってしまった。

 戻ってきたのは女剣士だけで、元リーダーが借りてきたであろう金貨120枚を、俺にポンと手渡した。ズシリと重い。これは、彼の今後の人生そのものの金額だ。


「――――――確かに」

「……ふん、なパーティリーダーだったな。規約も読まずに冒険者なんぞやりおって」

「ありがとうございました。相談に乗ってくれて」

「なに、こういうことをするのも冒険者ギルドわしらの仕事じゃて」


 ギルド長は、先ほどの怒りがまるで嘘かのように穏やかな顔をしている。


「――――――むしろ、お前さんにはこういうことを期待しているぞ? この手のトラブルは、本当に案件が多いからな」

「は、ハイ!!」


 俺は後ろ手に持っていたギルド規約を、しっかりと握りなおした。

 冒険者になって、ギルド規約に目を通していて、本当に良かったと思う。


 その後、前のメンバー3人はクエストが上手く行かず冒険者をやめたようだが、俺のあずかり知るところではない。


 俺が冒険者ギルド一のトラブルシュータ―としてあちこち駆け回るのは、これから先の事だ。


 


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冒険者パーティを追放された俺、最強知識チートで「ざまあ」する。 やっぱり追放無し! と言っても、今更もう遅い。 ヤマタケ @yamadakeitaro

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