第3話:ネコ好きの女魔王

「ここは……」


光が消えたと思ったら、森の中にいた。木々の隙間から、でかい城が見える。あれが魔王城に違いない。


(ということは、イナビスは本当に俺を転送しちゃったのか)


ゲームで言うと、すでにラスボスの前だ。冒険など、まるでしていない。ザコモンスターでさえ、討伐していないのだ。はたして女魔王が倒せるのか、俺は不安になった。


「とりあえず、ネコになるか」


俺は服を脱いで、裸になった。幸いなことに、この辺りには誰もいないようだ。さすがに異世界でも、裸はまずいだろう。


(呪文はたしか……“ネコになれ!”)


そのとたん、シュルシュルと体が縮んでいった。


(おおお! 何だこれは!)


あっという間に、目線が低くなった。俺は近くの池に行く。そぉっと覗いてみた。


「ニャニャ、ニャニャーン! (すげえ、本当にネコになってる!)」


池には、一匹のネコが映っている。どこからどう見ても、ネコだ。人間じゃない。


(驚いたなぁ。これが異世界か)


そこで俺は、あることに気がついた。


(というか暗殺って、どうやればいいんだ?)


見た感じ、普通のネコだ。日本のそこら辺にいるノラ猫と、大して変わらない。鋭い牙や爪もなさそうだ。


(まぁ、なんとかなるだろ)


何と言っても、ここは異世界だ。何が起きてもおかしくない。もしかしたら、女魔王だって弱点があるのかもしれない。俺は意気揚々と、魔王城へ向かう。道は舗装されていないし、車もバイクもなかった。


「ニャニャ~ン(なんだか、楽しくなってきたぞ)」


やっぱり、ここは異世界なのだ。新しい人生が始まると思うと、嬉しくなる。


(女魔王を倒したらどうしようか)


何なら、魔王を倒してから始まる冒険だって、あるかもしれない。もう一度言うが、ここは異世界だ。やがて、魔王城の前に来た。橋がかかっている。さすがに緊張してきた。


「ニャ(ごくり)」


俺は草むらに隠れて、辺りの様子を伺う。どうやら、誰もいないみたいだ。俺は意を決して走った。


(誰にも見つかるな!)


しかし、すんなりと城内に入ってしまった。見張りみたいなヤツもいない。簡単すぎて、逆に不安になるくらいだ。


(ここは魔王城……だよな?)


奥の方で、花に水をやっている女がいた。横を向いたとき、顔が見えた。


「ニャニャ! (あいつだ!)」


そいつの顔は、イナビスとそっくりだった。あいつが女魔王の、フルシアに違いない。その瞬間、怒りがフツフツと湧いてきた。


(イナビスを苦しめやがってええ!)


フルシアは命を狙われているとも知らず、また水をやり始めた。俺は人間だとバレないように、ネコ歩きで近づく。まずはわざと見つかって、油断させるのだ。


「ニャア! (このにっくきフルシアが!)」


『わあ、ネコちゃんだ!』


フルシアはのんきに、俺を抱え上げた。暗殺者とも知らず、俺を抱っこする。首元の急所が、隙だらけだ。これなら簡単に、こいつを暗殺できる。上手くいきすぎて、拍子抜けした。


(魔王め、覚悟しろ!)


俺はフルシアの首に嚙みつく……!!


『よしよし、かわいいねぇ~』

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