第5話:一晩寝てからにしよう
『ねえ、この子うちで飼おうよ』
ひとしきり、なでなでされたところで、フルシアが言った。
「ニャニ!? (なに!?)」
『ボクもそう言おうとしてた!』
『私も飼いたいですわ!』
『いいじゃん、賛成!』
『異議なし』
満場一致で、俺は魔王城で飼われることになってしまった。
「ニャ! (あ!)」
そのとき、俺はあの本の表紙を思い出した。
(そうだ! 表紙に描かれていた女の子は、こいつらだった!)
よく見ていなかったが、たしかにこの女たちが描かれていた。ということは、ここで俺のハーレム生活が始まるというわけだ。今後の展開を考えると、期待で胸が膨らんでいく。
(待て待て待て待て! なに喜んでるんだ!)
俺は自分の目的を、懸命に思い出した。フルシアを暗殺するのだ。イナビスを苦しめるヤツは、俺が許さない。
(こんどこそ!)
俺はフルシアの顔に嚙みつく……!! その瞬間、彼女に抱っこされた。頭をなでなでされる。
『いいよねぇ、ネコちゃん?』
「ニャア! (はい!)」
そのまま、俺はどこかの部屋に連れて行かれた。中には、大きめのベッドが置いてある。
『結局、フルシアの寝室かよ』
『ボクが一緒に寝ようと思ったのに』
『私にも貸してください』
『ひとり占めはダメ』
絶世の美女たちが、全員で俺を奪い合う。現世では、200%あり得ないことだった。俺はかつてないほどの幸せを感じる。
(異世界って、最高だなぁ!)
『いいの! 私が見つけたんだから!』
そのまま、俺はベッドに寝かされた。右を見ても左を見ても、美女ばかり。しかも、みんな俺のことを大切にしてくれるのだ。こんなハッピーは、地球上でいくら探してもないだろう。
(いや、今は異世界か! ハッハッハッ!)
『よしよし、かわいいネコちゃん』
撫でられているうちに、眠気が出てきた。ここまでの疲れが、どっと出たようだ。
(なんだか、眠くなってきたな)
思えば、今日は色んなことがあった。異世界転生して、ネコに変身して、なでなでされて……。暗殺がどうとかは、一晩寝てから考えることにした。前世では辛いことばかりだったのだ。少しくらい贅沢しても、別に問題ないはずだ。
(なんて幸せな時間なんだ。本当に、異世界転生できてよかった……本当に……)
俺はふかふかのベッドで、心地よい眠りについていった。
*****
『なに勝手に、私のデザート食べてんの!』
『だってお姉ちゃん、食べないと思ったのよ!』
『名前が書いてあったでしょ!』
『そんなの知らない!』
『いた! ぶったわね! もう許さないんだから!』
天界に帰省していたフルシアが、イナビスのスイーツ(有名なお店のヤツ。大事にとっておいた)を食べたことで始まった姉妹ゲンカ。
そして、そこに現れた、猫山カワルという不運な男。ボロボロのカワルを見て、イナビスはあることを思いつく。
(優しくすれば、きっと私の言いなりになる……)
ずぼらな性格を隠し、カワルに心底優しくしたイナビス。もくろみ通り、彼女はカワルの心身を掌握した。
「もちろん、俺が倒してやりますよ!」
(この子を暗殺者として、あんたのところに送り込んでやるわ。食べ物の恨みは恐ろしいわよ、クックックッ……)
静かにほくそ笑むイナビス。しかし、少し抜けてる彼女は、致命的なことを伝え忘れていた。
【変身】スキルは、寝ると効果が消えるということを……。
ブラック企業勤務の俺は異世界転生した~ネコ好きの女魔王を暗殺するため【変身】スキルで迷いネコになったが、ナデナデされるのが気持ちよすぎて動けない~ 青空あかな @suosuo
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