第4話:なでなで

「ニャ~ン」


フルシアに頭をなでなでされた瞬間、暗殺のあの字すら消え去った。自分が人間だったことすら忘れ、なでなでに身体を預ける。


(ダメだ、気持ち良すぎる……)


先ほどまでの怒りは、跡形もなくなっていた。天国にいるかと思うほど心地よい。


『おーい、みんなぁ! ネコちゃんだよぉ!』


フルシアが城へ向かって叫ぶ。すると、女がぞろぞろ出てきた。サキュバス、ダークエルフ、ドラゴン娘、堕天使だ。昔やったゲームに、こんなヤツらがいた。四人いるから、たぶん四天王とかのポジションだ。


(し、しまった! 敵が増えやがった!)


なでなでに夢中になっていて、肝心の暗殺を忘れてしまっていた。状況は1対5。絶望的だった。


(まずい! どうする、どうする!)


『フルシアって、本当にネコ好きだね』


サキュバスが、俺を見下してくる。バレてないか、だんだん怖くなってきた。


『マインちゃんも、ネコ好きでしょ?』


『ボクはオスなら、何でもいいの』


マインと呼ばれたサキュバスは、ひょいっと俺を取り上げた。


(クソッ! 離せ!)


俺は必死に暴れる。しかし、首根っこを掴まれていて、動けない。マインは俺のことを、ジッと見つめてきた。


『ニ、ニャ? (な、なんだ?)』


なんだか、局部が熱くなってきた。心臓がドキドキして、たまらない。下半身から得も言われぬ快感が、全身に広がる。


(き、気持ちいい……)


思わず、何か出そうになった。


『ちょっと、かわいそうじゃありませんか! 私によこしなさい!』


今度はダークエルフが、俺を奪った。


『エルダ! 横取りしないでよ!』


『おお、よちよち。怖かったねぇ。エルダお姉ちゃんが、優しくしてあげまちゅね~』


その豊満な胸に俺を挟み込み、なでなでしてきた。羽毛の枕なんかより、何十倍も柔らかい。しかも、女の良い匂いがする。


「ニャ……ニャ……(あ……あ……)」


息を吸うたび、脳が女の匂いで溶けていく。俺は意識が、もうろうとしてきた。


『おい、アタシにも貸せよ。このメラスムド様が、かわいがってやるから』


今度は、ドラゴン娘が俺を取った。乱暴に振り回される。


「ニャニャ! (やめろ! もっとエルダお姉ちゃんのところにいるんだ!)」


『なんだこいつ、機嫌悪そうだな』


メラスムドというドラゴン娘は、見るからに野蛮そうだ。至福の時間を邪魔された俺は、計画を変更する。フルシアより先に、こいつを始末してやる。


「ニャア! (まずはお前からだ!)」


俺はメラスムドの喉元に嚙みつく……!! そのとき、乱暴に腹をなでなでされた。


『撫でてやるから、機嫌直せよ』


「ニャ~……(いい……)」


優しいなでなでもいいが、雑な感じもまた良かった。下から見上げる、胸部の眺めも素晴らしい。しばしの間、メラスムドのなでなでを堪能する。


『ワタシにも、貸して』


堕天使が近づいてきた。


『まだアタシがかわいがってるってのに、しょうがねえなぁ。あれ? そういやフォーリンって、動物嫌いじゃなかったか?』


『ネコは別』


そう言うと、フォーリンという堕天使は俺を膝の上に置く。どんな気持ちいいことをしてくれるのか、俺は楽しみになった。


(今度は何をしてくれるんだ?)


フォーリンはいきなり、俺のケツをポンポンしてきた。


「ニャ? (な、なんだ?)」


じわじわと、尻から快楽が広がっていく。叩かれるたび、身体が溶けていくようだった。


(た、たまらん……)


脳汁が溢れ出るのを感じる。そして、どう頑張っても、目が虚ろになってしまう。俺は昇天しそうになった。


『ギャハハハ! めっちゃ気持ちよさそうじゃん、こいつ!』


『ネコは尻もイケるのか。ボクも初めて知ったよ』


『よく知ってましたね、フォーリン』


『ちょっと! みんな触りすぎ! 私が最初に見つけたの!』


フルシアが俺を奪い取る。


『ねえ! ボクもなでなでしたい!』


『私もかわいがりたいですわ!』


『アタシにも触らせろ!』


『ワタシだって』


そのうち、みんなで俺を取り合い始めた。代わりばんこに、俺をなでなでしてくる。美女(全員スタイル抜群)が、俺を奪い合う。俺は幸せ絶頂で、色々漏らしそうだった。


「ニャァ……(もうどうなってもいい……)」


現世で辛い目ばかりだった俺は、心が回復していくのを感じる。だんだん俺は、我慢できなくなってきた。


(人間に戻って、なでなでされたい……)


俺は今ネコだ。やっぱり、人間の身体でなでなでされたかった。ネコの状態で、これだけ心地よいのだ。人間だったらどれほど良いのか、想像もつかない。


(確か人間に戻るには、“人間に……”いや、ちょっと待て!)


すんでのところで、大事なことを思い出した。そうだ、俺はフルシアを暗殺しにきたのだ。こんなことをしている場合ではない。そもそも、こんな状況で人間に戻ったら、全てが終わる。しかも、俺は裸だ。


(落ち着け、カワル! 気をしっかり持て! イナビスを忘れたのか!)


俺は気合いを入れ直した。幸いなことに、こいつらは俺に夢中で隙だらけだ。相手がいくら四天王だろうが魔王だろうが、油断している敵を倒すのは簡単だ。。


「ニャア! (魔王め、覚悟!)」


俺はフルシアの首元に嚙みつく……!!


『ホントにかわいいねぇ。もっとなでなでしちゃお』


「ニャ~ン(いや……もうちょっと、このままでいいか……もうちょっとだけ……)」


俺の鋼の意志は、一瞬で砕け散った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る