第118話 海賊爺さんと謎の地図

 海賊爺さんと一緒に、深海のお宝とやらを探すことになった私。


 頼もしい助っ人が出来て、クエストなんて楽々クリアー……なんて、出来るはずもなく。


 溺死寸前でキュー太に海面へと引っ張り上げられた私は、青空に向かって思い切り叫んだ。


「ぶはーー!! って、カナヅチ二人集まったからって何が楽になるの!? ただ足手まといが増えただけじゃん!!」


『まあ、そうなるな』

『そもそも潜る前に気付こうよそこはw』


 私がたどり着いた結論に、視聴者のみんなはとっくに気付いていたらしい。

 いや、だったら教えてよ。危うく死に戻るとこだったよ!


『しかしその爺さん、本当に役に立たんな……』

『クレハちゃんのカナヅチ発言がトリガーになってたっぽいから、泳げない子への救済的なアレかと思ったんだかなぁ』


 同時に来るのは、現在私の臨時パーティメンバーになった海賊爺さんへのコメント。


 うん、私のがんばりに感銘を受けた(?)とお宝探しを手伝ってくれることになったのはいいけど、本当に役に立たなかった。


 このお爺ちゃん泳げないから、キュー太が引っ張らないと移動出来ないし、いざ潜ろうとすると浮き輪が邪魔で微妙に動きづらそうだし……海の中でふわふわ揺れてるのが餌にでも見られるのか、やたらとモンスターも寄ってくる。


 もう、これじゃあ深海の探索どころじゃないよ。


「ほら海賊爺さん、早く起きてー、そんなんじゃいつまで経っても終わらないよー」


 私と同じように海面に引き上げられ、なぜか私と違って大量に飲み込んだ海水でお腹が膨らんでいる海賊爺さんを、浮き輪の上から軽く揺らす。


 すると、海賊爺さんはぴゅー、と綺麗な(?)噴水を作りながら、どうにか声を振り絞った。


「ちょ、ちょっと待つのじゃ……ワシ、もう少し休まねば回復せんのじゃ……」


「もー、そんなことじゃ立派な海賊になれないよ!? 海の男なんでしょ? だったら海の水くらい全部飲み干すつもりでがんばってよ!」


『いや、それは違うだろw』

『そもそも飲むなw』

『相変わらず微妙にズレてるクレハちゃんである』

『カワイイ』


「細かいことはいいのー!!」


 ぷんすこと叫びながら、どうにか海賊爺さんの救助を終わらせる。


 すると、今の今まで死にかけていたのが嘘みたいに、海賊爺さんが元気になる。


「よし、バッチリ回復したぞい!! さあ行くぞクレハよ、深海の宝の下へ!!」


「海賊爺さんは引っ張られてるだけでしょー、もー。少しは落ち着こうよー」


『クレハちゃんに諭されるとか、この爺さん哀れ過ぎる』

『普段はクレハちゃんが誰よりも考えなしだもんな』

『失敬な、考えなしではなく天然プレイと言え!!』

『そうだぞ、クレハちゃんは確かにちょっとおつむが弱いが、可愛いからそれでいいんだよ!!』


「君たち、それフォローになってないからね!?」


『でもまあ、実際少し落ち着いて考えた方が良さそうではある』

『溺れる溺れない以前に、お宝のヒントすら見付かってないしな』


 いつも通り言いたい放題のコメントに文句をつけていると、不意に真面目な意見が届く。


 その意見に、私も大きく頷いた。


「そうだよね、何せ……肝心の宝の地図が、こんなヘンテコな落書きだもんね!!」


 ドドーン、とキュー太の背中に広げた宝の地図は、もはや地図とすら呼べない何かだった。


 うん、だってこれ、よくわかんないぐにゃぐにゃの丸に"海"って書いてあって、その上にこれ見よがしにバッテンがついてるだけなんだもん。


 これを地図と言い張るなら、この前空いた時間に私が描いたモッフルの絵だって宝の地図だよ。みんなには『ボールにすら見えない』って笑われたけどね!!


「このよくわからない絵でどうすればお宝にたどり着けるのさーー!!」


『まあ、普通に考えるなら、ワールドマップの"海"の部分とこの宝の地図を重ね合わせて、バッテンがついたところにお宝がある、ってことなんだろうけど』

『下手過ぎて上手く重ならんw』


 そう、地図というからにはやっぱりマップに照らし合わせて考えるべきだと思うんだけど、ワールドマップにしろ周辺マップにしろ、微妙に一致しない。


「無理矢理重ねてバッテンのところ潜ってみたけど、全然それらしいもの見付からないしねー、どうしたものか……」


 うーん、と悩みながら、しばらく海の上で揺蕩う私。

 宝の地図とにらめっこしつつ、お腹が空いたらしいキュー太にご飯をあげて……と、まったりしていると。


『クレハちゃんクレハちゃん』

『知らん間に海賊爺さんがいなくなってるぞ』


「えっ」


 コメントから思わぬ報告がなされ、私は慌てて周囲を見渡す。


 いない、本当にいなくなってるよ海賊爺さん!


 こういう時こそパーティ機能で……と、現在地を確認すると……結構近くだった。


「いやこれ、近くっていうか海底にいる!? 溺れてるの!?」


『浮き輪つけてたのに!?』

『これが生粋のカナヅチというやつか』

『そんなことある?w』


「とにかく助けないと! キュー太!」


「キュー!」


 私のお願いに素早く反応したキュー太が、海底目指して一気に潜航していく。


 するとすぐに、海中をぶくぶくと沈んでいく海賊爺さんの姿が見えた。


『あれ、浮き輪破れてない? 萎んでるけど』

『NPC装備にそんなことあるの!?w』

『破損か……そうでなければ、時間経過で空気抜ける仕様とか?』

『あー、そっちの方がありそう?』


 みんなの言う通り、海賊爺さんの装備してる浮き輪が小さくなってる。

 理由はどっちか分からないけど、どっちにしても急にいなくなられるとびっくりしちゃうよ、もう、ドジなお爺ちゃんなんだから。


 そんな風に思いながら、私は海賊爺さんを助けようとして……そこであることに気付き、思わず叫んだ。


「あぁぁぁぁがぼがぼがぼがぼ!?」


『ちょっ、クレハちゃん!?』

『なにしてんのw』


 危うく溺れかけた私は、キュー太に引っ張られて海面に向かう。

 みんなのバカ笑いするコメントが流れてるけど、今はそれにあーだこーだ言ってる場合じゃない。


「見付けた!! 見付けたよみんな、地図の場所!!」


『えっ、マジで?』


「うん!! 海底に、ミラクルサークルみたいな感じでおっきな絵があったの!! まさしくこんな感じの!!」


 海底に顔をつけながら、スクリーンショット機能を使って写真を撮って確認する。


 出来の悪い落書きみたいなその輪っかに、みんなはなるほどと納得しつつ……一言。


『クレハちゃん、ミラクルサークルじゃなくて、ミステリーサークルね』

『まあ確かにクレハちゃんのミラクルでもなきゃ見付けられない輪っかだと思うけど、物の名前はもう少しちゃんと覚えようね』


「…………」


 やっとクエスト進行の足掛かりを見付けたと大興奮だった私は、そのコメントにピシリと硬直し。


 なんとか誤魔化そうと、鳴りもしない口笛を吹き鳴らすのだった。

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