第117話 海賊爺さんと新たなクエスト

「いやー、助かった助かった、危うくあのまま溺死するとこじゃったわい」


「は、はあ」


 代わりに私が溺死するところだったよ、と文句を言いたいところだけど、NPC相手にそれを言っても仕方ない。


 というか、そんなことより。


「お爺さん、その装備でどうやってあんなところまで潜ったの?」


 私達の現在地は、海面上。陸地じゃない。

 私は当然キュー太に乗ってるんだけど、このお爺ちゃんは腰に浮き輪を装備してる。


 助けた後に装備したとかじゃなくて、最初から。


「ワシの名は海賊爺さん。海のロマンを求める男の中の男じゃ」


「あれ、私の質問はスルーなの!?」


『まあ、NPCだしねw』

『しゃーない』

『むしろ会話が大体成立するクレハちゃんがおかしい』


 私の叫びに、いつものようにコメントでみんなからツッコミが入る。


 だってさ、他の変人お爺さん達はみんな会話が成立してたもん。いくらNPCだって分かってても、なんかこう会話出来ると思うでしょ。


「ちなみに、なぜ浮き輪があるのに潜れるのかという話じゃが……気合いじゃ」


「気合い!?」


 気合いで潜ったの!? 浮き輪装備で!?


『時間差で会話成立しとるがなw』

『この爺さん結構鈍いのでは?』

『だから溺れたんだな』


 私が驚いてる横で、視聴者のみんなは相手に分からないからと好き放題書いてる。

 全く、そんなこと言ってるのがお爺さんにバレたら怒られるよ? バレないだろうけどさ。


 ……お爺さん、カメラの方見てる気がするけど、バレてないよね?


「気合いで潜ってまで、お爺さんは何をしようとしてたの?」


「うむ、よくぞ聞いてくれた! 実はの、ワシはこの海のどこかにあるという至宝を探しとるんじゃ」


「至宝? ……それって、《七海宝物セブンスマリナ》のこと?」


 この海に生息する七つのお宝にして、私が全部集めて王女様に献上しちゃったやつ。


 てっきりそれのことだと思ってたんだけど、どうやら違うらしい。海賊爺さんは「甘い甘い」と指を振っている。


「確かに《七海宝物》は素晴らしきお宝じゃが、この海にはその存在すら定かではない至宝が眠っておるのじゃ!」


「存在が定かじゃないなら、なんであるってわかるの?」


「勘じゃ」


「勘!?」


 このお爺さん、ちょっと言い分がめちゃくちゃ過ぎない?

 いやでも、気合いで浮き輪装備のまま潜れるお爺さんなら、あるいは勘だけでお宝の所在が分かったり……!?


「というのは冗談でな、ここに先祖代々伝わる宝の地図があるんじゃよ」


「ずこーっ!?」


 信じかけたところで梯子を外され、私は思わずずっこける。

 なお、私の現在地は何度も言うように海面の上で、キュー太の上に乗ってる状態。そこでずっこけるとどうなるかといえば……はい、海の中にドボンするよね。ちなみに、私は泳げない。


 キュー太にちょっと呆れ顔で助けられて、なんとか事なきを得たから良かったけど……このお爺さんのせいで溺れかけたの、これで二度目なんですけど?


『いや、今のはどう考えてもただの自爆やんw』

『リアクション芸人じゃないんだからわざわざ律儀にコケなくてもw』


「いやだって、今のはずっこけるのが礼儀かなって思ったんだもん!」


 みんなも今のはずっこけるよね? えっ、しない?


「助けてくれたお礼じゃ、この宝の地図をお嬢ちゃんに譲ろう!」


「えっ、いいんですか?」


 まさかこんなにあっさり譲られるとは思ってなくて、私は目を瞬かせる。


 いやまあ、明らかにクエストのフラグだったし、くれないと先に進めないのは確かなんだけど……お宝爺さんの礼もあるし、何か条件みたいなのを出されるかと思ってたよ。


「なに、ワシはその地図の内容はもう頭に入っとる。それにな……ワシがその宝を手にするのは難しくての、お嬢ちゃんに後を託したいと思ったんじゃ」


「難しい……?」


 深刻な表情で語るお爺さんに、一体どんな重い事情が……と、私は息を呑む。

 そんな私に、お爺さんは一言。


「実はワシ、カナヅチでの。泳げんのじゃ」


「……はい?」


 えっ、カナヅチ? 海の男なのに? ロマンを求める海賊なのに!?


『うっそだろ、この爺さん泳げないのかよw』

『だから浮き輪なのかw』


 同じことを思ったのか、コメント欄にも爆笑の渦が巻き起こる。

 ただ、私は笑ってばかりもいられない。


「あの……私もカナヅチなんですけど……」


「……えっ、そうなの?」


 正直に言うと、私と海賊爺さんの間に奇妙な沈黙が降りる。


 どうしよう、フラグへし折っちゃったかな? と心配になっていると……海賊爺さんは、突如ぶわっ! と泣き出した。なんで!?


「泳げない身でありながら、ワシを助けるためにあんな海底まで来てくれたのか……! お嬢ちゃん、良い子じゃなぁ……!」


「あ、はい、あはは、どうも……」


 いや、ただお宝を探してただけなんですけどね? なんてとても言える雰囲気ではなく、私は適当に愛想笑いを浮かべる。


 すると、海賊爺さんは決意の表情で頷いた。


「こんな小さなお嬢ちゃんが、ワシと同じくカナヅチの身でありながら海に出ておるというのに、ワシだけこんなところで燻ってはおれん! 行くぞお嬢ちゃん!」


「えっ、行くってどこに?」


「決まっておろう? ワシら二人、力を合わせて至宝を手に入れるのじゃ! 一人では無理じゃとしても、力を合わせれば必ずや届く! 行くぞ!!」


「えっ……えーー!?」


 カナヅチ二人力を合わせても、要救助者が増えるだけだと思うんですけど!?


 そんな私のツッコミが炸裂する暇なんて、当然のようにあるはずもなく。


 私は、新たなクエストを受注することになったのだった。



クエスト:海の至宝を求めて

内容:深海に隠された至宝を入手する。

備考:クエスト終了までの間、パーティメンバーに《海賊爺さん》が追加されます。

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