彼女

 彼女、国文小町は迷子になる。

 しかし、に迷い込む様になったのは、もう何年も前、学の家に初めて遊びに行った時の事だった。


 その時小町は学とふざけて地下室でかくれんぼをしていた。ダンボールの影に身を潜めていた時、彼女はふと身体が浮く様な感覚を覚える。


 そして気がつくと海岸に立っていた。何処か見覚えがあるような、太陽が紅く空を染め上げて沈みゆく海岸。


 そこに一人の男の子が蹲っている。

 その肩が小さく震えていたのを見て、小町は声をかけた。


『だいじょうぶ?』

 男の子が驚き顔を上げた。大粒の涙が瞳から溢れる。

 泣いているのに、睨まれている様な目つき。顔立ちは全く似ていない。


 それなのに何故か彼女は、と思ったのだ。


 そう言えば、と小町は自分のリュックに入ったある物を思い出す。

 取り出して、目の前の彼に差し出した。


『食べる? おいしいよ!』

 国文小町特製、顔サイズクッキーだ。

 戸惑いがちに彼は頷き、大きな口でクッキーを頬張る。

 どこか覚えのあるやり取りだった。


『ありがとう』

 男の子の笑顔を目にすると再び意識が遠のき、彼女は何故か自分の部屋にいた。


 クッキーは勿論、なくなっていた。





 思い返せば、いつもいつでも、小町は別の時空に迷い込んで決まってそう言う人に会う。

 寂しげに一人でいる、別の時代の違う彼と出会うのだ。


「ねぇ、学くんは——生まれ変わりって、信じるかな?」

「はあ?」

 学の予想通りの反応に、思わず小町はクスクスと笑う。



 必ず会いに行くよ。君がどんな時代に居ても。



 小町は繋いだ手を改めて、ギュッと強く握った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

迷子の迷子の小町さん 寺音 @j-s-0730

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ