一番星

黒鉦サクヤ

一番星


■□■


大きな宇宙ソラに包まれて

ボクラは小さなホシになる



■□■


 二人の少年はうつぶせに寝転がりながら、窓から見える夜空を眺めていた。

 右側に転がった少年の栗色の髪が、開け放った窓から飛び込んできた風に吹かれて緩やかに揺れる。

 その隣で両足をパタパタと動かしていた少年が、ふいに隣の少年に声をかけた。


「ねぇねぇ、ルーク。なんかあの星掴めそうだよ」

「ホントだ。すごく近くに見えるね」


 ルークと呼ばれた少年はニッコリと微笑むが、すぐに目を伏せ呟く。


「でも、ルーシェ。ホントはすごく遠いよ……」


 いつも見あげている夜空は、とても綺麗な宝石箱みたいだった。

 ものすごく近くに見えて、ものすごく遠くにある綺麗な夜空。

 ルークは飽きもせず、ルーシェと一緒に毎日光る星を求めて見続けた。

 夜空の星明かりのように輝きを放つ銀色の髪は、月の光でさらに煌めく。風でルーシェの髪が揺れる度、ルークはそれに触れてみたいと思うのだ。

 ルーシェの求める星はどこにあるのだろう、とルークは思う。ボクがルーシェの求め続ける星になれたらいいのに、もっと近くにいけたらいいのに、と考えていた。

 しかし、考えてもその答えはルーシェしか持っていない。自分がいくら考えたところで答えは出ないんだ、とルークはさらに俯く。

 ルークが俯いてしまったのを見て、ルーシェは体を反転させて栗色の髪の毛を撫でた。


「そうだよね、遠いよね」

「ルーシェはずっと自分だけの星を探してるんでしょ。まだ誰も見つけていない星」

「うん。キラキラと輝く星。いつか見つけたいし近くに行ってみたいよね」


 でもね、とルーシェはルークの耳元で囁く。


「星空のもっと近くに行けたらいいねって思うけど、実はすぐ近くに、手に届く僕だけの星を見つけたんだよね」


 今はそっちの方が大事、とルークの手を握る。

 ねっ、と微笑まれてルークはきょとんとルーシェを見つめ、そして笑う。


「恥ずかしいな、ルーシェってば。なんだ、それだったらボクも毎日隣に一番星を見つけてた」


 ずっと欲しかった言葉をもらえたことに、ルークは満面の笑みを浮かべる。


「毎日毎日夜空を見つめ続けるこんな僕に付き合ってくれるのは、ルークしかいないよ」

「それって夜空を見つめる仲間が欲しいだけなんじゃないの」


 嬉しいのに憎まれ口を叩いてしまうのは、ただの照れ隠しだ。それはルーシェもお見通しで、笑いながらルークの髪を優しくかき混ぜて仕返しをする。


「もう! ぐちゃぐちゃだよ!」

「だって触り心地良いんだもん」

「じゃあ、ボクも!」


 ずっと触れたかった銀色にルークは手を伸ばす。くしゃりとかき混ぜれば、するりと指の間を掴んだ髪が逃げていく。それを追うように、何度も指を滑らせた。


「ふふっ。くすぐったい」


 そんなルーシェの様子に満足したルークは、仰向けに転がり毎日見上げる夜空を眺める。ルーシェも嬉しそうに微笑み、ルークと手を繋ぎ仰向けに寝転んだ。


「ねえ、僕たちはさ、誰よりも夜空に近かったんじゃない?」


 お互いの手に届く星だったんだからさ、とルーシェが呟く。


「うん、そうかもね」


 二人は手を繋いだまま、月と星の明かりに優しく包まれ瞳を閉じる。二人が安らかな寝息をたて始めた頃、夜空から煌めく星が一つ落ちた。


■□■


空の宝石箱に一番近くて

大切な場所にボク達はいる


優しさに包まれて

ボク達は誰かの為に光るホシになる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一番星 黒鉦サクヤ @neko39

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ