第7話 千代子、筋肉によって理想のボディを手に入れる

「ブーヨブヨブヨブヨ! お前もブヨブヨにしてやるブヨ――!」

「きゃああああああっ!」

「待てぇいっ!」


 魔法少女に限らず、正義のヒーロー/ヒロインの登場はかなり声を張らなければならない。あまり控えめだとせっかく華々しく登場しても無視されてしまうかもしれないからである。研修時には、腹から大きな声を出すためのトレーニングだと言われ、何かやたらと息を細く長く吐く呼吸の仕方を教わったものである。


 そのお陰か、数十メートル離れた場所からでもばっちり注目させることが出来るようになった私だ。


「おっ、お前は魔法少女!」

「魔法少女マッチョ! マッチョさんが来てくれたわ!」

「やめて、略さないで! ちゃんと『マッシヴ★チョコリーナ』って呼んで!! まぁとにかく、お逃げなさい、そこの春雨ヌードルを大量に購入したお姉さん!」

「ありがとうございます、マッシヴ★チョコリーナ!」

「春雨に頼るのも良いけど、まずは最初に野菜を食べること、そして、タンパク質も忘れずにね! 脂質もある程度ならOKよ! 運動ならスクワットがお勧め! フォームは動画サイトで確認して! 場所も取らないし、マンションでも出来るわ!」

「は、はいっ!」


 ぺこりと頭を下げ、お姉さんは駆け出した。がさがさと大量の春雨ヌードルが詰まったコンビニ袋が揺れる。先に野菜を食べることで血糖値の上昇を押さえるとか、タンパク質をしっかり摂るとか、炭水化物を完全に抜くのは危険だとか、その辺のことも初期研修で叩き込まれた。フトラスと戦う魔法少女は、ただただ物理的に強ければ良いというものではないらしい。


 偏ったダイエットをする者ほど、ちょっとしたことがきっかけで暴飲暴食に陥りやすい。つまり、ファットマスに入り込まれやすいのである。なのでこうして教え導くこともまた魔法少女の役目なのだ。


「ぐぬぬ、逃がすかぁっ!」


 それを追い掛けようとする薄黄色いブヨブヨの塊に、「お前の相手はこの私よ!」とチョップを叩き込む。けれど、全く通用しない。何せ、まだ何のパワーも溜めていないへなちょこチョップだ。


「マッシヴ★チョコリーナ、力を溜めるング!」

「わかってる! 弱点分析お願い!」

「今日のファットマスはメタボ腹タイプイズ! 腹が弱点イズ!」


 実際に戦うのは私一人だが、トレニンとエクサもサポートしてくれる。ファットマスのタイプと弱点を分析し、それを倒すために力を溜めるべき部位と、的確な強化メニューを指示してくれるのだ。

 ちなみにパワーを溜めている間は特殊なバリアが張られるらしく、敵の攻撃は受けない。向こうもそれをわかっているのか、最近ではちゃんと待つようになった。


「土手っ腹にぶち込むング! 下半身は昨日の貯金があるから、今日は大胸筋、三角筋、広背筋! そしてぇっ、上腕二頭筋ング!」

「これらを効率よく強化するためには、アイテムが必要イズ! 魔法を使うイズよ!」

「オッケー! プロテイン・ファット・カーボハイドレート! いでよ! Mマジカルマッシヴマシーン!」


 呪文を唱えながらステッキを振る。すると瞬く間に現れたのは、やたらとファンシーにデコられたベンチプレスマシンと懸垂マシンが一体となったスペシャルアイテムM・M・Mである。そのベンチに寝そべり、ゆっくりとバーベルを持ち上げる。


「背中のアーチを意識するング!」

「寄せて! 肩甲骨を寄せるイズ!」

「うおおおおおおおおっ!」

「来てる来てる! 大胸筋に効いてるイズよ!」

「見える見える! 三角筋にも溜まってるング! お次は懸垂ングよ!」

「ッラァ! ッンダァ! 燃える燃える燃えるっ!!」

「広背筋がキレッキレ! 上腕筋にもパワーが溜まって来たングよ!」

「ラスト十回っ! 顎はバーよりも高くイズ!」

「ぬぬぬぬああああああっ!」

「いまイズ! あの腹に風穴あけてやるイズよ!」

「ぶちかますング!!」

「よっしゃぁっ! ひっさぁーつっ! マッシヴパーンチ!!」

「ブヨブヨ、ブヨヨ――!!!」


 お決まりの断末魔と共に、今回のファットマスも無事倒すことが出来た。


 すると、聞こえてくるのは、それまで物陰に隠れていた人達の拍手と歓声だ。


「ありがとう、魔法少女!」

「今回もキレキレでしたね!」

「あなたみたいになりたいです!」

「その三角筋に惚れました!」

「あなたの大胸筋に挟まれたい!」

「君の大殿筋を枕にしたい!」

「僕の内転筋にサインしてください!」

「ポーズお願いします!」


 途中からよくわからない感じになって来たけど、これは毎回のこと。最初はどうしてみんな私の筋肉ばかりを褒めるんだろうって思っていたし、こんな筋肉だらけの身体なんて、ちっとも女らしくないって思っていたけど――、


 ショーウィンドーにうつる自分の姿を見てわかった。


 確かにちょっとムキムキしているけれども、いまの私の身体は、出るところは出ているし、くびれるところはしっかりくびれている。マシュマロボディではないけど、力さえ入れなければ、筋肉だって案外柔らかい。

 それに、こんな私を美しいと言ってくれる人達がたくさんいるのだ。


 でも――、


「万歳! マッチョ万歳!」

「キレてるよ! 仕上がってるよ! ナイスマッチョ!」


「略すな! 私はマッシヴ★チョコリーナだ!」


 マッチョと呼ばれるのだけは御免被りたい。


 私はマッシブ★チョコリーナ、今日も日本の平和(主に身体の)を守るために戦う。


 皆もバランスの良い食事と適度な運動で、暴飲暴食を促すファットマスに付け込まれない理想の身体を手に入れよう! 

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魔法少女マッシヴ★チョコリーナ 〜何をしても痩せなかった私がこの方法で痩せました!〜 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa

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