その立ち姿、澄み渡る水が如し

 これは、小作農の次男坊として生まれた主人公が剣の才能で騎士として成り上がる物語───ではない。出自にも才能にも恵まれなかった主人公、クルス・リンザールが持つものはただひとつ、執念のみである。

 努力チートも彼には微笑まない。彼が努力をする時、才能も環境もあるライバルたちもまた努力をしているのだ。

 何年も背中を追う日々が続く。ランキングを覗けばそこらじゅうに転がっているチート主人公がもつ才能、その一欠片たりとも彼には与えられていない。現代のファンタジーを継ぐ小説としては異端と言えるだろう。

 だが、クルス・リンザールは諦めない。

 努力を惜しまない天才たちに無駄を削ぎ落とし執念のみで食らいつく彼は、最後にある"ひとつ"を削ぐことで完成し、天上の天才たちの横を、前を駆けるに至る。

 クルス・リンザールがその剣から最後に削ぎ落としたものとは何か。最新話に至るまでの怒涛の伏線回収と熱量のある数々の描写が、読み終えた我々の心に火を灯すことは間違いない。