35

35


 やがて僕たちが穴を掘り終えると、タイミングを合わせていたかのようにミューリエも薪を持って戻ってくる。さらに手には何かの草も持っていて、訊いてみるとそれは香草ということだった。


 どうやら熊の肉の一部を香草とともに鍋で煮込んで食べるつもりらしい。肉の解体や血抜きなどの下処理は彼女がやるそうだ。剣や魔法だけじゃなく、そういう猟師スキルまであるなんて驚きだ。多彩な能力があって羨ましい。


 それとも冒険者ならみんなある程度はそういうことが出来るのかな?


 その後、ミューリエは食べる分だけ肉を手際よく取り分け、それ以外の部分は薪と一緒に燃やして骨にした。そして僕と女の子がそれを埋葬すると、三人で熊鍋に舌鼓を打ったのだった。


 ちなみに肉は臭みがほとんどなくて、鍋は町のレストランで出される料理みたいに美味しかった。ミューリエは調理も上手なんだなぁ……。



 鍋を食べ終えると、僕たちは和やかに世間話をしていた。


 その際に聞いた話だと、熊に追われていた女の子はレインさんという名前で、魔法使いをしているらしい。詳細な年齢は教えてくれなかったけど、僕より少し年上なのは確かだそうだ。


 それと旅の目的は魔法の修行だとか。もっとも、ミューリエはその話を訝っていたけどね。だからといって真実を追究する気もないみたいで、すぐに話題を変えちゃってた。


 まぁ、僕もミューリエもまだお互いに全てのことを打ち明けていないわけだから、それも自然な対応なのかも。


「ところで、魔法使いの女。あの程度の獣を倒せないくせに、よく今まで旅を続けてこられたな? 私たちが助けに入らなければお前の方が死んでいたぞ?」


「失礼ねっ! いつもなら魔法で難なく倒してるわよ! こう見えてもそこそこの使い手なのよ? 高位の魔族さえ簡単に滅せるんだから。ふふんっ♪」


「ほぉ……」


 得意気に話すレインさんに対し、ミューリエはピクリと眉を動かす。


 ミューリエは今の話、どう思ったんだろう? レインさんのハッタリだと感じたのかな?


 でももしそれが本当の話なら、レインさんも僕たちと一緒に旅をしてくれたらありがたいなぁ。魔王討伐の旅をしている以上、いつかは絶対に魔族と戦うことになるはずだから。


 見たところ、誰かとパーティを組んでいる感じじゃないし、誘ってみようかな?



 ……あっ、ちょっと待てよ?


 それだけの魔法の使い手だとすると、それはそれで疑問が湧いてくるなぁ。


「あの、レインさん。そんなに魔法が得意なら、なぜさっきは逃げ回ってたんですか? 魔法で対処すれば良かったんじゃないですか?」


「えっ? あ……それが……少し前から魔法がうまく制御できなくなっちゃって……。使えなくはないんだけど、安定しないっていうか。なまじ強力な魔法が使える分、暴発したら危険でしょ。こんな風になること、初めてなんだけどね」


「少し前って、どれくらい前からですか?」


「二日くらい前からかな? 急に魔力が不安定になっちゃって。数日前にシアに着いたんだけど、その時は何も問題なかったのよ。で、いつまで経っても元に戻らないから、地域的に魔力を阻害する何かがあるのかもって思って、今朝、シアを離れることにしたわけ」


「……ふむ」


 その時、静かに話を聞いていたミューリエが小さな相槌を漏らした。


 何か心当たりでもあるのだろうか? そういえば、彼女は何か悟ったような素振りをすることがたまにあるけど、それとも関係あるのかな? ま、考えたところで分からないんだけど。


 いつかタイミングを見て、聞いてみようかな……。


「ミューリエ、あなたには何か心当たりでもあるの?」


「いや、状況を理解して頷いただけだ。そんなことより、魔法が使えないなら剣でも使って戦えば良いではないか。物理攻撃なら可能だろう」


「えっ!?」


 レインさんはなぜか息を呑み、動揺の色を浮かべた。落ち着きなく瞳を動かしながらソワソワしている。


 どうしたんだろう? 今のミューリエの指摘におかしな部分があったかな? 魔法が使えないなら物理攻撃をすればいいって僕も思うし。


 ……それとも僕みたいに剣が使えない事情でもあるんだろうか。腕力に自信がないとか、怪我を負っているとか、何かの病気があるとか。


「ぶ、武器を持って戦うなんて、エレガントじゃないから嫌いなの! それに熊を相手に生半可な武器で戦えると思う? 私は魔法使いなのよ? 戦士じゃあるまいし、物理攻撃は専門外なの! いえ、戦士だとしても低レベルだったら太刀打ち出来ない相手よ!」


「一応、筋は通っているようだな。エレガントかどうかという部分以外はな……」


「っっっっっ! 納得してないみたいな顔ね?」


「さてな……」


 ふたりの間に不穏な空気が漂い始めた。


 ミューリエには悪意はないんだろうけど、なんでもズバズバ言う性格っぽいからなぁ。このままだと、言い争いになったりケンカになったりするかも。



 ――さて、どうしよう?



●仲を取り持つ……→23へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859765419915


●レインの肩を持つ……→8へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859764512072


●ミューリエの肩を持つ……→30へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859765658343


●放っておく……→2へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859763772966/episodes/16816927859764145518


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る