9.

「おっさん、東京に帰って何すんの? 前のブラック? な会社に戻るの?」

「ははは、まさか」


 ミズキの質問に俺は笑い飛ばす。あんなところ、もう二度とゴメンだ。


「新しい会社探すよ。もっといいところをな。それに、やりたいこともできたし」

「やりたいこと?」

「ああ。算数ドリルとか、問題集みたいなのをつくりたいなって。ミズキみたいに学校に行けなくなってるやつも勉強できるようにな」


 今まで特になくて、ぼんやりとしていた、俺がやりたいと思ったこと。それを気づかせてくれた。


「ミズキのおかげだよ。ありがとうな」

「う、うるせーよ」


 ぷいっと反対を向く。だけど耳が真っ赤なので照れ隠しなのが丸わかりだ。


「なあ」

「なんだ?」

「……名前、教えてほしいんだけど」


 ああ。そういえば、言っていなかったっけ。


「おっさんでいいんじゃなかったのか?」

「う、うるさいな。やめろって言ったのはそっちだろ」


 バシバシとたたいてくる。


「いてて、悪かったって」


 俺はミズキの方を見る。彼女も俺を見る。なんだかむずがゆい気分だ。だけど、それも少し心地いい。そんなことを感じながら俺は「あらためてよろしく」という意味を込めて、自己紹介をする。


「俺の名前は――」

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いつかくる日のために 今福シノ @Shinoimafuku

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