第9話 無法

その建物は、まさに殺風景としか言いようがないものだった。


立方体の形をしていて、真っ白な外壁には窓の一つも無い。


周りはコンビニ一つない郊外の埋立地。

眼の前に広がる光景は、荒野と地平線と、その建物。


笹原のいるダンジョン中央研究センターに感じた印象はそれぐらいしか無かったが、それだけでも強烈なインパクトを持っていた。


「いや、悪いね。こんなくんだりまで来てもらって」


「気にしないでください。流石にバスも電車も通ってない人工島にあるとは思ってなかったですけど。」


「採算が取れない第3セクターのなれ果てでね。半分放置されてる島だよ。」


「所で、何の用?」


数分たってやっと本題を切り出す。

「僕を研究してください。」


「何で」


「金がいるんです。」

「保険とか入って……あー。無理か」


笹原はようやく事の要点を掴み出した。


両親は、探索者の中でも割とグレーな立ち位置にあった。

1999年の混乱時、国が探索中のダンジョンに勝手に入っては中身の物を売るような無茶苦茶な事をする人間が大勢現れた。


火事場泥棒の延長線上にあるような事をしなければ、生きていけなかったのだ。


時は経ち、ダンジョン関連法によって世間の下で大手を振って歩ける探索者が増えたが、両親はその延長線上から脱却できず、そのまま俺を産むことになる。



自分たちの保険すら入れず、余裕のない状態で俺を養っていた状況だったのは、

葬式で親戚から初めて聞いた。


俺は相当やばい状況にある。家も引っ越さなければならない。


「そうだ、君の両親やたらグレーなことしてたんだっけ」


「なるほど……。」


笹原は腕を組み熟考するそぶりを見せる。


「いいだろう。」


その答えを聞いた瞬間、俺に安堵の気持ちが広がった。

危なかった、これで何とか生きていられるぞ……という。


「要するに君は、衣食住を確保したいんだろ?」


「はい」


「だったらそれらもこっちで用意する。で、そのかわり君のその奇特なスキルを研究させてもらう。」


「……いいんですか!? ありがとうございます!」


思ってもない好条件に俺は歓喜した。最高だ。


だが、研究とは具体的に何をするのだろうか?


「研究って、何するんですか」


「まあそんな心配しなくてもいいよ。別に変な人体実験とかしないし。」


「具体的に言うなら……国選の探索者と一緒に潜ってもらう。」


「あいつらの方がスキルのことをよくわかってるからね。探索者としての勉強にもなるだろう?」


「確かに……」


「ただ、油断はしないでね。模擬ダンジョンみたいには、絶対に上手くいかない。」


「10人。」


「はい?」


「何の人数かわかる?」


「探索者のパーティーの人数ですか?」


「違う」


「今年に入ってから死んだ国選探索者の数だよ。」


「国選は元々それなりにやってる人から選ばれるんだけど、それでも死ぬ人は死んじゃう。」


「もちろん君に護衛はつけるけど、下手こいたら死ぬよ。覚悟はいいね?」


「……はい、やらせてください。」

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手にしたスキルは「災厄」だった。 上本利猿 @ArthurFleck

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