第8話 異常
「………は?」
「だから……もういいや、面倒だからはっきり言うわ。」
心底怠そうな仕草をしながら、笹原はとんでもない事を言い放った。
「あんたの親御さん、殺されてるよ。」
「……何だって?」
「ちょっと笹原さん……! 何言ってるんですか!?」
藪から棒に無茶苦茶な事を言われて、俺はもう辟易してしまった。
こいつは頭がおかしいんだ。
「遺体が無いのだってそうだ、何故だと思う? 遺族に到底見せられない状態だか——」
だから、何を言われても適当に帰らせるつもりだった。だけど———その言葉だけは聞き逃せなかった。
両親をいけしゃあしゃあと愚弄するように喋り続ける笹原の顔面を、俺はしっかりと怒りを込めて殴り飛ばした。
「グブッ……! ここで殴ってくるか…クソっ……鉄の味する……。」
「まあ……また後で説明するよ。ちょっと早過ぎたか。」
「ごめんなさい。本当に。」
クソ野郎は言いたいことだけ言って焼香もせずに帰り、そんな彼を美杉は詫びた。本当に申し訳なさそうに。
彼女が謝る道理は無いのに。
「先生が謝らなくていいんです。悪いのはアイツですから。」
痛む右手を押さえながら、俺はそう答えた。
———
葬式が終わり、忌引き休暇はあっという間に過ぎていった。
教室は心なしか同情の目線を向けられているような気がして、居心地が悪い。
そんな折、昼休みに美杉に呼び出された。
コーヒーの香りが充満し、教室以上に落ち着かない空間で彼女と会話する。
「ねえ……生活は大丈夫なの?」
「え?」
「親御さんが亡くなって……お金、大丈夫かなって。」
彼女は心配そうに俺に問いかけた。
そうか。
俺は、本当に一人になったんだ。
そう考えると、今まで以上にずっと不安が心を覆う。
親族はいるにしても疎遠だ。いや、一部は仲が悪いと言ってもいい。
家は売り払わなければならない。
俺はこれから、自分自身で生きていかなければならなかった。
当面の生活だけじゃない。これから、ずっと先の未来さえも。
まるで広い海で身一つで投げ出されたような気分だ。
どうすればいい。普通のバイトじゃダメだ。
勉学も必要だが……金が必要だ。生きる為に。
「……………」
バイトの当てはあるが…それだけは選びたくなかった。
でも…選ばなければならない。
沈黙。葛藤。逡巡。
最悪な選択肢を選ばなければならない。
俺は向き合わなければならない。
俺から平凡な人生と、両親を奪った、ダンジョンに。
「……笹原さんと、お話しさせてくれませんか。」
「……本当にいいのね?」
「はい。」
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